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大空のトレインジャック!

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大空のトレインジャック!

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Battle start


 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はこの状況でのテロリストのデメリットは内部と外部双方への目配りだろうと思った。。外部からの襲撃に備え、警戒する必要があるし、非武装であるとはいえ多数の乗客の動きにも目を配らねばならない。自分以外にも武術の心得があり、チャンスがあれば征圧を考えているものたちもいるだろう。となればテロリストに隙を作ってやればいい。おのずと自体は動き出すはずである。車両前方のテロリストに声をかけた。

「詩穂はロイヤルガードよ。

 ロイヤルガードはシャンバラ政府と交渉する際には有利になるのじゃない?

 詩穂が人質になるから、他の乗客を開放してあげて」

1人がサブマシンガンを抱えたまま、詩穂を一瞥して鼻を鳴らした。

「いいかお嬢ちゃん。こういう場ではな、人質の人数が多いほうがいいんだよ。

 ……だがそのご身分は何かに使えるかもな」

今後自分に今後多少なりともこの車両のテロリストたちは少なからず注意を払うだろう。そこへサンダー明彦がうめくような声とともに、下腹部を抱えてゆらりと立ち上がる。

「うぅう……もう、だめ……トイレ……」

「何だ貴様!!」

即座にサブマシンガンが向けられる。

「すんません……俺も1時間以内と言わずすぐ解放してくれないと大変な事に……」

「なに言ってやがる」

「は……腹が痛くて……あっ! もう駄目!!」

足ががくがくと震える。サンダー明彦はズボンのベルトをおもむろにはずし始めた。

「お、おい、ちょっと待て!! やめろっ!! おい、お前、そいつを連れてけ!」

テロリストの1人が、あわててサンダー明彦の首根っこを引っつかむと背後の。

ドアを閉めるのももどかしく、サンダー明彦はズボンを下ろし始める。
見張りは情けなさそうに、トイレの前で立ち尽くしている。それを見ていたイーサン・アルバ(いーさん・あるば)は子供姿を利用し、自分もトイレ騒ぎを起こすことにした。ただし、こちらは策略としてである。

「俺もトイレ行きたいー! 行きたいいいいいい!!」

残るテロリスト2人のうち、1人がイーサンを見る。

「フン。ガキか。行け」

車両連結部まで1人がついてきたが、ドアを開け、トイレの見張りに声をかける。

「こいつもだとよ。一応見張っとけ」

「……ああ」

イーサンはトイレに入るなり、鼻にしわを寄せた。

「うへぇ」

と、そこへ閉まったままの個室から、サンダー明彦の喚き声が響く。

「この個室は俺様がジャックした! 出て欲しくば一時間以内にカミを要求するっ!」

「あ??? 金??」

見張りが間の抜けた声を出す。

「アホかっ! この状態で金なんかいるか! 紙だよ、紙! トイレットペーパー!

 紙がねえんだよおおおおおお!!!!」

見張りは完全にそちらに気をとられている。その一瞬の隙を突いて、イーサンはそばにあったモップを掴み見張りの後頭部に一撃を食らわした。声も立てずに男はその場に崩れ落ちる。即座に服を剥ぎ取り、サブマシンガンをそばの壁に立てかけると、見張りを縛り上げて空いているほうの個室に押し込んだ。

「これでテロリストの衣服で変装し成り代わればバッチリ。

 んー、俺ってあったま良い〜」

しかし、見張りは180はあろうという大柄だった。小柄なイーサンが着ようとしても、サイズが合わない。少し考えて、イーサンは先ほどからもうひとつの個室にこもっているサンダー明彦が大柄だったのを思い出した。

「ちょっと、そこの腹壊してる人、見張りを始末したんだが俺じゃ入れ替わろうにもサイズがでかすぎるんだ。

 あんたが着てくれ」

「……ムリ。……紙がねえ」

「一時的にでいいよ。 ほら、紙」

用具入れから予備のペーパーを出し、閉まったままの個室の上から放る。

「……いいだろう。紙に免じて協力してやる」

げっそりとやつれ、ふらふらと個室から出てきたサンダー明彦は、のろのろと見張りの服に着替え、目のみ覗く目だし帽をかぶる。

「それならメイクも見えないし、ばれないだろ」

「うむ……しかし俺様の腹具合もまだ落ち着いてはいない」

2人が何食わぬ顔で3号車へ戻ると、グラルダがアポミネーションを使い、全身から異様な気配を発しつつ叫んでいた。

「これっぽっちの人数で此処を制圧したつもり? あはははははっ!!」

車両の窓ガラスが震えるかと思える程の音量で、グラルダは叫んだ。2号車方面で騒ぎが起きたのを感じ取った詩穂が、近くの席にいた面々にそっとそのことを知らせ、グラルダが騒ぎを起こしたのだ。ちょうどタイミングよくそこへイーサンらが戻ってきたというわけだ。小谷とマリエル、朝野らは息を潜めるようにして成り行きを見守っていた。

