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再建、デスティニーランド!

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第十章

 佐野 実里(さの・みのり)の移動式レストランは大変な賑わいを見せていた。
 店内を、可愛らしい制服を着たキャストたちが笑顔で動き回る。
 制服はすべて小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が用意したものだった。
「制服が変わると、なんだか気持ちも新しくなります」
「うん、一緒に頑張ろうね!」
 開店前にキャストたちにそう言われ、美羽は嬉しそうに頷いた。
 美羽は実里のレストランを盛り上げようと、制服の用意からレストランへの提案まで、事前にしっかりと実里と打ち合わせを重ねていた。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とヴォルトも交え、店の動かし方や店内でのアトラクションについても見当した。
 美羽の提案で、とにかく「移動」という特性を活かし、人気のショーやパレード、アトラクションなど時間帯に合わせてレストランが動き回るように設定したのだ。
 その甲斐あって、デスティニーランドの中でやたら見かける名物として認知されつつあった。
「いらっしゃいませー!」
 美羽の元気いっぱいな笑顔の接客に、子供たちも次々と集まってきた。
 ちょうどお昼を過ぎて、子供たちが遊び疲れた時間帯。
 噴水広場にレストランを移動させ、片手で食べられるお菓子をメインで扱っていた。
「はい、揚げたてですよ。熱いから気をつけてくださいね」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がにっこりと笑いながら子供にチロスを手渡す。
 移動式レストランはその味にもかなりの定評があった。
 移動式という斬新さや制服の可愛さだけにとどまらず、ランチタイムにはテーマパークとは思えないほどの本格的な料理まで楽しめたのだ。
 限られた時間、材料、環境の中で最高の料理を提供しようという実里とベアトリーチェの姿勢と技術の高さによる評判だった。
 ルカルカは、打ち合わせどおり各アトラクションの見せ場にセンサーとデジカメを取り付けておいた。画像が随時レストランに転送され、食事をしながらどんどん切り替わっていくアトラクションの様子を楽しむことができる。
 時折、レストラン内のゲストがアトラクションに乗っていたときの画像が映し出されると、各テーブルから盛り上がった声が上がる。
 希望者には写真の販売も行っていた。
 ルカルカは、レストラン内での写真撮影も積極的に行っていたが、店内の様子を見に厨房から出てきた実里を見つけると声をかけに行った。
「お疲れ様」
「……お疲れ様。お陰でかなり賑わってるわ」
「実里たちの料理が美味しいからだよ。ねえ、どうしてデスティニーランドに協力してるの?」
「……これだけ幅広い層の人が一斉に集まる場所ってなかなかないでしょう」
「そうだね」
「それぞれの年代の人が何を選んで食べて、どんな反応をするか見てみたくなったの。お店自体は美羽とあなたが色々と動かしてくれたから、メニュー作りに専念できたわ」
 実里の答えにルカルカは大きく頷いた。
「そっか。実里はアトラクション好きなやつとかないの? 乗りに行かなくて大丈夫?」
 ルカルカの問いに少し考える仕草を見せたあと、実里は少し笑って答えた。
「このレストランが一番好きだわ。動き回ったり写真が切り替わったり、立派なアトラクションよ」
「……うん、ゲストさんたちが楽しめるようにルカももっと頑張るね!」
 そう言うと、ルカルカは再びフロアへと戻っていく。
 おいしそうに料理をほおばるゲストたちを見ると、実里もまた厨房へと戻った。
 厨房ではダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が軽食を担当していた。
 ランチタイムはベアトリーチェと総出で料理をしていたが、この時間帯は子供が多いこともありベアトリーチェが接客をしながらの調理となっている。
 料理の注文はほぼダリルと実里でこなしていた。
 ホットドックやバーガーのような軽食から、クレープやアイス、ポップコーンのような菓子まで様々な注文が入る。基本的に動きまわりながらでも食べられるよう、水分を通さない紙袋に入れてフロアに回す。
 ヤキソバやラーメンは、時間帯問わずよく注文が入った。
 デスティニーランドの状況を耳にした火村 加夜(ひむら・かや)金烏 玉兎(きんう・ぎょくと)と共にデスティニーランドに来ていた。客足が少し落ち着くであろう昼過ぎに、実里の料理を食べようと移動レストランへやってきたのだ。
「うーん、やっぱりラーメンですね」
「そうだな、俺も加夜と同じでいい。ラーメンの腕と知識はプロ並だと聞いたことがあるが、ぜひ味わってみたいものだな」
