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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2

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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2
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第3章 視界からも味わえるSR弁当制作 Story1

 SR弁当のサンプルの食材の手配を担当するべく、天城 一輝(あまぎ・いっき)がキッチンにいる者たちに声をかける。
「欲しい食材があったら俺に言ってくれ」
「せっかくだから原産地のものが欲しいね♪お米と魚介類、それからー…」
「ちょっと待て、弥十郎。魚介類って何でもいいのか?」
 大雑把に言われては探しづらく、ハテナと首を傾げる。
「パエリアに使うものと、蟹とかホタテもね」
「―…ヴァイシャリー湖にムール貝が、生息しているかが問題だな。見つからなかったらどうする?」
「他の貝で代用するのはちょっとね…。んー、海にいるやつで代用するしかないかも」
「その場合、現地のものじゃなくなるが、それでもいいか?」
「悔しいけど確保出来なかったら、海のやつを使うしかないね」
 妥協したくはないがパエリアの主役ともいえる貝でなく、他のもので代用するのはもっと悔しい気もする。
「もし見つけたら産地の変更するかなー…」
「あまり探している時間はなさそうし、そのほうがいいな。他にいるものはあるか?」
「ブロッコリーとジャガイモも欲しいね。後はこれに書いたからよろしくね」
 シャーペンで食材のリストを紙に書いて一輝に渡す。
「俺も頼んでいい?子供が苦手な食べ物中心に選んであるよ」
「構わないが、なんで不評な食材をチョイスするんだ?」
 不人気になるんじゃないかと思い、真の食材リストを見て眉を顰める。
「嫌いな食べ物を食べやすくして、栄養豊富な駅弁にしようと思ってさ」
「へぇー…子連れの客に売れそうだな」
 これなら子供の好き嫌いをなくす親も買いそうだと頷く。
 ヴァイシャリーの土地でも食材の値段がピンキリだが、手に入りやすいものなら低価格なものも見つかるだろう。
「需要がありそうだし、安値で提供出来るかもな」
「うん、あまり高いと買いづらいからね」
「これ以外にいるものはあるか?」
「今のところないかな」
「いったん、注文の受付を締切るか…。そろそろ手配しないと、届くのが遅くなってしまいそうだ」
 市場で直接見たほうがよいのだが、リストの数が多いからそうもいかなくない。
 とはいってもネット販売でもそれなりに良質なものも手に入る。
 2人からもらったリストを見ながらキーワード検索して探す。



 食材を探し求めて農家にやってきたテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は、牛を飼育している者と交渉するものの、値段交渉が上手くいかず、どうすればいいのやらと悩んでいる。
 交渉なしに獲れるものといったらニャ~ンズだが、獲るためにルアーになったり、玩具のように見られて追われたりして苦労した記憶しかない。
 何匹も獲っている影響で危険視されている可能性もあり、海に入ったら今度こそ3噛み以上されそうだ。
 というわけで、農家で食材を調達するしかないのだ。
 それに駅弁というからにはやはり、現地の畜産物や農作物に限る。
「なぁ…もー少し安くならないか?牛1頭にこの値段って高いだろっ」
「そう言われてもねぇ、こっちも商売だし。もう解体してあるのは、別の業者に売る品物なんだよ」
「じゃあ…この中で一番安いヤツくれ!といっても、病気なのは簡便なっ」
「んじゃ、これでどう?これから解体するとなると、だいぶ待つことになるし。手間賃を省いたら、その金額だけど。どうする?」
「(ちくしょう…もう下がりそうにないかっ)」
 電卓に表示された値段を確認し、この額ならいいか…と妥協した。
「あ!ついでに野菜とかあるといいな」
「はっ!?うちは農業やってないぞ」
「ヴァイシャリーの領域以外の土地じゃなきゃ、全然構わないって!」
 それだけ払うなら、…といっても出資者から預かったお金だが、少しでも節約しようと交渉する。
「もちろん、新鮮なやつな」
「―……」
「いや、そんなにたくさんいるわけじゃないし。試作品の作る分だけあればいいんだ」
「はぁ~…仕方ないな。少しだけなら、分けてあげるよ」
「ありがとうな!あっ、出来ればどこで買ったか、教えてくれるか?」
「んじゃ、紙に書いてあげるから…落とさないでよ」
「子供じゃないんだし、落とすわけないじゃないか」
 交渉に不服そうな顔をする相手から紙を受け取り、ポケットにしまいこむ。
「食材は手で持っていけるとして……。牛はヴァイシャリーの別邸へ送ってくれ」
「―…分かった」
「これ代金な」
 まだ機嫌悪そうな表情をしている彼に、品物の代金を即金で手渡す。
「つーかここの野菜たけーよ…。ネギだけでも1Gとかイヤすぎるだろっ。試作品のために、あまり金出せないしっ!おまけしてもらってもバチあたらないよなー」
 ちょっと怒られてるっぽい感じはしたが、これも資金を無駄遣いしないためだ…。
 テノーリオは野菜を抱えてヴァイシャリーの別邸へ戻る。