「すいませーん、うるさいので少しお前らだまれ〜」

突如黒野が立ち上がった。気持ちよく寝ていたところを起こされたので、むちゃくちゃ不機嫌である。

「……なんだよ錯乱かよ。おい、静かにしろ」

サブマシンガンを抱えた1人が、黒野に近寄って銃口を向けた。

「んぁ?電車止まった? もー終点?」

隣席の伏見がゆらりと立ち上がった。完全に寝ぼけている。

「座れ!」

テロリストが言って、伏見にサブマシンガンを突きつける。

「あー? なによー」

そこへ黒野が思いっきりテロリストのほうを向いて呻く。

「う、やべ酔った……」

「わ、よせっ!!」

怯んだテロリストに橘がバーストダッシュで一気に近づく。イーサンが即座に車両前部にいるテロリストの1人の腕に飛びついた。仲間のほうを振り返ったもう1人に、高月が式神の術を使い、持っていたぬいぐるみ浮かせ死角から顔に貼り付ける。

「ボクうさちゃん。テロリストをぶちのめすよ!」

ぬいぐるみが言うなり、足で顔にしがみつき、顔をぽこぽこと叩きだす。高月は集中して身じろぎひとつせず眉間にしわを寄せている。

「……なっ」

張り付いたぬいぐるみをむしりとろうと躍起になるテロリストを、橘が義手で押さえ込みつつ後ろから絞め落としをかけた。

「……ぐっ!」

男は激しくもがくが、橘はびくともしない。

「酔ったなんて嘘〜」

黒野が橘の押さえ込むテロリストの頭部にパンチを見舞い、男はその場に崩れ落ちた。様子を窺っていたコハクと優奈とがすかさず、サイコキネシスでイーサンがしがみつく男とそちらを振り向いた車両前部のテロリストのサブマシンガンを動かせないように押さえつけた。コハクが叫ぶ。

「皆さんっ! 危ないから伏せていて!」

ウィアはパワーブレスでイーサンと橘を援護する。フォルゼドは近くに座っていた子供から、コルク銃を借り受けると、テロリストらの顔面めがけて魔弾の射手、クロスファイアを使って攻撃した。スキルを使っての攻撃である。弾はコルク、覆面をしているとはいえ相当痛いはずだ。

「ぎゃっ!」

あとの3人――うち1人はサンダー明彦であるが――は顔を抑えて怯んだ。

「……実弾じゃなくてありがたいと思え」

サブマシンガンを自由にしようともがく2人のテロリストの一方を椎名が手刀で攻撃し、男はうずくまった。もう1人には美羽が溶けたアイスを目潰し代わりに、思いきり投げつけるやアクセルギアで突撃し、サブマシンガンを蹴り飛ばす。

「んーーーー!! うるさくて寝てられないでしょぉおお」

そこへ伏見が突っ込んでくると、目をこすりつつ顔面にパンチを見舞い、テロリストはその場にひっくり返った。黒野はテロリストの武器をかき集めると、窓をあけて外に放り出した。

「さーーーぶーーーーいーーーー!! ったく。すっかり目が覚めちまったじゃねーか」

高月は集められたテロリストに嫌な笑みを浮かべて言い放った。

「黒野さんが捨てた武装と一緒に、窓から地上に落ちてみますか?」

美羽と高月は念のため、ヒプノシスで束縛したテロリストらを眠らせておくことにした。

ゆらゆらと立っていた伏見がぼんやりと、

「まだ着いてないのね。……ならもーちょっと寝る」

そのまま自席に戻ると、何事もなかったように眠ってしまった。

「あー怖かった! どうなるかと思った」

未沙が身震いする。マリエルはまだ怯えているようだ。美羽はなだめるようにそっとマリエルの肩を抱いた。

「もう大丈夫」

「……うん」

未沙はもうすっかり落ち着いて車内の男性陣を検分していた。

(どーせマナの事だから、解決してくれた人の中から運命の人を見つけて惚れるんだろうなー。

 ……マナに相応しい人、ねえ…… 誰がいいかしら)

黒野、高月らが先頭車両へ武器を取りに走る。

「甘い奴等だ。殲滅してしまえばいいものを」

呟く高月に、黒野が言う。

「まあ、そうも行かないだろう」

「大人の事情って奴だね」

高月のぬいぐるみが応じた。2人が武器を取りに走る間に、椎名が4、5両目との車両間の連結箇所に待機し、後部車両からの敵襲を超感覚で警戒しつつため息をついた。

「この件に関しても報告書書かなきゃな ……報告遅れた理由として」

ともに警戒に当たる橘は、車内を見回してボソっと言った。

「まあ、被害がなくてよかった」

サンダー明彦がテロリストの扮装のまま言う。

「……トイレに行っていいですか?? ……さっきのでちょっぴりチビっちゃったかも……」

ウィアが気の毒そうに、

「ナーシングをお持ちの方がおられれば、腹痛の治療も出来るのですけど……ヒールではね……」

3号車征圧完了。時刻は15:12分。刻限まであと18分である。