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リアクション
第5章 小休止タイム
「この前はかまぼこを作りましたし、今度はどんなふうに調理しましょうか…」
シートの上にある巨大な食材を目の前に、子敬は、う〜む…と腕組をして唸る。
「少々肌寒い季節ですから、ここはやはり鍋物ですねっ。となれば、ニャ〜ンズのつみれなんかよさそうです!」
陽子がぶつ切りにして海に浮かべたやつを回収したものから使わせてもらおうと、皮と身の間に包丁を入れて剥ぎ取り、骨や身、内臓を別々のボウルに入れて別けておく。
「今朝方、研いだばかりの包丁を使いましょう!」
出刃包丁で骨を叩き折り、ペットボトルの水でさっとキレイに洗い、鍋で煮始める。
「ダシを取っている間に、つみれを作らねばっ」
まな板の上に置いたブロック肉を二刀の舟行包丁で叩き、あっとゆう間にミンチにしてしまう。
ボウルに猫サメの肉と卵を入れると、野菜用のまな板で白ネギを刻んでいく。
刻まれたネギは緩やかな放物線を描き、ボウルの中へ落ちる。
「凄い…凄すぎるっ。これが料理というものなのか!?魯先生ーーーっ!!」
その魅せる包丁さばきにトマスは目を丸くした。
「フフフ、まだまだこれからですよっ」
子敬はおろし生姜を加えると、手早くかき混ぜる。
それを指で摘み、少し粘りがでたのを確認すると、片栗粉を加えて混ぜ合わせる。
「片栗粉ってそんなに入れるものか?」
「食感を楽しむためには、少し多めのほうがよいのです」
大量に作っているから多く見えるが、料理とは味だけでなく、歯ごたえも大切だろうと考えたのだ。
「念のため、タラ鍋と2種類用意しておきましょうか」
ニャ〜ンズを食べない者もいるだろうと、昆布ダシの鍋の方へ白菜や春雨などを入れ、ぐつぐつと煮る。
タラの鱗を包丁で取っていると、発掘担当者たちが陸へ戻ってきた。
「もう少しで出来ますから、しばしお待ちを!」
「うん、分かった!」
「レキ、タオルで体を拭くアルよ」
「ありがとう、チムチム。ふぅ、あったか〜い」
マスクを取り、ふかふかのタオルで顔や髪、身体を拭く。
「―…うぅ、寒いっ」
ひゅぅんっと冷たい風が吹き、レキはぶるぶると震える。
「タオルだけじゃ寒そうネ」
アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が両手を広げると、その上に橙色の焔が現れた。
降霊された焔のフラワシはふわふわと宙を舞い、寒さに震えるレキの身体の回りを飛ぶ。
「あったかいー、ありがとう!」
「私たちも温まろう、陽子ちゃん」
「はい。海から出るとやっぱり寒いですね…。芽美ちゃんも一緒に温まりましょう」
「えぇ…」
芽美も冷えきった手を焔に近づけて温まる。
その様子をアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、じっくりと眺める。
「すげー…。ボ、ボインがあんなにいっぱいっ」
特に芽美たち3人は目のやり場に困るような格好なのだが、アキラにとっては、ありがとうございます!!と叫びたくなるような光景だ。
「(あっ!アキラさんったら…)」
しかしそれはヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)にとっては面白くない状況だ。
「いいのか、あんな格好っ!丸見えに近いのに、見ちゃっていいのか!?ていうか、見るしか……はっ!?」
またもや魔性のボインの魅力に目を奪われていると、背後から怨念の塊をぶつけるような気配を感じ…。
そっ…と振り返ると、ヨンが恨めしい視線を全身に浴びせられる。
彼女は口をへの字に曲げ、呪い殺しそうな目でじーっとアキラを見る。
「―…どうしたんだ、ヨン。そんな怖い顔して…っ。ヨンは笑ったほうがかわいーよ?ほら、にこーっと笑って!」
顔中から冷や汗を流しつつ、ヨンの機嫌を直そうとする。
そんな時…。
