|
|
リアクション
第8章 ミルザム救出劇!?
一方、
ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)誘拐犯として、
追い回される羽目になった伏見 明子(ふしみ・めいこ)は。
「わぁぁぁぁん! 誰もマトモに話し聞きやしねえええええ!」
ベルフラマントの隠密と強化光翼の機動性を駆使して逃げ回っていたが。
「くすんくすん。
こうなりゃヤケだ! 信用出来る人に直接預けにいってやらー!」
しかしそこに、
「インフィニティ首領」こと、
神条 和麻(しんじょう・かずま)と、
エリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)が追いすがってきた。
(万博を盛り上げる為のサプライズとして
ミルザムさんに協力してもらっていた……。
なのに、気付いたら誘拐したミルザムさんが誤解とは言え誘拐された。
ここは、協力してなんとかしなければ)
和麻は、明子を説得しようとする。
「伏見さん……だったかな?
そのままミルザムさんを持っていても勘違いされ続けるだけだ」
「そりゃそうでしょー!」
「だから、一般客がほとんどいなくて
人目につきやすい所に寝かせておいてから、
ほとぼりが冷めるまで逃げ続けた方がいいと思う」
「いまさらそんなわけにいくかー!
だいたい、ミルザムをどっかに寝かせておくってどういうことよ!
そんな危険な事できるわけないでしょうが!」
「あっ、待て!」
交渉決裂で、
和麻はさらに明子とミルザムを追う羽目になる。
★☆★
「お客様の中にロイヤルガードはおられませんかぁぁぁあ!?」
必死な明子の叫びに、
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)と
リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が現れる。
「何やってんだよ。
明子なら間違いはないと思うけどよ……。
ミルザム、ちょっと事情聞かせてもらっていいか?」
シリウスは、ミルザムの意思を確認する。
「よくわかりませんけれど、
気づいたらこんなことになっていて……。
私にもなにがなんだか。
でも、明子さんは悪意はないと思います……」
「そっか、なら、なんとか軟着陸させようぜ」
シリウスは提案する。
「カバーストーリーは……こんな感じでどうだ?
『伏見 明子はミルザム・ツァンダを解放して犯人を追いかけている。
一緒にいるのはミルザムでなく、仲間のシリウス・バイナリスタ。
結局、犯人は見つからず二人は途中で引き返してきた』
……要するにオレがミルザムに変装して皆を安心させ、
ミルザムにはオレに変装して明子と最初から一緒にいたってことにしちまうワケだな」
「わたくしも、シリウスになったミルザム様に、護衛として同行します。
『ミルザム様とティセラお姉さまに似た二人組』
と世間はわたくしたちを認識しているようですから
わたくしが傍にいた方が目はごまかせるのではないかと」
リーブラも言う。
「なるほど、皆さんに安心していただくための作戦ですね」
うなずくミルザムの頭に、声が響く。
(ミルザムさん!)
風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)がテレパシーで話しかけてきたのだ。
(この事件を、
空京万博のアトラクションの一つとして参加者に認識してもらいましょう!)
(え!? アトラクションと思ってる方がいるんですか!?)
(今回は幸いにも、というか……。
そうでないと色々な方の
責任問題、社会問題、外交問題に、
場合によっては発展してしまいかねないんですから……。
そういったわけで、協力してもらえないでしょうか)
(なるほど、そんなことになっていたんですね……)
ミルザムは事情を聞いて、
この事件がアトラクション半分、事件半分で受け取られていることを知った。
★☆★
そこへ、さらに、
水上 光(みなかみ・ひかる)が現れる。
「ボクも元クイーン・ヴァンガードだよ。
大丈夫、ミルザム様はボクに任せて。
責任もってお守りするから。
ほら、すぐ追手が来ちゃう」
そう言って明子を説得するが。
「えっと、でも今のシリウスとの話は……あれ?」
明子は混乱して判断力が鈍っており、
動くのが遅れる。
そうしている間に、銃型HCにさらに、連絡が入る。
やはり、元クイーン・ヴァンガードの、
シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)だった。
「シルヴィオまで!?」
明子の声が響くが。
「とりあえず落ち着いて、声ダダモレになってるから回線絞って」
シルヴィオが、優しく話し掛ける。
「やましい事がなけりゃ、逃げる事もないぜ。
俺は君が元同僚だって証言出来るし、ミルザム様だってそうだ。
ミルザム様のお気持ちを確認してくれないか?」
「ミルザムは……これ以上、騒ぎを大きくはしたくない、のよね?」
「ええ」
ミルザムはうなずいた。
「よし、そちらに行って合流する」
しばらくして、シルヴィオが、
アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)や、
甲斐 英虎(かい・ひでとら)、
甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)と一緒にやってきた。
「ミルザム様、良かった……。お怪我はありませんか?」
アイシスが、ミルザムに駆け寄った。
★☆★
一方、和麻は、たいむちゃんタワーの屋上に上って、宣言する。
「警備の者達よ、
今回はなんかよくわからない事になったが……万博もちょっとは賑やかになっただろう」
そして、インフィニティ印の信号弾を打ち上げて、
エリスの電光掲示板付き飛空艇に飛び乗って逃げ去る。
「あっ!」
英虎は、愉快犯だと考えていた和麻を捕まえようとしていたが、
相手の行動を読み違えていたので取り逃がしてしまう。
「あなたは、ご自分でミルザム様を誘拐したと宣言したではないですか。
嘘や愉快犯としてもやって良い事と、悪い事があります」
ユキノは、半べそになりつつ叫ぶ。
「悪い事をしたら、ごめんなさい。はとても普通の大切な事です。
悪い事だと分からないのなら
ちゃんと考える必要があると思います!」
届くかどうかわからなくても、溢れ出す言葉を止めることはできなかった。
「本当に平気な顔で大事な人や、
周囲の人に顔向けができますか?
