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リアクション
第9章 いとおしい時間
■□■1■□■ カナンの人々と
すべての誘拐事件は無事に解決した。
パラミタパビリオンの「カナン〜約束の地〜」のイベント
「100人のカナン再生記」で、
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と
空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は、
事件が解決するまで棚上げにしていた、
ネイト・タイフォンや神官ニンフとの交流をすることにした。
リカインは、
ふと思い立って、聞きたかったことを聞くことにする。
「あなたは、自分の気持ちを秘めたままでいいの?」
ささやかれて、ニンフはリカインを見返す。
「なんのことですか?」
「あなた、私の状況に、なんとなく似ている気がするの。
このまま自分自身や想いを枯らせてしまうのではなく、
それを花咲かせてみたいとは思わない?」
ニンフは、笑みを浮かべる。
落ち着いた、大人の女性の笑みだった。
「ありがとうございます。
けれど、私の心は、カナンの民とともにあります。
神官として、カナンのために生きる道を、私は選んだのです。
そのことに、迷いも後悔もありません」
その瞳を見て、リカインは理解した。
神官ニンフルサグが、
日々、心の充実を得ながら、その使命を果たそうとしているのだということを。
「そう」
リカインは笑った。
「それならよかったわ」
★☆★
「狐樹廊ちゃん! このおじちゃんとおねーちゃん、だれー?」
「東カナン12騎士の1家、タイフォン家の騎士にして、
12騎士の長であられる、ネイト・タイフォン様と、
神官ニンフルサグ様ですよ」
空京の町の精 くうきょうに、狐樹廊が紹介する。
「くうきょうはくうきょうだよ!」
「そうですか、くうきょうさんですか」
「うん、くうきょうなの!」
7歳くらいの子どもの外見をしている、地祇(ちぎ)のくうきょうと視線を合わせたネイトは、
くうきょうにだけ見えるように面白い顔をして、笑わせる。
「あははは!」
「まあ、ネイト様」
ニンフも、にっこりと笑って談笑に加わる。
3人の様子をほほえましく見守る狐樹廊ではあったが、すっと目を細めて言う。
「ところで、お二方。
くうきょう様は空京の意思そのもの、ともいえるお方。
しかしなれど、まだ年お若く、様々なご経験が必要です。
ついては、アガデと空京を姉妹都市として、先達のご教示を賜りたく……」
「くうきょう、あがでちゃんと姉妹になるの?」
「はい、まさにそんなところでしょうか」
しれっと言う狐樹廊に、
「ははは、空京の地祇さんたちは本当に面白いことをおっしゃいますね」
「いえ、冗談では……いえ、もちろん、冗談です」
ネイトに一笑に付されて、狐樹廊は、時期尚早かと、提案を取り下げる。
「まずは、くうきょう様がカナンの高官とお会いできただけでも、よしといたしましょう」
とはいえ、単に子どもが遊んでもらっているだけみたいなものなのだが、
腹黒い笑みを浮かべる狐樹廊であった。