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リアクション
Do it quickly
勇平とウイシアの隣席に座っていたレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)がにやっと笑った。
「これから俺が病気になる」
「え?!」
勇平とウイシアが目を丸くし、レリウスのパートナー、ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)がさっと顔をこわばらせた。
「あ、あのちょっと……? なんだかとても嫌な予感! また無茶する気だろ!」
「協力しろハイラル。さっさとこの目障りな連中を始末して地球へ行くぞ。
……ったく。団長の墓参りに行くところだったと言うのに……。
邪魔をした事を後悔させてやる」
抑えた静かな口調だが、それがかえってレリウスの怒りの激しさを物語っているのが、パートナーのハイラルには嫌と言うほど解っていた。
(とてもまずいです、レリウスが怒ってます。傭兵モードになりそうです。
誰か助けてくれ、テロリストじゃなくてこの恐怖から……)
レリウスはおもむろに取り出した奈落彼岸花を飲む。見る間に顔が青ざめ額に脂汗が浮かぶ。あえぐレリウスに、慌ててナーシングを施そうとするハイラルを抑え、レリウスは切れ切れに言った。
「……まだ……だ。窓を……開ける口実……」
「あ、あの……連れが持病の発作を……窓を……窓を開けてやりたいんですが!」
ハイラルは真っ青になって震え声でテロリストに呼びかけた。早くナーシングを施さないと危険ですらある。芝居ではなく本気で彼はあせっていた。サブマシンガンを抱え油断なく近寄ってきた1人がレリウスの顔を見た。レリウスの顔面は蒼白で脂汗が浮かび、あえぐような呼吸も切れ切れだ。顔と手足が苦悶のあまり引き攣り、痙攣している。明らかに仮病ではない。
「……いいだろう」
「あ、ありがとう!!」
叫ぶやハイラルは即座に窓を開けた。苦痛に耐えつつ野生の蹂躙でレリウスが鳥を呼ぶ。窓から大型のトビに似た猛禽が3羽飛び込んできて、車内を舞った。ハイラルは同時にレリウスにナーシングを施す。
「なんだ? 鳥か? しいっ!」
勇平が鳥を追い払う仕草をした。一羽がそれに驚き、開かれた窓から出て行こうとし、その際に窓に背中を預けていたレリウスの肩口にぶつかる。レリウスは窓にもたれかかるように背中を預けていたためバランスを崩し、開いたままの窓から鳥もろとも吸い込まれるように消えた。
「あ、あっ!!!」
勇平とウイシアが小さく悲鳴を上げる。ハイラルは蒼白な顔に驚愕の表情を浮かべ、呆然と手を窓辺に差し伸べた。
「落ちた……こんな高空から……」
テロリストの1人が肩をすくめ、言った。
「……病気で逝く前に、逝っちまったな」
残る2羽が車両内を飛び回る。大型の鳥が狭い車内をパニックを起こして衝突しながら舞うと、あちこちから小さな悲鳴が上がった。そちらにテロリストが気を取られた隙に、チャンスを窺っていた瑠夏が即座に闇術を使った。車両内が闇に包まれる。一般客の間から恐怖の喘ぎが上がった。テロで張り詰めたところへ巨大な鳥の闖入、さらには不意の闇の到来である。
シーマが即座に動いた。犯行グループ以外の総てにオートバリアとオートガードを施す。瑠夏がシェリーの手を掴み、ダークビジョンを使いすばやく犯人の固まる車両前部に向けて通路を走る。瑠夏は不意の闇に虚を突かれた犯人グループに向かい、サンダーブラストを発動した。
「ぎゃっ!」
「ぐぅっ!」
感電したテロリストが3人うめき声を上げる。ついでシェリーが光術を放った。闇から強い光。感電していなかったテロリストたちも、視力を失った。この状態で武器を使えば、自分たちも危険だ。すぐに勇平とウイシアがテロリストらから武器をもぎ取り、5人に向けてサブマシンガンを構えた。2号車はテロリスト征圧に成功した。
幼い少女の姿のアルコリアが、5人に向かって言った。
「うふふふ。素手で鎧ごと心臓を突き破るか、頭部を叩き壊すか。
一刀両断の手刀で首を落としますか……?」
殺しの道具を持ってるんです、殺される覚悟も持ってますよね?」
ナコトがクールな笑みを浮かべる。
「悪疫のフラワシで蝕みます? それとも氷像のフラワシで凍りつくのもよろしいかもしれませんねぇ」
アルコリアの胸の辺りから、魔鎧化したラズンの猫なで声が響く。
「ボスを自分の手で殺せる?
