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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

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 今で、テレビを見ながらも、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はチラチラとキッチンの方を気にしていた。
 テレビの音量を下げて、少しだけ耳をそばだててみる。
 たまに、食器か何かがぶつかる金属的な音が聞こえてきたりもする。
 想像は豊かになるが、妄想になってしまうと始末が悪い。
 薄壁隔てたむこうでは、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が、本格的な手料理に挑戦中だ。
 普段は、御神楽陽太の方が、主夫よろしく料理を作っている。
 とはいえ、御神楽環菜の方も、まったく料理ができないというわけではない……はずだ。理論的に、ちゃんとレシピ通りに作れば、できないことはない。
 小麦粉をバターで炒めてから、丁寧に牛乳でのばしてベシャメルソースを作っていく。火加減はIH調理器が調整してくれるので、設定さえ間違えなければあまり気にすることはない。後は、分量と、化学変化を前提とした材料の合わせ方にかかっている。全体がなじんで変化する前に、許容範囲以上の材料を加えれば、それらは混ざることなく分離してしまう。
「ようは、料理だって理論よね」
 おろしたてのエプロンをきりりと締めて、御神楽環菜が料理を勧めていった。こうしてみれば、年相応のごく普通の若妻である。
「これ、使っていいのよね」
 あまり見たことのない花柄のグラタン皿を二つ取り出してくると、裏の仕様を確認してオーブンで使えるか確かめる。
「食器の場所も覚えないと、効率が悪いなあ」
 炒めたタマネギと茹でたグラタンをベシャメルソースと合わせ、塩、コショウで味を調え、グラタン皿に盛っていく。チーズを上に散らすと、暖めておいたオーブン機能のついた電子レンジに突っ込んだ。後は、タイマー任せである。
「手こずっているのかな……。やっぱり少しは手伝ってもいいと……」
 御神楽陽太がそろそろ待ちくたびれてきたころ、やっとキッチンの扉が開いた。
「お待たせー」
 グラタンの載ったお盆を持った御神楽環菜が姿を現した。結構苦労したのだが、それを表に出さずにテーブルの上に料理を載せていく。
「いただきます」
「いただきます」
 野菜ジュースとサラダも用意され、やっと遅い朝食が用意できた。
「どう?」
 自分が食べるのも忘れたかのように、御神楽環菜がじっと御神楽陽太の様子を見つめながら聞いた。
「ええと……」
 一口目を食べた、御神楽陽太が、どう答えようかと瞬間迷う。
「とても美味しいです、99点」
「なに、そのマイナス1点は」
 ちょっと不満そうに、御神楽環菜が問い質した。
「いえ、次に食べたときは、多分、今よりも美味しい物を作ってくれるだろうなと思って」
「そういうときは、今は100点で、次は101点と言うのよ。でも、まあいいわ。実質満点と言うことね。さあ、食べましょう」
 そう笑いながら言うと、御神楽環菜がグラタンをスプーンですくい取った。
「あっ、ちょっと待ってください」
 そう言って、御神楽陽太がその手を止めさせる。
「ふー、ふー」
 わざわざ熱いグラタンを吹いて冷まそうとする御神楽陽太に、苦笑しつつも御神楽環菜はグラタンがちょうどいい温度になるまで待った。
 