「遅いなー…蒼、まだかな?」
 まずパッケージが決まらないと、作り始めることが出来ない。
 真は廊下でパートナーが来るのを待つ。
 注文してもらった品物もすでに届き、ご飯も炊けているが、わんこが来ないとその先に進められないようだ。
「にーちゃん、お待たせー!!」
「蒼、あまり走ると危ないよっ」
「だいじょーぶっ。あ…っ」
「もう、だから危ないって言ったじゃないか」
 急ぎすぎて足がもつれてしまい、転びそうになったわんこの小さな身体を両手で抱える。
「むぅ…ごめん、にーちゃん」
 蒼は彼の懐に埋もれ、しっぽを下げてしゅん…と俯く。
「どこかぶつけたりしていないか?」
 怒るどころか真は彼が傷を負っていないか心配し、頭を撫でてやる。
「うん、にーちゃんが助けてくれたから、だいじょーぶだよ!」
「そっか。―…ん?それは何かな」
 転びそうになっても手放さず、大事そうに持っている用紙を見つけ、何かメモでもしてきたのか気になり、それを指差す。
「魔列車の塗装したイメージ図をもらってきたよー!これがないと、容器が作れないからねー」
「へぇー、見せてほしいな」
「なんかねー、きれーなもよーがいっぱい描いてあるの!」
 丸めている用紙を広げて真に見せる。
 そこにはイルミンスールの森や、ヴァイシャリー湖の風景が描かれている。
「風景画じゃなくって、模様にしたんだ?これなら、色落ちしても塗装し直しやすいかもね」
「じぶんはもうちょっとかんたんな感じにしてー、子供もよろこぶようにしたい!!」
「大人が目で見て楽しむのは、他の人が考えるかもしれないし。その方がいいね」
 蒼の子供目線のデザインなら、幼い子たちもきっと喜ぶに違いない。
 さっそく図案を作ってもらおうと、用紙を持ってやり、わんことキッチンに入る。
 折りたたみのテーブルを用意し、その上に定規や色鉛筆を並べてやる。
「にーちゃん、ありがとう!んー…。えーっとぉ、子供用だから大きさはじぶんのお手手に合うサイズぅ」
 持ちやすいようにしてあげようと、自分の手の平に定規を当てて幅を測る。
「お子様ランチみたいに、列車の形した容器がいいー!お弁当箱になるのほしー人もいるよね。捨てる用のもあったほうがいいかも!」
 プラスチックの箱と紙の箱、両方のパターンを用意することに決めると、透乃にもらった塗装のイメージを参考に、色鉛筆で容器のイラストを描く。
「子供ならやっぱり、オマケもついたらうれしいなぁ…?これのちっこいのー!」
「売店でそういうアイデアが出ていれば、通るかもしれないね」
「ほんとー!?こどもはこういうのすきー!」
「サンプルを作っておいて、物販の方を担当している人の案が通ったら、たくさん考えようか?」
「そーするぅうう!隣の部屋で、容器を作ってくるね!」
「うん、頼むよ」
 もうちょっとキッチンで待機しているかな…、と真はパイプ椅子に腰をかけた。



