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第6章 まだまだ残っている埋没した客車 story3
「んー…ん〜…。ごめんよー、沈めないでくれぇえ〜っ」
浜辺に転がったままのアキラは、海に沈められそうな悪夢にうなされている。
「……はっ!」
ようやく目が覚めると、作業担当者は食事を終えて浜辺へ駆けていた。
「発掘作業が終わるまで、どれくらいかかりそう?」
「もうちょっとかかるかも。でも日が暮れる前には、何両か運べると思うから待っててね」
「おー、分かったー!」
現場へ戻っていくレキたちにアキラが手を振る。
「あぁ〜…。この発掘も、もうすぐ終わりかー…」
さらば、青春の夏!と海に向かう美女たちを眺める。
残りの季節を過ごすための心の支えにするべく、ステキな水着のねーちゃんをその目に焼きつける。
脳内メモリーに残そうと、名残惜しそうに見つめていると…。
「どーしてそんな顔ばかりするのかなー?」
「―……〜〜っ」
美女を見る度にへらへらとだらしない顔つきになるアキラを、恨めしそうに睨む。
「まだかかるっていってたから、今のうち仮眠してこよーかな〜っと」
何も言わずただ恨めしそうに見つめ、じりじりと迫る少女の視線から逃れようと、テントへ駆け込んだ。
発掘現場では、日が沈まないうちに発掘を終わらせようと、泰宏や芽美がチェインスマイトで堀り進んでいる。
「陽子ちゃん、リビングアーマーをこっちの手伝いに回してくれる?」
「私たちのほうは細かい作業のほうが多いので、そっちに行かせますね」
2人の手伝いをさせようとリビングアーマーに命令し、陽子の方は連結器の下の石に穴を空ける作業に取りかかる。
「こちらの砂利も除けましたわよ」
フックの間に詰まったものをメテオ・ブレイカーで除けた魅華星が、テレジアたちを呼ぶ。
「はい、今行きます!」
「3両目と4両目の間を外したら、千鶴を呼びに行きましょう、テレサ」
「全て終わってからよりも、その方が効率がよさそうですね」
「私は後ろからやるから、テレジアは前からお願いね」
「分かりました」
セレンフィリティに頷くと、ゆっくりとネジを外し始める。
「魅華星さん、こちらの除去作業もお願いします!」
連結器に詰まった砂利を斬り払ってもらおうと、陽子が手招きする。
「ふぅ、とても地味な作業ですこと…。でも、わたくしでなければ、簡単に除けることは出来そうにないですものね?」
砂利ごとき薙ぎ払ってさしあげますわ、と口元に片手を当てて微笑する。
「お下がりなさい。石などにぶつかっても知りませんわよっ」
びっしりとフックの間に詰まった小石はメテオ・ブレイカーに斬りつけられる度に、ピキキ…と徐々にヒビが入っていく。
「刀真、SPリチャージをかけてあげて」
「光条兵器は魔法攻撃ですから、物理的なものを除ける時などは大変なんですよね」
斬る度に消耗していく様子に、刀真は魅華星のSPを回復してやる。
「あっちはどこまで進んだかしら?」
前の車両はどうなっているのか月夜がカメラを向けると、ちょうどレキやアウレウスが3両目の前まで簡易レールを敷き終わったところだ。
「そろそろ引き上げチームを呼んだほうがいいかな?」
「あっ、私が行くわ」
2つ目の連結器の解除を終えたテレジアが、千鶴たちを呼びに向かう。
その頃、コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)はニャ〜ンズか好みそうなカツオブシを水に浸して丸くし、フライパンでさっと揚げたカツオブシボールを袋に詰めている。
「これなら、餌にも玩具にもなりそうね」
「我は洞窟の右側でニャ〜ンズを引きつけ役をしよう。コレットは左側を頼む」
「了解よ!」
ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)に頷いたコレットは酸素タンクを背負う。
2人が海へ入った後、テレジアは陸に戻り、パートナーの元へ駆け寄る。
