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リアクション
錯綜する思惑
1、2号車征圧の少し前。
3号車には4人のテロリストたちが、小谷 愛美(こたに・まなみ)、マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)らのいる車両後部のほうまで油断なく睥睨している。
「……どうなっちゃうんだろう」
マリエルが青ざめた顔で、愛美にそっと呟くと、愛美もこわばった表情でささやき返す。
「わかんない……けど……ピンチだわね」
愛美らと地球へ向かっていた愛美の友人、朝野 未沙(あさの・みさ)が、隣席からそっと声をかけた。
「怖いけど……とにかく犯人を刺激しないようにして、様子を見ていたほうがいいわ。
何かしてくるようなら、マナたちは守るから任せて」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の2人も、地球に帰省するつもりで愛美、マリエルたちの近くの席に座っていた。一緒にアイスクリームを買ったところで、トレインジャックが発生したのである。
「うーん。アイスが溶けちゃうなー」
異常事態にも落ち着いた美羽の言葉にコハクが言う。
「僕達も様子見るの?」
美羽は頷いた。
「まだ動いたら危ないでしょ。トラブルとか事件と無関係な人たちもいっぱい乗ってるんだから。
何か動きがあったら……ね」
そう言って愛美とマリエルを見た。
「うん、わかった」
古物商に頼んでいた古文書を受け取りに、上野まで出向く途中だった高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)は、最前列に座っていたため、テロリストが乗り込んできたとき、目が合ってしまった。
「僕は荒事嫌いなんですよね。抵抗は一切致しませんので、危害は加えないで頂けると助かります……」
だが、それは上辺だけのこと。
(こんな面倒な事に巻き込まれて迷惑至極だ。僕の邪魔をした事を機会があればたっぷり後悔させてあげよう)
内心ではひっそりと物騒なことを考えていた。
ほぼ中央の座席にグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)とパートナーであるシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は並んで座っていた。グラルダとシイシャは乗車前『輝け!第一回窓際争奪戦!』での三本勝負が行われ、1戦目はチェス。これはグラルダが圧勝。続く2戦目のポーカーではシィシャの勝利でイーブンとなり、最終戦のじゃんけんで勝負が決した。結果シィシャは窓側、グラルダは通路側座席となったのであった。グラルダはシートを倒してのんびりと読書をしていたのだが……そこへテロリストの闖入。
実に芳しくない状況である。車内すべてが見通せる位置にサブマシンガンを抱えたテロリストが3名。丸腰の2人だけでは制圧は不可能だ。
3号車を挟んだ前後の客車も、同様の状況であるに違いない。
(この車両に連中の注意を引きつけられないかな……出来れば前後の車両の連中も誘い出したい所だけど)
そんなグラルダをよそに、窓に張り付いて外を眺めていたシィシャは、無表情で言い放った。
「グラルダ。『しんかんせん』が止まってしまいました。
……やはり、このような金属の塊が高速で移動するには無理があったのでは?」
彼女はこの異常事態をまったく把握していない。単純に新幹線が止まったのは近代の技術の不具合だとしか思っていないのである。グラルダはどう説明しようかとため息をついた。
椎名 真(しいな・まこと)は、書きかけていた報告書を脇に置いてため息をついた。
(実家に提出する業務報告書の仕上げが間に合わなくなるじゃないか……
只でさえ今回、万博とかあって報告行くの遅れてるのに。
私情はさんじゃいけないけど……あまり足止め食う訳にもいかないんだよな〜)
傍の席で、橘 恭司(たちばな・きょうじ)はこの事態にうんざりしていた。
(地球に戻る為に新幹線に乗った結果がコレだよ……
さてどうしたものかな。犯人はここ同様1車両に複数いるだろう。
武器は1号車に積んであるから動ける人間がいても丸腰か。己の肉体が武器の俺はまあ有利だな。
とはいえ今動けば乗客にも被害が及ぶだろう。何か動きがあるまで静観するか)
奏輝 優奈(かなて・ゆうな)は、パートナーのウィア・エリルライト(うぃあ・えりるらいと)、フォルゼド・シュトライル(ふぉるぜど・しゅとらいる)、ウル・リネル(うる・りねる)の3人とともども、上野に買い物に行く予定でこの新幹線に乗り合わせていて、トレインジャックに巻き込まれたのだった。
「んむむ……なんか大変な事に巻き込まれてしもたなぁ……
魔法である程度は戦えるやろけど、杖も魔導書もないから威力はさほど期待できんし」
優奈がボソボソとつぶやく。ウィアが困惑した表情で優奈を見る。
「ちょっとお出かけのはずが、こんなことになるなんて……
私は戦闘ではお役に立てませんし……」
「ウルはどうしたらいいんだろう……」
ウルは手を握り合わせて祈るような格好で、優奈のほうへ身を乗り出した。
「とりあえず様子を見て、動きがあったら加勢する事にしよか。
ウルはなんかあったらな、ガードラインでみんなを守ってな」
「うん、わかった」
「私は支援と治療ですね……」
ウィアがそっと言った。
フォルゼドは1人無言で怒っていた。
(俺の主を巻き込むとはいい度胸だな、テロリストども。
皆殺し……と言いたい所だが、優奈は殺しは望まんだろうな。だが今に見ておれ。後悔することになるぞ)
その様子を見て、優奈はため息をつく。
(ルゼよ、頼むからやりすぎは堪忍な……)
ライブの帰りに、たまたま乗車していた仏滅 サンダー明彦(ぶつめつ・さんだーあきひこ)は座席で激しい腹痛に苦悶の表情を浮かべていた。白塗りにの悪魔メイクを通しも青ざめているとわかる顔色。額には玉の汗が浮かぶ。
「やばい……、今朝の駅弁かな……それとも昨日の夕食か……は、腹が痛え!!!
……1時間……ムリ」
黒野 奨護(くろの・しょうご)と、伏見 明子(ふしみ・めいこ)は、車両最後尾でシートを目いっぱい倒して気持ちよく寝入っていた。テロのことも、車内の異様な気配も彼らには無関係である。ちなみにこの2人、たまたま隣り合わせに座ってはいるが、無関係である。
それぞれの思惑、それぞれの意識と無意識が錯綜しつつ、すでに攻防戦は始まっているのだ。
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