できない程度にノーマルよね?
愛する人の為に何でもできるといいながら、浮気を許せない少年少女みたい。
……殺し合いなんてラリった人がすれば十分だよ」
詰め寄る3人に縮み上がるテロリストたち。全身を経験したことのない恐怖が奔った。シーマがすぐにアルコリアを制止した。
「だめだよ。この状況で何かしたら、過剰防衛になる」
ウイシアも言った。
「あなたたちのほうが取り調べ対象になっちゃいますよ……」
「……つーまんないわ」
アルコリアは呟き、目をいっぱいに見開いて車内中に聞こえる大声で叫んだ。
「うわーんっ! 怖かったよぅっ」
「……一番怖いのはあんたかもな」
ボソッと勇平が呟いた。
レリウスはすぐ下の線路から車両の下部に潜り込んでいた。ナーシングで回復したとはいえ、まだ苦痛の残渣はある。時折バランスを崩しそうになりながら先頭車両を目指す。
列車の正面のガラスには無線操縦の作業用超小型飛空挺が突き刺さって黒煙を上げていた。この事故で列車を急停止させたのだろう。運転手と補佐の3人はガラスが割れた際の切り傷少々があるほかは縛られてはいるものの無事だった。
テロリストが1人、貨物車両との間の扉にもたれかかって見張りをしている。叶は後続の貨物部分を調べた。こちらにも3人配置されている。人質はいないが、こちらは丸腰だ。そこへ車両の下から、叶らの様子を見ていて目的は同じと察知したレリウスがそっと声をかけてきた。
「列車の換気口から毒虫の群れを誘い込んで刺させる。その隙に突入を」
「了解」
ハチに似た有毒な刺虫が貨物車両に数十匹入り込み、3人のテロリストに襲い掛かった。
「うわっ!!!」
「な、なんだこの虫は!!」
昆虫相手にはサブマシンガンを持っていても何の効果もない。痛みとかゆみに、刺された3人がのたうち回る。
「何事だ?」
運転席の見張りが貨物車両の異変に気づき、立ち上がる。その瞬間セレンフィリティがサイコキネシスで運転席の無事なほうの窓ガラスをぶち破った。セレアナが呟く。
「……荒っぽいんだから」
テロリストが破片をもろにかぶって一瞬怯む、その隙を突いてセレアナが窓から飛び込みざま武器を蹴り飛ばした。叶は即座に車両の連結部に滑り込み、運転席後部の扉を蹴りあけ、まん前にいたテロリストをドアごと床に叩きつける。
「ぐぁっ!」
レリウスは毒虫をコントロールして引き上げさせた。セレアナが女王の加護とオートガードを使い、自らの武器シーリングランスでよろけるテロリストをの足元をなぎ払う。セレンフィリティは音波銃で叶がドアごと押さえ込んでいるテロリストを無力化した。
叶が奪い取ってきたテロリストの通信機を車外に放った。保管庫から失敬したサイレンサーつきの銃で、はるか下方の空中にある通信機をシャープシューターを使い破壊する。
「爆発しないな。……鏖殺寺院との関連は低い……か」
1号車、2号車は征圧された。時刻は14:50分。刻限まであと40分。
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