「あら、焔のフラワシを降霊したんですの?気が利きますわね」
現場から戻った魅華星は人魚のしっぽを外し、暖を取ろうと焔のフラワシへ寄る。
「マッ…マーメイドが人にっ!?」
「アキラさん〜っ」
新たに現れた美女に目を向けた彼に対して、ヨンはさらに恨めしい視線を向けたまま、ゆっくりと迫る。
「へっ!?ちょっと…ヨン。笑顔のほうがかわいーって…」
詰め寄るヨンの視線に押されるかのように、退いてゆくと…。
「ぉあっ!」
ズルリと足を滑らせ、転んでしまう。
悲劇はそれだけで終わらず、滑った拍子に踵で蹴った石が宙を舞い、ヒュゥ〜ンッと額へ落下する。
「ぎゃわっ!!?―…ぅわぁ〜、ちっちゃいピヨがいっぱい飛んでるぅう〜…っ」
頭の上をくるくると小さなピヨが飛んでるように見えたかと思うと、白目をむいて気絶した。
「つみれに火が通れば完成ですねっ」
子敬はボウルの中の肉をスプーンですくい、鍋に落として煮込む。
「テノーリオ、味見してみませんか?」
「おいしそーなところをくれっ」
「フフフ、分かっていますよ」
煮えたばかりのつみれとフカフレを器によそい、テノーリオに渡す。
「ふ〜ふぅ〜…。はぐっ…、ん、うまっ!!」
骨のダシもしっかりと味が出ているニャ〜ンズ鍋を美味そうに食べる。
「トマスとミカエラも食べてみろよ」
「美味い!さすが魯先生だなっ。ここだけでしか食べられないっていうのが残念だよな」
「コラーゲンたっぷりで、美容にもよさそうですわっ」
「ボクにもちょうだい」
「さあ召し上がれ!」
レキたちにも出来立てのニャ〜ンズ鍋を振舞う。
「僕たちはタラ鍋をもらうよ」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は器によそってもらうと、テーブルに持っていく。
「冬と言えば、やはり鍋なんでしょうか?」
お茶の入ったカップで手を温めながら、リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が首を傾げる。
「う〜ん…どうなんだろうね?」
「タラ鍋も美味しそうね。私たちはどっちにしようかしら」
北都が食べてるよう様子をちらりと見て、セレンフィリティは真剣な表情で考え込む。
「私はニャ〜ンズ鍋の方をもらうわ」
「むー…じゃあ、私もセレアナと同じやつにするわ」
「テレサ、タラ鍋にします?」
「そうですね…、千鶴はどっちがいいですか」
「私ももらっていいの?」
「2両分の発掘が終わりそうですから。今のうちに食べておいたほうがいいですよ」
「じゃあもらっておこうかしら」
2人と一緒に食事を取ろうと、瀬名 千鶴(せな・ちづる)はタラ鍋を指差す。
「器も熱くなっていると思うので、気をつけてくださいね」
「えぇ。―…熱っ!早くテーブルに置かなきゃ」
子敬から受け取ると、急いでテーブルへ運ぶ。
「獲れたてのお魚は最高ですねぇ〜♪」
エリザベートは何時間も作業していた者よりも早く、タラや海老に齧りついている。
「私のお弁当もどうぞ、どれから食べますか?」
「シーフードピラフからいただきますぅ〜」
「お口あ〜んしてください♪」
「あ〜…むっ。イカや海老がいっぱい入っていて美味しいですよぉ〜。アスパラをベーコンで巻いてあるやつもほしいですぅ!」
明日香に食べさせてもらおうと幼い校長は、口をあけてスタンバイする。
「は〜い、どうぞ♪あらら、お口に胡椒がついてますね」
いつものようにハンカチで口を拭いてやる。
「ふぁぁあ…少し眠たくなってきましたぁ〜…」
「ではお膝にどうぞ♪」
少しだけ寝かせてあげようとエリザベートの頭を膝に乗せ、肩から足の先まで毛布をかける。
「やはり、冬といったら食べでござるな!」
服部 保長(はっとり・やすなが)はタラの身を箸でつまみ口へ運んだ。
「駅舎で食ったメシも美味かったけど、こっちのも美味いなっ」
刹那も新鮮な海の恵みの料理を、満足そうに頬張る。
「こちらもタラ鍋をもらおうか」
主やベルテハイトもタラ鍋がよいだろうと、子敬に声をかける。
