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リアクション
第2章 ラストの海の狩 story2
「列車の修理とか、駅舎内の内装工事が終わったらパーティーやるの?」
御神楽 環菜(みかぐら・かんな)とメールやりとりしているエリザベートの携帯の画面を、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)がちらりと覗く。
「今回のお仕事の分が終わったらですねぇ〜」
「せっかく食堂車があるんだし、今から食材も確保しなきゃね!まぁ…いろいろと我慢したり、とか大変なことがいっぱいあるけどね」
ここで透乃が調達する食材といえば、あの猫サメなのだが、パートナーの緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の鎧貝で理性が今にも吹っ飛びそうだ。
彼女的に我慢しなければいけない大変なことといえば、傍にいる陽子を狙わないことだ…。
「この時期といったら、クリスマスパーティーですね?お洋服はやっぱりサンタさんでしょうか♪」
どんな衣装を用意したらいいかと明日香はカップを手に、エリザベートのちびっこサンタ姿を想像してみる。
「明日香が作ってくれるなら着てみたいですぅ〜」
「はい♪エリザベートちゃんがここの監督を終えたら、準備しますね」
「じゃあ私たちは食材の確保にいってくるねー!」
「透乃ちゃん、食料調達もいいですけど、発掘の方を優先させてくださいね」
「分かってるって♪」
軽く返事を返すと、貝殻ビキニ姿でパラミタ内海へダイブする。
「レンタルのダイビング用品でも、光波の骨伝動で会話出来るけど。動きやすさを考えるとこっちのほうが便利だね」
酸素タンクが必要がないため交換する手間もなく、ウォータブリージングリングのおかげで身軽に泳げる。
「大物いっぱいみーっけ!」
トマスたちが仕掛けた網から逃げ出したニャ〜ンズをさっそく発見すると、廃自転車と同じくらいの重さの石を片手で持ち、めいっぱい力を込めて石を後頭部へ殴りつける。
その衝撃に“ギニャアァアッ”と悲鳴を上げた猫サメだったが、尾ビレを揺らしくるりと回転し、彼女に肉球でビンタをくらわす。
ファァアアァア…!!
怒りのあまりに毛を逆立て、透乃に突進する。
「と、透乃ちゃん!」
「来ないで、陽子ちゃん。これは私の戦いなんだからっ」
傍に寄ろうとする陽子に片手を向けて止め、向かってくるニャ〜ンズを見据える。
近頃たいした怪我もしないのに、陽子が自分を心配しすぎたり、無力化させてから敵に留めを刺す役割をさせたりしている。
確実に敵を倒すための手段の1つでもあるのだが、透乃にとっては自分の力を信じてもらえてないんじゃないかと思えるようだ。
「どーんっと突っ込んできなよ、岩場にでも弾いてあげるからさっ」
龍鱗化で肌を硬質化し、突進してくるニャ〜ンズを不壊の堅気で弾き飛ばそうとするが…。
「―…ぇえっ!?そ、そんな〜っ、うわぁあぁああーーっ!!」
猛スピードでぶつかってきた衝撃を弾ききれず、猫サメだけでなく自らも砂の中へ突っ伏す。
「ぺっぺっ。―…まぁ、あれだけ殺れば、そう簡単には倒せないか」
口の中に入った砂を吐き、殺気立つ海のギャングを睨む。
シャァアアァアッ!!
