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第一章

「源さん、お久しぶりです」
「おお、あんたは……」
 姿を現した涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)に、日頃無口な板前が、思わず声を上げる。
「源さんが倒れたと聞いて、助っ人にやって来ました。前回同様、今回も、料理人としてお世話になります」
「あんたが来てくれるとは、心強い」
 紅葉の時期、大量のモンスターのせいで従業員が足りなくなった風船屋に駆けつけた涼介への恩を、源は、忘れていなかった。
「どれだけのお客様が来てくださるかわかりませんが、あんたが居てくれれば……」
 起き上がろうとした源を、枕元に駆け寄った涼介が止める。
「源さん、無理だけはしないでくださいよ。まだ、熱も下がっていないじゃありませんか」
「しかし……」
「板場の方は、私のほうでどうにかしますから」
「申し訳ない……旅館の調理場は、猿たちに占領されていますので、うちの台所を使ってください。一通りの材料は揃っています」
 縋るように言う源に頷いて、台所に向かう。源の家は旅館から近く、並んだかまくらも、すぐ目の前に見える。
「周りは雪にかまくらか……よし、それなら『雪見鍋』だな。これなら、ある程度の人数までは対応できる」 
 そうと決まれば、仕込みの開始だ。
 涼介は、調理の特技を駆使して、カツオ昆布出汁の醤油味で鍋のベースを作った。これに肉や野菜、豆腐、つみれ団子を入れて、その上におろした大根を加えれば、雪見鍋の出来上がりだ。
 大量の大根をおろし、つみれの仕込みが終わると、涼介は、コンロの一つを使い、源のためにおかゆを作った。
「薬を飲んでもらうのに、何か胃に入れないとまずいですから」
 涼介が温かいおかゆを源に食べさせ、薬を飲ませたその頃。
「あ、あの……お部屋割りのリストを……お、お客様を出来るだけスムーズにかまくらに案内してあげたいので……」
「予約の部屋割表は、これや。しっかりお願いします」
 接客係のアルバイトに応募したリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)は、女将の音々に、一枚の大きな紙を渡されていた。
 お椀のようなかまくらを描き、その上に客の名前を書いたものは、部屋割りというよりかまくら割りの表だ。
「お客様がいらしたら、お名前をお聞きして、このリストを見て、どのかまくらにお泊まりかを確認して……」
 一生懸命なリースに、マーガレットが微笑みかける。
「黙って案内してもつまんないし、お客さんとお話しながら、かまくらまで案内したいな。イケメンなお兄さんとか美人だったり可愛い女の子がいたら、お友達になりたい、って思うから、どこから来た人でどれだけ泊まれるのか聞いちゃうよ♪」
「マ、マーガレットは緊張しないの……?」
「全然! ご飯が食べれて、露天風呂にも入れて、おまけに、かまくらにまで泊まれちゃうなんて、もう、最っ高!!」
 そんなふたりの背後から、桐条 隆元(きりじょう・たかもと)が、声をかける。
「こらこら、小娘たち、おしゃべりの暇があったら、どのかまくらに誰が泊まるのか暗記せぬか。お客様を待たせぬようにするのが、小娘たちの役目であろう」
「は、はい……」
「雪かきがしてあったとしても、雪と気温のせいで足元が滑り易くなっておるかもしれぬゆえ、お客様には、『足元に気をつけながら、泊まるかまくらまで進んで欲しい』と、注意せねばならんぞ」
「はい、わかりました……」
 頷くリースの横で、
「……煩いお爺さんがいなきゃもっと、最高なんだけどねっ!」
 と、マーガレットが、こっそり呟いた。