「はい!いくついりますか?」
「3杯分頼む」
「おや、お玉が…」
「―…はっ、ベルテハイト。何を!?」
「グラキエスの分は俺がよそってやろう」
いつの間にやら子敬の手からお玉を奪い取ったベルテハイトが、弟の分を器によそう。
「あぁ〜!!そんな大盛りズルイよっ」
私たちの分がなくなっちゃう!と透乃はムッと眉を吊り上げて怒鳴る。
「フッ、早い者勝ちだ」
勝ち誇ったように言い、お玉を子敬に返す。
「あのっ、まだ食材はありますから、作りますよ!」
このままではケンカになりそうだと思い、ベルテハイトにズンズンと詰め寄ろうとする透乃を、子敬が止めようとする。
「もう、ご飯のことで争わないでっ。陽子ちゃん、テーブルに連れて行くわよ」
「いやぁあぁあ、私は今食べたいのーっ!!」
芽美と陽子に腕を掴まれ、席へ連れて行かれる。
「やっちゃん、ニャ〜ンズ鍋の方をもらってきて」
「―…あっ、あぁ」
いつものことだと思いつつ…。
「あのさ、食べ物の奪い合いはよくないと思うぞ」
食べ物の恨みは恐ろしそうだ、と泰宏がベルテハイトに言う。
「なくならないうちに確保しただけだ。それのどこが悪い?」
泰宏の忠告をフンッと鼻で笑い飛ばし、彼は弟の元へ器を運ぶ。
「グラキエス、持ってきたぞ」
「ありがとう。そうだ…アウレウス、水に慣れたのか?」
「はいっ。主の指輪のおかげで呼吸も楽ですし、発掘作業に集中することも出来ました!」
「そうか…よかったな」
アウレウスが水への恐怖心がなくなってきた様子に、グラキエスは軽く微笑する。
「箸が進んでいないが、食欲がないのか?」
話しているばかりで器の中身があまり減っていないな、とベルテハイトが弟の器を覗く。
「たくさんよそい過ぎたのではないか?」
「そ、そうなのか!?」
「いや…、大丈夫だ」
「(―…やはり寂しいのだろうか?)」
少しはタラに箸をつけているようだが、心ここにあらずという表情の弟を見る。
「(グラキエス…?なんか…私をじっと見ているようだが。―…なっ。急に立ち上がってどうしたというのだ!?)」
ふと顔を上げた弟に、今度はじー…っと見つめられたかと思うと、ガタンッと椅子から立ち上がった。
テーブルに器と箸を置いた彼は、ベルテハイトの…。
「(もしかして、私の膝の上で食べたいというのか?まったく、甘えん坊さんだな!―……)」
―…傍を通り過ぎた。
グラキエスは岩の上で座り込み、海面を見つめる。
「そこに何かあるのか?」
そっと彼の後ろから覗き込むと、ふかふかの毛に覆われた尾ビレが見えた。
「(―…ふむ、そういうことだったか)」
弟は自分ではなく、その後ろの海岸に現れたニャ〜ンズを発見したのだ。
今の状態の彼にニャ〜ンズが驚く様子を見せない様子に、食事が冷めないうちにとベルテハイトは弟の器を取りに行ってやる。
「誰かこないか見ているから、ゆっくり食べるといい」
少しでも一緒に過ごせる時間をあげようという、彼なりの優しさだろう。
「ありがとう…ベルテハイト」
「よし、私は記念写真でも撮ってやろう」
弟のアルバムに加えようと、パシャリと携帯で撮る。
「人の言葉は分かるのだろうか…?」
ニャ〜ンズはグラキエスを見上げ、ハテナと首を傾げる。
「グラキエス、猫っぽい言葉なら分かるかもしれないぞ」
「猫っぽい言葉とは…?」
「それは…ゴホンッ、……にゃー…とかな」
咳払いをすると気恥ずかしそうに手本らしきものを見せてやる。
「―…わ、私しか傍にいないから大丈夫だぞっ」
「―……。にゃ〜…にゃにゃ〜?(俺のことが…、怖くないのか?)」
ニャ〜ンズの方へ顔を向けたグラキエスは、猫語っぽい言葉で話しかけてみる。
「にゃ〜、みゃみゃーん」
「みゃみゃ〜ぁ?」
怖くないよ、と聞こえたのか、彼も本当か?という感じで言う。
「(フフフ…可愛いぞ、グラキエス!)」
滅多に見られない光景だと、携帯で撮るだけでなく動画の撮影まで始めた。
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