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天下一(マズイ)料理武闘会!

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第三章 戦慄の決勝ラウンド 3

「三品目は……ええと、鳴神 裁選手の、『蒼汁』です」

 司会の泪のテンションすら下がってしまうほど、この料理は異様だった。
 審査員の前に置かれたコップの中に入っていたのは、蒼色をしたどろどろの液体……というか、スライム状の何か。

「……こ、これ飲むの?」
 三品目にして、すでに見た瞬間から理性がガンガンと警報を鳴らしてくる料理がついに登場してしまった。
 先ほどのポタージュのように、見た目がいいからといって信用できないのが謎料理ではあるが、だからといってすでに食べ物ではない見た目のものを口にするのが賢い行為だとはどうしても思えないのだが……。
「ダメよダーリン。審査員として参加したいと言ったのはダーリンでしょう? 自分の言い出したことにはちゃんと責任を取りなさい」
 ……完全論破である。
「うぅ……Why don’t you do your best! 何故ベストを尽くさないのかー!」
 ろざりぃぬは一声そう叫ぶと、一気に蒼汁を飲み干し……。

「ダーリン? 収録中に寝ちゃダメよ?」
 いいえスカーレットさん、あなたのお嬢さんは現在気絶していらっしゃいます。
 そしてろざりぃぬと同じく、先ほどのポタージュの時点でだいぶこたえていたミルディアは、乙女の意地・審査員の意地でリバースこそしなかったものの、飲み終えた後テーブルに突っ伏し、そのまま起き上がってこなくなった。

「何だこれは……飲み物にしては異様に腹にたまるが、まあ、それも含めて悪くないな」
 相変わらず、カルキノスは評価のポイントがおかしい。
「そうですね。ちょっとユニークな食感ですが、私は美味しいと思います」
 そしてこちらも相変わらず、玲は「美味しいと思います」で話を締めてしまう。
 ちなみに先ほどまで二人の間にいたはずのささらが沈黙しているのは、もちろん彼もまた撃墜されたからである。
「んー、まずい! もう一杯!!」
 最後に絶対誰かが言うと思ったお約束のセリフを繰り出したのはスカーレット。
「ごめん、これはこういう料理? なんだよね……? だとしたら、ルカルカにはコメント不能かもしれない」
 審査員最後の良心、ついにこの謎物質をスルー。
 だが仕方がない、こんなのどうツッコんでいいかなど普通わかるはずがない。

 ともあれ、その余韻が消えるのを待って、川添シェフのコメントが始まる。
「いろいろと栄養豊富な食材を豊富に使っているようで、かなり栄養価は高いようですね。それだけのものを、コップ一杯に凝縮した技術はまさに賞賛されるべきだと思います」
 確かに、これは栄養補給になるのかもしれないが……栄養以上にもっと大切なものを失う諸刃の剣のようにしか思えない。
「ただ、料理は栄養が全てじゃない。人は生きるために食べるけれど、生きるためだけに食べるわけではない。その辺りを考えながら作ってくれると、きっともっとおいしい料理になると思います」

 三人目の審査が終わったところで、ちょうど審査員も三人が倒れ、八人から五人へと減少した。
「はい、お茶はいかがですか?」
 しかし、もうイシュタンからお茶を受け取り、わざわざ自分の舌を無防備な状態にして相手に晒そうという猛者はもういなかった。





「最後の四品目は、マリアベル・ティオラ・ベアトリーセ選手の『ミートパイとキッシュの盛り合わせ』です」

 終わりよければ全てよし、とばかりに、最後の四品目に登場したのはマリアベルの料理だった。
 これも見た目は本当に美味しそうに見え、においも決して悪くはない。
 とはいえすでに「見た目やにおいではわからないド地雷もある」ということは、セイルがすでに示したあとであるから、全くもって油断はできない。

 とはいえ食べないわけにも行かないので、審査員一同が揃ってマリアベルの料理を口にした、その瞬間。

 一言でいうなら、こういうことである。
「まほうのりょうりを たべたらあたまが ぼぼぼぼーん(ただし物理的な意味で)」。

 かくして、審査員一同はさながら工業地帯の煙突のように揃って黒煙を吐き出したのだった。
 いくらなんでも、コレにまともな講評などできるはずがない。
「すごく、刺激的な食感ですね……」
 かろうじて川添シェフが絞り出した言葉が、ほぼ全てであった。