「千鶴、引き上げ準備が終わりそうなので、洞窟へきてください!」
「はーい、テレサちゃん!」
「アキラ、引き上げ作業が始まるヨ!」
男子用のテントの前で、アリスが大きな声で呼びかける。
「今、用意するから待って!」
飛び起きたアキラは慌ててテントから出る。
「今度もライトで合図をくれるのかな?」
「ライトの合図って?」
「最初の引き上げの時は、海面から高度を上げたり、浜辺へ運ぶように指示をもらったんだ。空から引き上げる時は、ライトを2回点滅させてもらったよ」
どんな指示をもらっていたのか千鶴にアキラが説明する。
「なるほどね」
「引き上げる前にロヒカールメの機体に、登山用ザイルを結びつける作業をしなければいけませんね。私がライトを1回点滅させたら、洞窟の前で待機してください。2回点滅させたら後ろに下がって、引っ張り上げる合図です。そして、3回点滅させたらその場で止まってくださいね」
「うん…分かったわ!」
千鶴は頷きながら聞きメモを取る。
「では、先に現場へ戻りますね」
合図を確認し終わるとテレジアは浜辺へ駆け、パラミタ内海へダイブする。
「ふぅ…。銃型HCの防水加工だけでかなり時間を使ってしまったな」
耐水性を施そうと、先端テクノロジーの作業をしていたため、予定よりも時間を使ってしまったようだ。
「間に合いそうですの?」
布に迷彩塗装を施している天城 一輝(あまぎ・いっき)に、ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)が声をかける。
「他の者たちは今も現場で頑張っているんだし、間に合わせてみせるさ」
ローザの方へ振り返らず、海の色に近い色彩を布に施しながら言う。
「なんだか地道な作業ですわね」
せっせと内職しているようにも見えるが、それにしても淡々と続けるには、かなりの根気が必要だろう。
「発掘が終わったらどうするんですの?」
「進み具合の報告をもらったら、考えようか」
「そういえば…。ひと段落ついたら魔法学校の校長が、クリスマスパーティーをしたいと朝方言っているのを聞きましたわ」
「魔列車に乗ってパーティーか、それもいいかもな。そのためにはとりあえず、やるべきことをやらなければな」
迷彩塗装を施し終えた一輝は、その布とはんだ付けセットを抱えてシートの上から立ち上がる。
「1応、ローザたちのも防水加工しておいたが、長くは持たないだろうから気をつけてくれ」
「今日は2両分引き上げるようですし、その後でまた加工し直したらいいんじゃないですの?」
「おいおい、俺を眠らせない気か」
早朝から作業しているのに、さらに夜なべまでをしろと?と苦笑する。
洞窟に入ると3両目の引き上げ準備が行われている。
「客車の上に被せるの?」
「布の端に金具をつけておいたから、特に問題はないはずだ。あ…っ!!」
首を傾げるレキに言い、あぶくを集めて布の中に空間を作り、はんだ付けしようとするが、後ろ側の布がふわりと浮かび海水が入り込む。
「えっとー…ボクが後ろ側を押さえてあげようか?それでも、はんだ付けするのは難しそうだけどね」
「端というか、中側にするべきだったか」
ユリウスに意見を求めようと、銃型HCでメール連絡をする。
「どうした?」
「効率よく客車を布で覆う方法がないかとな」
「ふむ、この端にある金具を車体につけたいのだな?」
「あぁ、そうだ」
「―…なんというか、持ち上げて浜辺へ運ばなければならないから、そのロープの部分は見えてしまう気がするのだが。それはよいのか?」
車体を隠してもロープが見えてもよいものだろうか、と言う。
「見えにくくしても、消せるわけではないからな。その布はまだ何枚かあるのか?」
「1応、予備はあるけど…」
「布を被せた上に、予備の布を登山用ザイルに巻きつければよいのでは?」
「なるほどな…」
「俺は準備だけしておくか。誰かロープとか持ってないか?」
「ボクは持ってないなぁ、聞いてみるね。―…ねぇ、列車の引き上げに使えるものとない?」
手頃なロープでもないか、奥で作業している透乃に声をかける。