「テノーリオが戻ってくるまで、待っているだけってもなんだから、駅弁の入れ物を考えておくか?」
 先にパッケージを考えるかとトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、何かよいアイデアはないかミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)へ顔を向ける。
「料理ってやっぱり、出来立てが一番美味しいと思うの。デザインの見栄えも大切だけど…。それよりも、パッケージを工夫して、加熱できるタイプはどうかしら?」
「加熱かー…」
「冷めても美味しいおかずというハードルもありますよ」
 万が一、冷えた場合のことを想定し、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が意見を言う。
「熱いうちに食べきってくれない人もいそうだしな」
「温め直す方法でもあればいいのですけどね。そういえばテノーリオが食材の調達へ行く前に…。“パッケージの温熱機能で再加熱してほかほかで出せる、スキヤキ弁当”なんてどうかと、提案していきましたよ」
「苦手っていう人も少なそうだし、スキヤキ弁当でいけるとして。問題は加熱方法だよなー…」
「石灰と水の反応の、発熱の仕組みを使って、スイッチ代わりにピンを引けば、好きなタイミングで加熱出来そうよ」
 それならいつでもほかほかの弁当が食べられそうだと、ミカエラの意見に賛同するかのように、トマスと子敬が頷いた。
「仕掛部分は取り外し出来るようにして、持って帰りやすいように工夫もね」
 持ち帰り一寸したスーベニア・記念品になるよう、仕掛けのみ捨てられる作りにしようと提案する。
「ミカエラ、容器と一緒に仕掛けの捨て方とか…。仕掛けが冷えるまで容器の底に触れないように、注意文をつけておかないとな」
「火傷しちゃったら危ないものね。それと水気のあるゴミとか、紙ゴミなどがあるものの中とかに捨てちゃいけないこともね」
 ミカエラたちがパッケージ作りの案を固めた頃、テノーリオは食材を抱え、鮮度が落ちないうちに届けようと、全速力で走っている。
「はぁ…はぁ、…やっぱり、車の方が先かー…」
 彼がヴァイシャリーの別邸前にたどりつくと、すでに建物の外に牛を乗せた車が到着していた。
 コイツを中に連れていくわけにもいかず、携帯で魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)を呼ぶ。
「おおっ、テノーリオ。戻ってきたんですね!食材は調達出来ましたか?」
「あぁ、なんとかな。牛を別邸に入れるのもあれだから…。外で解体してくれる?」
「了解です!」
 速やかに牛を解体するべく包丁を握り、テノーリオが待つ別邸の外へ駆ける。
「お待たせしましたテノーリオ!」
「あの牛だ。じゃあ、頼んだよ魯先生」
 バサッとブルーシートを広げ、牛のブロック肉の落下ポイントの地面に敷く。
 牛は車から逃走しようとするが、逃げる間もなく解体され、ブロック肉としてシートの上に転がる。
「ところでテノーリオ。農家で解体してもらったほうがよかったのでは?」
「まー、安く提供するためだからさ。あっちでやってもらうと、費用を取られるんだよ」
「そういうことなら仕方ありませんね」
「(で、運ぶのはオレっていうわけか。そーだよな、あはは…)」
 予感はしていたが、野菜だけでなく牛肉の塊も、やはりテノーリオ1人で運ぶことになり、心の中で乾いた笑いを漏らした。
「ん…メール?魯先生からだ…」
 ポケットから携帯を取り出してメールを開くと、“豆腐と春雨もお願いしますね!”と書かれている。
「あ、…それも探さなきゃいけないのか。ていうか春雨って売ってるのか微妙だよな…」
 キッチンに食材を届けた後、すぐさま買出しに向かうことになってしまった。
 テノーリオは心の中で泣きながら、“走る~走る~、俺ーだーけー”と歌い、必死に走る。