リアクション
終章 天下一の座の行方
かくして、長かった「天下一料理武闘会」も、ついにフィナーレを迎えた。
「それでは、今回の優勝者を、川添シェフに発表していただきます」
スタジオの照明が絞られ、ステージ中央の川添シェフにスポットライトが当たる。
「発表します」
マイクの前に立った川添シェフは、収録前よりも遥かにいい笑顔をしていた。
実は、優勝者の選出に当たっては、審査員の間でも意見が割れ、かなり難航していたのである。
結局、それを収めたのは、川添シェフのこの一言だった。
「正直なところ、誰が優勝でもおかしくはないと思う。でも、優勝者は一人決めなければならない……最後は、僕に任せてくれないか」
故に、他の審査員たちすら、優勝者が誰であるかを知らない。
今この瞬間にそれを知っているのはたった一人、川添シェフだけなのである。
「第一回・天下一料理武闘会、優勝は……」
そこで、一度言葉を切る。
固唾をのんで見守る一同。
そのまま、五秒。十秒。十五秒……しかし、川添シェフはその先を口にしない。
「……川添シェフ?」
さすがに心配になった泪が、小声で川添シェフに声をかけたその時。
最高の川添スマイルを浮かべたまま、川添シェフの身体がゆっくりと後ろに傾いていき……そのまま、仰向けに倒れた。
「川添シェフっ!!」
一瞬遅れて、事態を把握したぱいんちゃんやスタッフたちが駆け寄っていく。
「今、マトモに後頭部から落ちたぞっ!」
「ダメだ、瞳孔が開き切ってる!!」
「脈が……AEDの準備を! それからすぐに救急車の手配だ!!」
「メディック、メディーック!!」
「あ、え、えーと……そ、それでは、結果は後日、空京TVのウェブサイトにて発表させていただきます! 皆様ごきげんよう!!」
泪の機転(?)で、どうにかこうにか番組は終了したが……結局、最後まで放送事故の連発……というか、もうこの番組自体が放送事故であった。