みんな自分がする事には
ちゃんと【理由】と【責任】を持っているのでございます……
ミルザム様は、ミルザム様は
とても頑張っていらっしゃるのに……どうしてっ」
ぽろぽろと泣き出すユキノに、
「優しいのね、ユキノさんは……」
アイシスが、ハンカチを取り出してなぐさめる。
★☆★
こうして、
なんとか、事態の収束が見られた際。
「ごめんっ!
迷惑掛けてほんっとーにごめん」
明子が、ミルザムに土下座した。
「顔を上げてください、明子さん」
「なんとか、怪我とかさせないですんだけど、
ほんっとーにごめんね。
私、貴女の護衛だったこともあるってのに……」
ミルザムは、なおも地面に頭をこすりつける明子に苦笑すると、
集まった一同に向き直る。
「皆さん、私を助けてくださってありがとうございました。
今回は、大変ご迷惑をおかけいたしました」
ミルザムも、深く腰を折って一礼した。
「ミルザム様、謝らないでください」
シルヴィオが言う。
「今回の件ですが、明子さんについては、
私を助けてくださろうとしていたのは事実です。
それに、【インフィニティ首領】の方も、どうやら明確な害意があったわけでは……」
ミルザムが、そう言って、弁明を行うと。
「なにをおっしゃいます、ミルザム様!」
そこに、
青葉 旭(あおば・あきら)と
山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)が到着した。
旭は、厳しい顔で、きっぱりと言った。
「行政トップの立場である以上、
法をないがしろにしては問題ではないかと。
ミルザム様は運よく助かりましたが、
命に関わる事態が無かったとも言いきれません。
それにもし今後、誘拐事件の度に情状酌量などと言っていては、
いずれ不幸な目にあう者も出かねない。
一罰百戒、今後の治安のためにも厳罰にするべきです。
2人の犯人共にです!」
そこへ、
シャルロット・ルレーブ(しゃるろっと・るれーぶ)
……いや、試作型改造機晶姫 ルレーブ(しさくがたかいぞうきしょうき・るれーぶ)が現れた。
「イトモ簡単ニアッサリト誘拐サレタノモ問題デスガ、
更ニ誘拐サレタアトニ誘拐サレタノデス。
酌量ノ余地ガアルナラバ誤解ヲトクベキデハアリマセンカ?」
ルレーブが、提案する。
ミルザムは、しばらく黙っていたが、決意したように言う。
「たしかに、まったく罰をあたえずにお二人を自由放免にする、
というのは、難しいかもしれません」
ミルザムは、明子の顔を覗き込んで、じっと見据え……笑顔になる。
「ミルザム?」
★☆★
きょとんとする明子に、ミルザムが与えたのは、
空京万博での奉仕活動だった。
また、和麻も、結局、目立つ乗り物に乗っていたせいで捕まり、
奉仕活動をさせられることになった。
別件で犯罪を犯した者への「24時間トイレ掃除」よりは軽いが、
契約者にしかできない重労働が割り当てられることになる。
これを持って、放校処分は解除としようというのだ。
「人間は、間違えることがあります。
誤解されてしまうことも、誤解してしまうことも。
しかし、私のことを考えてくださった明子さんを、私は信じたいんです。
『万博を盛り上げようとした』という和麻さんのことも」
「ミルザム様!
それでは甘すぎます!
犯罪者をつけあがらせて、公正な人間が損をする社会。
そのようなものをお望みですか!」
旭が、なおも食い下がろうとするが、
ミルザムはきっぱりと言う。
「これは、ミルザム・ツァンダとしての判断です。
間違いだというのなら、私も裁かれる立場となりましょう」
旭は沈黙する。
ミルザムの決意が、本物だということは、その眼を見ればわかった。
★☆★
「ミルザム様、今の生活は充実してますか?」
英虎が、真剣な視線でミルザムに問う。
「ええ、とても」
ミルザムは、曇りのない笑顔でうなずいた。
「なら、よかったです」
英虎も、同じように曇りない笑みを浮かべる。
「……貴女は、やっぱり私が惚れた人だったわ」
地面に正座したままで、明子が、天を仰いで言う。
「かっこよかったじゃねえか。
さすが、オレにそっくりと言われてるだけのことはあるな」
シリウスが、ミルザムに白い歯を見せて笑った。
「あなたが目指した『誰もが手を取り合うことのできる平和な世界』、
立場が変わってもそれを実現したいって気持ちは変わりません」
光も、ミルザムに近づいて言う。
「何のために戦うか、悩んでた時期もあったけど……
ボクはボクらしく、やってみようかと思います」
「はい、私も、私のやり方で、戦います」
光はミルザムと、握手をかわした。