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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

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新しき年、タシガン

 
 
「おーい、でかけるぞー」
「はーい」
 カシス・リリット(かしす・りりっと)に呼ばれて、魔装 アイリスローブ(まそう・あいりすろーぶ)が走ってきた。
 だきかかえて迎えるように正面をむいていたカシス・リリットが、魔装アイリスローブを装着してくるりとターンをする。広げた両手の袖が広がり、ローブの裾がふわりと翻る。裾飾りから上へとのびるアイリスの花々の模様が鮮やかに甦った。
「うん、暖かい」
 魔装アイリスローブも、今や単なる防寒着である。人肌がぬくい。
 今はごく自然に纏ってはいるが、初めて魔装アイリスローブがカシス・リリットの所にやってきたときは大変だった。
 もともとは、ネットオークションでただのローブを購入したつもりであったのだが……。
 
「なんだ? 服が入ってるにしてはやけにでかくて重たいなあ」
 届いた大きな箱を見てカシス・リリットが首をかしげた。一メートル四方ぐらいある大きな箱だ。
 いったい、何着入っているんだ? それとも、配達人が入っているとか。まったく、過剰梱包もはなはだしい。
「これだから、ネット通販は……」
 文庫本一冊にも菓子折ぐらいのでかい箱で届けるんだからと、ブチブチ文句を言いながらカシス・リリットが箱を開いた。
「うわっ。ほんとになんか入ってた!?」
 箱の蓋を開いたとたん、中に身体を丸くして入っていた少女を見て、カシス・リリットが大声をあげた。
「坊ちゃん、どうかしたんですか!」
 その声を聞いて、ヴァイス・カーレット(う゛ぁいす・かーれっと)が驚いて駆けつけてくる。
「こ、これは……、美少女のデリバリーなど、なんというマニアックなプレイを……。そんなふうに育てたおぼ……うぼあ!」
「誰に育てられた、誰に!!」
 反射的にヴァイス・カーレットを殴り倒してカシス・リリットが叫んだ。
「ううん……。ここはどこ……。俺は……」
 その声に、箱入り娘が目を覚ます。
「あれっ? ヴァイスさん!? どうしたの、大丈夫、しっかりして」
 よろよろと立ちあがって箱から出ようとして、バランスを崩した魔装アイリスローブが箱ごとびったーんと倒れた。
「いったーい」
 なぜか顔よりも胸の方が痛くて顔を顰める。
「えっ、その声……。イアス!? ……のはずはないよね。女の子だよね」
「えっ、えーーーー!!」
 驚くヴァイス・カーレットの言葉に、魔装アイリスローブがもっと驚く。
「ええっと、どういうことか説明してもらおうか。二人は知り合いか? これはドッキリか?」
 カシス・リリットが問い質したが、二人共さっぱりだった。
 何か手がかりはと箱の中をかき回すと、出展主からの伝票が入っていた。
 どうやら、ただのローブだと思っていた物は魔鎧だったようだ。なんでも、最近作った過程で性別が反転してしまった不良品なので、ネットオークションで処分したらしい。制作者の女性の悪魔は、ショタの魔鎧がほしかったようだ。女を纏うのは嫌だったらしい。名前は、魔装アイリスローブ。なお、返品は不可と赤文字ででかでかと書いてあった。
「俺、どうなっちゃったんです……」
 ぼーっと、たっゆんな胸を見ながら魔装アイリスローブがつぶやいた。
「つまりは、彼女……いや、彼? あー、ややこしい。とにかく、アイリスは、ヴァイスが探していた人の一人だったというわけだ」
「みたいですが、まさかすでに亡くなっていて魔鎧にされていたとは……。しかも、性別が……」
 魔装アイリスローブの胸をちらっと見てから困惑したようにヴァイス・カーレットが目を逸らした。その様子を見て、魔装アイリスローブが泣きだす。
「ええっと、魔鎧というのはだね……」
 困りつつも、ヴァイス・カーレットが説明を始めた。
 
 まあ、人はどんな逆境となっても、そのうち慣れるということだ。
 今のところは、魔装アイリスローブもヴァイス・カーレットも落ち着いたようには見える。
「さて、ヴァイスが待っている。行くぞ」
『はい』
 
    ★    ★    ★
 
「まったく、すっかり倉庫か工場のようだな」
 城壁の上から、城の内庭を見てストゥ伯爵がつぶやいた。
 そこにならべられたイコンを、アクアマリンメイドロボメカ小ババ様を使って修理している。
 茨ドームを巡る戦いでは、無傷だったのはルビーとオプシディアンのイコンだけで、その他は中破にまで追い込まれている。
「まったく、みんな手伝ってくれないんだから……」
 ぶつぶつと文句を言いながら、アクアマリンが使い魔たちに指示をしていった。
「仕方ないであろう。こういった物は、お前の領分だ」
 のんびりと木陰で作業を見守りながらアラバスターが言った。
「他の者たちはどうしたんだ」
「ウエ様は、新しい遊びを物色中ですよ。姉さんはツァンダに遊びに行っちゃったし、ククルカンとテスカトリポカの二人は、またどこかでお茶でしょう」
 アクアマリンは、そう答えた。