「登山用ザイルならあるよ、レキちゃん」
「ありがとう!」
受け取ったそれを静麻へ渡しにいく。
「2本もらったよ」
「よし、これに一輝が迷彩塗装した布を巻くか」
予備の布を破り、ぐるぐると巻きつける。
「それなら、車体を支える真ん中と前から引っ張る分だけでなく、吊り上げる分もいるな」
一輝は空からも引き上げを手伝ってもらおうと、ローザが持ってきた登山用ザイルに巻き始める。
「向こう側を押さえててくれないか?」
「分かったー!」
レキは一輝と客車に大きな布を被せ、車体が登山用ザイルで固定されるのを待つ。
「我は持ち場に戻るとするか」
問題が解決したのを見届けると、ユリウスは持ち場へ戻った。
「縛るなら手伝うよ。まずは、ぐるーっと真ん中から巻く感じにしようか?」
「そうだな。端を持ってるから頼むよ」
静麻は登山用ザイルを握り、ボンベが必要ない透乃に車体の下に潜ってもらう。
「何度か巻いたほうがいい?」
「強度を考えるとその方がいいな」
「(むっ。静麻殿の背後に、何やら小さな生き物がっ!)」
ニャ〜ンズの襲撃を警戒している保長の視界に、ふわふわとした海の生物が入り込む。
それは三角の尾ビレをふりふりと揺らし、パートナーに迫る。
小さな生き物の全身は、柔らかそうな毛で覆われている。
「あれがニャ〜ンズでござるな。作業の邪魔はさせぬでござるよ!」
保長はポーチからカツオブシを1枚取り出し、ひらひらと揺らして見せた。
その香りに誘われ、猫サメがくるりと振り返る。
「ほらほら、美味しいカツオブシでござるよー。―…なぬっ!?」
小さなギャングは彼女の手からそれを奪い、さっと離れる。
「ぬぅ…。小さいとはいえ、すばしっこいでござるなっ。ならば、これはどうでござるか!」
獲物を食べ終わり、再び作業員の邪魔をしようとするニャ〜ンズを寄せようと、大きなボールをポーンと放り投げる。
ちびっ子は、みゃ、みゃんっ!と鳴き、コロコロと転がるボールを追いかける。
「フッフッフ…。ニャ〜ンズ、覚悟っ!」
ボールに夢中になっているニャ〜ンズを両手で捕まえ、胸ヒレの裏にある肉球をぷにぷにと指で突っつく。
「肉球だけでなく、肌の方もぷにぷにでござる!それに、この猫のような鳴き声…、なんとも愛らしいでござるなっ」
手の平サイズの幼いニャ〜ンズを、ぷにぷにと突っついてぽわぁ〜んとなごむ。
「ほれ、カツオブシでござるよ」
ポーチの中にあるカツオブシをつまんで食べさせてやると…。
「あわわっ、順番にあげるから待つでござる!」
ご馳走の香りを嗅ぎつけた小さいニャ〜ンズが、保長の周りに群がってしまう。
「カツオブシは食ってもいいけど、保長の指は齧るなよ?」
助けてやろうと刹那がねこじゃらしを、ふら〜りふらふら〜と振る。
面白そうな玩具を見つけた小さなギャングたちは、目をギラつかせてねこじゃらしに飛びかかる。
「そう簡単には捕まえさせないぜ?ほーれ、ほれっ」
くるくると回すと猫サメたちもそれを捕らえるべく、回るように泳ぐ。
「なんだか楽しそうだな」
フックのリングの部分に登山用ザイルの端を結びながら、パートナーがニャ〜ンズと遊んでいる様子を見る。
「うむ、じゃれつく仕草が可愛いでござる!」
「あ…あたいは別に、頼まれたから遊んでやってるだけだからなっ」
自分までニャ〜ンズの愛らしさの虜になっているように言われた刹那は、顔を真っ赤にして怒鳴る。
「照れ隠しをするためとはいえ、怒鳴ってはニャ〜ンズが驚いてしまうでござるよ、刹那殿」
「誰が照れ隠しなんかするか!」
「うーむ…、こういう生き物は好まぬのでござるか?」
「別に嫌いでも、好きでも…。な、なんだ!?そんな目であたいを見るんじゃねぇえっ」
ニャ〜ンズに大きな瞳で見つめられ、さっと離れる。
「刹那殿、遊ぼうにゃんにゃんと言っているのでござるよ」
保長は小さな猫サメの胸ヒレをつまみ、招くようにくいくいっと動かす。
「―…フンッ!そのために来たんだし、遊んでやるから来い!」
