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衣替えパラノイア

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第一章 着せ替え狂想曲 1

 経緯はともかくとして、実際に一人「犠牲者」が出たということは、それだけジョージアたちが本気であることを意味していた。
 となれば、もはや残された手段はおとなしくジョージアの指示に従うか、強行突破するかの二者択一しかなかった。

「まあ、『倉庫の管理者』が、衣服の着用を『義務づけている』んだとしたら、まあ、従うしかないよねぇ」
 そう言ったのは、清泉 北都(いずみ・ほくと)である。
 確かに、ジョージアはこの倉庫の管理システムの統括者であるから、少なくともこの現場における責任者であることは間違いない。
「バイトとはいえ、引き受けた仕事はやらないといけないし。まして警備ロボットを壊すわけにもいかないしねぇ」
 そう苦笑しつつ、パートナーのリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)を伴って、ジョージアのもとへと向かう。
「では、あなたはこれに着替えてください。そちらのあなたは、これに」
 ジョージアが二人に渡したのは、北都には蒼空学園の男子新制服、そしてリオンには女性ものとおぼしき着物だった。
「うん、これくらいなら別に構わないよ。で、着替える場所は?」
「あちらのロッカールームを使ってください」
「ありがとう。それじゃ、着替えてくるよ」
 それだけ言って、何でもないことのようにロッカールームへ向かってしまう二人。
 その様子を見ていると、何だか本当に何でもないことのように思えた……のかどうかはわからないが、結果的には大半の者がジョージアの指示に従う道を選んだのだった。

「ちょ、ちょっと待て、俺にこれを着ろって言うのか!?」
 ジョージアから渡された服を見て、ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)は思わずそう叫んでいた。
 どちらかというと男物の服をよく着ており、最近ようやっとスカートも履くようになった、というレベルのアイリにとって、ジョージアから渡された服は少々ハードルが高かった。
 それもそのはず、彼女が手渡されたのはゴスロリのドレス、それもかなり丈の短い超ミニスカのドレスだったのである。
 おとなしめのスカートが精一杯のところから、ホップ、ステップを通り越してのいきなりのジャンプアップ。
 さすがに恥ずかしいとは思うのだが、それと同時に、内心では「着てみたい」という気持ちも巻き起こっており……結局、「着てみたい」という気持ちが「仕事だから」という建前を味方につけて押し切る形となった。
「仕方ない、着てやるけど……か、勘違いすんなよ! これはあくまで倉庫に入るためであって、別に俺が着たいわけじゃねーからなっ!」
 そう言いながら服を受け取り、ロッカールームへ向かう彼女の後ろ姿は、どう見ても嬉しそうなのであった。

 しかし、全員が全員「着たい」と思っている服が当たるわけではない。
「……バイト代を手に入れねぇと生活できねぇからなぁ……」
 渋々といった様子でジョージアのところに来た瀬道 聖(せどう・ひじり)は、渡された服を見て目を丸くした。
「おいおい……袴とかぁ……」
 特にそう変わったところのない袴である。
 これが聖でなければ、まあ当たりの部類か、少なくともハズレと認識することはなかっただろう。
 だが、彼にはこの「袴」というものにはどうにも嫌な思い出があった。
「やめてくれよぉ……クソ親父とやりたくもなかった剣道を思い出すじゃねぇかぃ……」
 彼にとって袴と言えば剣道であり、剣道と言えば実家の道場であり、道場と言えば、厳格すぎて彼と全くそりの合わなかった父親なのである。
 とはいえ、初対面のジョージアにそれを全て察せというのも無理な要求である。
「……生活費の為だぁ……文句は言ってられねぇしねぇ……」
 彼は一つため息をつくと、おとなしくその袴を受け取った。

「指定された服を着ないといけないなんて聞いてないけど……」
 そう言いながらも嬉しそうにジョージアのところにやってきたのは、聖のパートナーの幾嶋 璃央(いくしま・りお)だった。
「どうせなら、普段は着られないようなかわいい服がいいかなぁ」
 璃央はそんな期待をしていたのだが、実際に渡されたのは。
「えっ……? カエルの……着ぐるみ……?」
 すでに服の範疇に入るかどうかすら怪しいシロモノに、璃央も、周囲の面々も目が点になった。
「……って、ちょっと聖! なに吹き出しそうにしてるのよ!?」
「いや、悪い。確かに普段は着られないし、かわいいっちゃかわいいかと思ってよ」
 確かに言いようによっては希望と全く合っていないとも言えないが……もちろん、それがフォローになるはずもない。
「聖っ!!」
 璃央が大声を上げると、聖は逃げるようにロッカールームへと向かったのだった。