 二人でメニューを覗き込みながら決める、注文しようと手を上げると、たまたま近くを通っていた実里が注文を取りにやってきた。
「いらっしゃいませ。来てくれてありがとう」
「ラーメンふたつと……実里ちゃんのおススメはなんですか?」
「そうね……子供が多いから、コーンスープはかなりこだわって作ってるわ。あと、ダリルのバーガーとベアトリーチェのスイーツは特におすすめよ」
「わー。全部食べてみたいです」
「お腹大丈夫か?」
「そうね、ラーメンをミニサイズで出しましょうか? そうすれば全部食べられると思うわ」
「それでお願いします!」
「はい」
 注文を受けると実里は厨房へと戻っていく。
 飲み物のオーダーを忘れたことに気づきコールボタンを押すと、美羽がやってきた。
 冷たいお茶を二つオーダーする。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ!」
「制服かわいいですね」
「そうだな。フロアのリーダーがしっかりしていると忙しくても良い雰囲気が保てるんだな」
 忙しそうに、でも笑顔は絶やさず動き回る美羽たちを見て、二人は頷く。
 キャストがちょっとしたミスを起こすとすぐさま美羽が飛んでいき、二人で丁寧に謝罪する。
 ほとんどのゲストはその対応に満足し、笑顔で流しているのがよくわかった。
「お待たせしました」
「いただきます!」
 実里が運んできたラーメンを二人はさっそく口に入れた。
「これは、うまいな。スープに癖がなくてさっぱりしているのに複数の味がきちんと混ざり合っている」
「何かこだわりとかあるんですか?」
「今回はテーマパークだから。どんな年代の層のゲストの口に合うものを意識したの。美味しさと食べやすさのバランスを取るのが少し大変だったわ」
「そうか。実里はいつからラーメンを好きになったんだ?」
「きっかけはこれといって覚えていないけれど。ただ、一言でラーメンと言っても本当にいろいろなパターンが作れるでしょう? そこが面白いとは思っているわ」
「なるほどな……」
 少し話すと厨房から呼ばれ実里は戻っていった。
 二人はデザートまで完食すると満足げにレストランを出るのだった。
「また来たいですね」
「ああ」
 ダリルがふとフロアを見ると、色々なテーブルに笑顔で飛び込んでは、写真を撮って回るルカルカの姿が見えた。無邪気に笑う姿を見て、少し羨ましくなった。
 注文が落ち着いたタイミングでふと思い立ち、ルカルカに声をかける。
「ルカも一枚写真どうだ? 実里も一緒に」
「そういえば自分たちの写真1枚も撮ってなかった! ダリルも入ってよね!」
「俺も? ……セルフタイマーにすればいいか……」
「ダリルさん、私撮りますよ」
 タイマーをセットしようとするダリルの姿を見たベアトリーチェが、声をかける。
 持ち帰りの接客もだいぶ落ち着いたようだ。
「悪いな」
「いいえ、せっかくの機会ですから。ルカルカさんも撮ってばっかりでしたし」
 ダリルからカメラを受け取ると、ベアトリーチェは角度を変えて数回シャッターを切った。
「ありがとう!」
 ルカルカは嬉しそうにお礼を言うと、フロアへと戻っていった。
「お、俺、今日は玲さんとここに来られて……嬉しかっ、ぎゃああああ〜〜」
「えええええっ!!」
 玲と一緒にデスティニーランドに来られたこと、色々叫んだが、色々回れて嬉しかったと伝えようとした直斗だったが、緊張のあまり妙な動きをして、ラーメンをひっくりかえしてしまう。
 しかもちょうど手がどんぶりのふちをはじいた形になり、見事飛び上がったどんぶりをそのまま頭に被ってしまう。
「お客様! 大丈夫ですか!?」
 叫び声を聞いた美羽がすぐさま飛んできて、どんぶりをどけると、持っていたふきんで直斗の頭と洋服を拭いた。
 その他にもスタッフを呼ぶと、すぐに机の上も片付け綺麗な状態に整えた。
「すみません、ありがとうございます」
「ごめんなさい」
 謝る玲と直斗の二人に美羽はにっこり笑って応対する。
「よろしければスタッフルームで着替えませんか? キャスト用のTシャツになってしまいますが……。その間に新しいラーメンをご用意させていただきます」
 美羽の言葉に甘えてスタッフルームに入ると、直斗は洗面台で軽く頭を洗い、Tシャツに着替えた。
「うう……ひどい目にあった……。玲さんを笑顔にしたかっただけなのに、こんなんじゃ……」
「色々と直くんが不幸な目にあったこの遊園地に思う所はありますが……キャストさんの楽しませようという気持ちも、気遣いも伝わりました」
「玲さん……」
 しょんぼりとうなだれる直斗の頭をタオルで拭きながら玲は優しく言う。
「それに、直くんの気遣いの気持ちも」
「え……?」
「いつか、また来たいですね。二人で一緒に」
「は……はい!」
 二人は再び席に戻ると、美羽がすぐに新しいラーメンを運んできてくれた。
 楽しそうにラーメンを食べる二人の姿を、ルカルカは写真に収めるのだった。