ぶっきらぼうにそう言い、ゴム紐つきのボールをちらつかせ、紐をクギで床へ固定する。
ボールを突いて揺らすと、それも面白そうだと寄ってきた子サメたちが、ぺしぺしと叩いて遊び始める。
「そろそろ3時間経ちそうですわ」
ローザは長い髪が邪魔にならにようにハチマキでまとめ、カニの甲羅を被り、交換用ボンベを持って発掘現場へ急ぐ。
それが余計に目立つのか、妙なものを発見したニャ〜ンズが迫る。
真上を泳ぐ猫サメの視界からは、手足を動かさず泳ぐ奇妙なカニに見えるようだ。
「―…後ろにニャ〜ンズが!?」
甲羅をおでこで押されてしまい、どんどん発掘場所から離される。
救助を求めるべくローザは銃型HCでコレットにメールを送る。
「こっちに向かう途中にもニャ〜ンズが現れたみたいね!」
コレットは現場から離れていく影を見上げ、1刻も早く救助しようと彼女の元へ向かう。
「これをあげるからローザを返しなさい!」
袋の中からガサゴソとカツオブシボールを取り出し、ニャ〜ンズの方へ放り投げる。
ぽんと巨体に当り、それに気づいた海のギャングが餌にぱくつく。
「助かりましたわ、コレット」
「どこも怪我はない?」
「えぇ、ありませんわ」
「私が餌をあげてる隙に酸素ボンベを届けてあげて!」
「はっ!後、10分くらいでなくなってしまいそうですわ」
「いい子だからあっちには行かないでね?」
現場へ向かうローザからニャ〜ンズへ視線を移し、餌を与える。
無事に現場へ入れたローザの方というと、大急ぎで一輝の背のボンベを交換している。
「途中でニャ〜ンズに襲撃されて遅くなってしまいましたわっ」
「十分間に合ってるから気にするな」
しょんぼりと俯く彼女の方に軽くぽんっと手をかける。
「猫と同じような食べ物を好むようだから、もしかしたら…。匂いにつられて寄ってきたのかもな」
「ペット用の餌にカニカマもあるでござるよ」
小さな猫サメと遊んでいる保長が横から口を挟む。
「やっぱりそうか…」
ローザが狙われた理由は遊ぼうとしただけでなく、美味しそうな匂いも漂わせていたようだ。
「コレットと違い、我は騙されぬぞニャ〜ンズ!」
愛らしい姿形に騙されるものかとユリウスはパタミタイルカに乗り、洞窟に寄ろうとするニャ〜ンズに戦いを挑む。
ヴァーチャースピアで突っつかれた海のギャングは怒り、彼にニャ〜ンアタックしようとする。
間髪かわしたと思いきや、すぐそこまで尾ビレが迫っている。
「何っ!?―…うぐっ!!」
ガードしようとするがヴァーチャーシールドごと砂の中へ叩き落とされる。
「やはり、こいつは獰猛なモンスターのようだな!」
再びパラミタイルカの背に乗り、刃を向けようとすると、どこからか…。
”おのれぇええぇ…よくもニャ〜ンズを!”
と、怨念に満ちた気配を察知する。
辺りを見回してみるが誰もない。
「気のせいか?任務疲れのせいだろうか…。む、洞窟には行かせぬっ」
現場で働く者の邪魔はさせまいと、ニャ〜ンズの巨体を突きまわし、自分の方へ寄せる。
激怒した猫サメたちの相手をしているとまたどこからか、声が響く。
“1度ならず2度までも!許さん〜…許さんーー!!”
鼓膜を破りそうな大声で怒鳴られ、これにはさすがのユリウスも驚き目を丸くする。
その声にビックリしたニャ〜ンズたちはサッと洞窟の傍から離れていく。
声音の主はなんと、ベルテハイトだ。
ニャ〜ンズが傷つくところを見たくない弟に代わり、シュヴァルツのスピーカー機能を最大に上げ、彼がユリウスに向かって怒りをぶつけたようだ。
ユリウスの方は倒すつもりはなく、洞窟にいる者を襲撃されないようにしていただけなのだが、それでもよく思わず怒りを爆発させてしまった。
空気を読む気などまったくないベルテハイトに気圧される。
「うーむ…ひとまず、やつらは去ったようだが…。いや、考えないでおこう」
ベルテハイトの声を物の怪かと思いつつ、それが何なのか考えるよりも、引き続きニャ〜ンズの襲撃に備えて洞窟の傍へ戻る。
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