殴られた相手もぶちキレてしまい全身の毛を逆立て、尾ビレでべしべしと透乃をぶっ叩く。
叩いたニャ〜ンズも再び砂の中に弾かれたりするが、怒りのあまりに我を忘れて彼女へ迫る。
「ィタッ!ん〜のぉっ。食材のくせに抵抗するなんて…うわっ、イタタッ」
爪とぎされているかのように、ガリガリバリリッと引っ掻かれる。
「1度殴っても倒れないなら、倒れるまでぶん殴ってやるんだからっ」
ゴッ、ドゴンッ。
金剛力で頭の天辺を殴り、頭蓋骨を砕く。
「素材が痛まないうちに、さっそく冷凍保存しましょうか」
尻尾すら動かなくなり、食材となったものを陽子は聖杭ブチコンダルで細かく刻み、いつものようにブリザードの冷気で凍らせて水面へ浮かび上がらせる。
「この程度なら、私1人でもやっつけられるね!」
相手が猫サメだけっていうのもあったが、透乃は浮かび上がってゆく肉塊を見上げる。
「―…透乃ちゃん。私の力って必要ですか?なんだか1人で戦いたいように見えるんですけど…」
「えっ!?う、う〜ん…」
不意に問いかけられ、答えに困った透乃はポリポリと頬を掻く。
「もちろん、邪魔するつもりはありません…」
イルミンスールの森でトラウマの幻影と向き合っている時、透乃は彼女を信じて手を出さなかった。
「透乃ちゃんが1人で戦いというのなら、私はそれを見守るだけですから」
戦えば傷つくのは当たり前のことだ。
しかし、透乃が傷つくことを嫌だと思うことが、彼女を信じていないように見えていたかもしれない。
不愉快な思いをさせてしまったのでは、と感じた陽子はせめての償いとして素直に鎧貝を着ている。
「でも、なんというか…。こうして傍にいるのに、頼られないのも寂しい気がします」
「えへへ…行動だけで示すやり方って案外難しいなぁ」
もっと私の力を信じてほしかっただけなんだけど、あまり伝わっていない様子…。
「あのね。私って弱った相手を倒すだけって、あまり性に合わないみたいだからさ。―…それで、…うわぁんっ、言葉にするのも難しいっ」
「透乃ちゃんのことは、ずっと信じていますよ?ですけど、私たちも共に戦っているんですから、もっと頼ってくださいね」
独りで戦うのではなく一緒に戦いましょう、と微笑みかけた。
「でもっ、最近の陽子ちゃんは心配しすぎだよ?」
「それは…その、大切な人を傷つけられた怒りみたいなものですよ!」
「ん〜、本当にそれだけー?」
「じゃ…じゃあ、透乃ちゃんは私が傷ついたらどう思います?」
「まぁ、いい気分はしないけどね」
「ですから、その気持ちと同じようなものなんです」
「む〜……。そーゆうことにしておいてあげるよ。1人でやってみたいっていう気分もあったりするから、その時は一言言うからよろしくね!」
若干腑に落ちないような気がするものの、自分の力を信じてくれてないわけじゃないと、分かっただけでもよしとしておくことにした。
「―…なんだか、海水が薄っすらと赤く見えるんだが、気のせいか?」
霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)はフタバスズキリュウに乗り、発掘現場に向かいながら、だんだんと海水が赤く染まっていく光景に眉を潜めた。
「気のせいもなにも、ニャ〜ンズを細かくして浮かばせたからじゃないの」
どんな惨劇が起こったのか、分かっている月美 芽美(つきみ・めいみ)は当然のように言い放つ。
見てもいないのに分かったのは、いつもの如くパートナーの仕業だろうと予想してのことだ。
「向こうは2人に任せて、私たちは発掘を始めましょう」
人に使われることのない貴族の芽美にとって、労働というものは新鮮味があるものだ。
苦労知らずなうえに、働く体力すらもない者であれば数分も経たないうちに、疲れた休みたいなどと喚くだろう。
だが芽美は文句1つ言わず、黙々とチェインスマイトで掘り進めている。
「長時間、顔につけるとちょっと邪魔よね…」
陽子と違い、鎧貝を着る恥ずかしさなんて微塵もない芽美だったが、ポータラカマスクをつけて作業することには、少し不満を感じている。
「まぁ面倒な手間を考えると、こっちの方が楽だけど」
それでもボンベを背負うことなく、交換しに浜辺へ戻る手間も省けるからと、つけている。
「やっちゃん、そこにあるハンマーを投げて」
「いろいろあるけど、どれだ?」
「片側の先が尖ったやつよ」
「ん、これだな」
ヤシの木ヘッドライトで道具入れを照らしながら探し、小さなハンマーを掴んで芽美に投げ渡してやる。
「ありがとう、やっちゃん」
岩壁と車体の幅が狭すぎるため、ゴールドマトックでは傷つけてしまうだろうと思い、ハンマーに持ち替えた。
「(私こそ、ありがとうと言いたいーーーーっ!!)」
フタバスズキリュウに乗っている芽美が、ライトのおかげではっきりと見える。
彼女のボディーを見上げた彼は、盛大に鼻血を吹き出す。
前よりも下からのアングルのほうがかなり凄かったのか、海水を真っ赤に染めた…。
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