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では、始めるとしようかの。よいしょっと」
「すいますよー」
 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が動かしたソファーの下のゴミを、すかさずイリア・ヘラー(いりあ・へらー)が吸い込んでいく。
「うわあ、なんでこんなに本が落っこちているんですかあ」
 そこから現れた何冊もの文庫本を見て、イリア・ヘラーが悲鳴に近い声をあげた。魔道書としては、まるで親戚が遭難していたような感じを受ける。
「まったく。ひょいとソファーの背に本をおくから、いつの間にかおっこっちゃうんだよね」
「いやあ、気をつけるとしよう。おや、この本、なかったと思ったらこんな所に……。うむ、この本は記憶にないのう」
 落ちている方の埃を払って拾い集めながら、ルファン・グルーガが言った。
 いくつかは自分が買った物だが、見覚えのない本もある。何のことはない、イリア・ヘラーも同じようにおきっぱなしにして、ソファーの後ろに落っこちていたのではないだろうか。
「この本はどんな本じゃろうな?」
「それ? シャンバラの人が書いた本だけど、ほとんど話題にならなかった本だよ」
 タイトルを確認して、イリア・ヘラーが言った。
「あらすじは、ある子が大きな屋敷の養子になって、苛めにあいながらも、その家の地位からくる特殊な社会常識なんかに翻弄されながら、人々の間で強く生きていく話だよ」
 説明しながらも、イリア・ヘラーはどこかルファン・グルーガの身の上に似ているかもと思った。
 それはルファン・グルーガも感じたらしく、元の位置に戻したソファーに座ると、その本を読み出した。
「ねえ、ルファンって、今幸せ?」
 なんとなく突然の不安に駆られて、イリア・ヘラーが訊ねた。
「そうだな。難しい質問じゃが……、不幸、とは思っておらん。幸せか否かなら、幸せじゃよ」
 本のページから顔をあげると、ルファン・グルーガが微笑みながら答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「――長閑な場所、ですね……、この公園は……」
 ツァンダの公園にあるペットランでのんびりしながら九十九 昴(つくも・すばる)はつぶやいた。
 九十九昴のそばには、レッサーフォトンドラゴンの光竜『白夜』と賢狼が、彼女を挟むようにしてのんびりと座っている。少し離れたところでは、スカイフィッシュと吉兆の鷹が追いかけっこし、聖馬『ピュアリィ』とアーマードユニコーンは連れだってトラックを駆け、青鱗竜『朧』はジャンガリアンゆるスターを頭に乗せて遊んでいた。
 大所帯だが、この公園では、それらのペットや乗り物たちを遊ばせても大丈夫のように広く場所が取られている。
 パラミタでは、地球とは違ってペットの範囲ももの凄く広く、中には猛獣のような者たちもいる。その危険度は、地球の猛獣の比ではないのだが、それゆえにビーストマスターのようにペットたちを管理する方法も発達しているので、よくしつけられたペットであれば無差別に誰かを襲うようなことはない。ただ、それゆえにペットの仕業は飼い主の全責任になるので、より注意は必要ではあるが。
「白夜、賢狼、……あなたたちには、特にお世話に、なってるわね……。これからも、よろしくね……」
 ペットたちに囲まれる幸せを噛みしめながら、九十九昴は左右にいる白夜と賢狼にしみじみと言葉をかけた。
 
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「こんな面白い物が作りだされていただなんて。本当に、戻ってきてよかったですわ」
 ツァンダのゲームセンターで、九十九 天地(つくも・あまつち)が楽しそうに言った。
 ここ最近、休みのたびに彼女はここへ入り浸りだ。
 思いっきりハマっているのは、アーケード版の格闘ゲームである。パラミタ最強伝説というゲームだが、好きな種族を選んで、そこからさらにクラスを選ぶことによって様々なキャラを作って戦うことができる。
 彼女の持ちキャラは花妖精の拳聖という非常にピーキーなキャラである。はっきり言って殺られる前に殺れが心情のキャラであつた。
 だが、見た目、のほほんとした天然ボケに見えるお姉さんがまさかそんなキャラで連戦を重ねているようには見えない。軽い気持ちで反対側の席に座った者たちは、瞬殺コンボを食らってから恐怖するのであった。
「ふふ、次はどなたかしら?」
 ほわわんとした笑顔で、九十九天地が次の対戦者を誘う。
「まあ、だらしのないゲーマーだらけですねえ。ここは、お姉様が見本を見せてあげましょうかしら」
 エメラルド色のカエルのジャンプスーツを着た少女が、対戦席に座った。
「あら、お相手してくれるのでございますか?」
 嬉しそうに九十九天地が言う。
 相手のキャラは、ゆる族のシーアルジストだ。
 試合開始と共に、様々な召喚獣を呼び寄せて攻撃してくる。
「大技は、隙が大きいですわよ」
 ぎりぎりで安地に逃げた九十九天地のキャラが、敵に突っ込んでいった。はめコンボで一気に体力を削ってKOする。
「むきー。卑怯ですわあ!」
「褒め言葉として、承ります。いざ、二本目でございます」
 またもや連続技を叩き込もうとするが、今度は途中で敵がガードキャンセルして逃れる。直後に、地上から火柱が噴き上げて焦げた九十九天地のキャラが動きを止めた。そこへ、召喚獣の群れが走ってきて踏みつぶしていく。
「そっちこそ、外されると脆いですよお」
 敵が勝ち誇った。
「やりますわね。でも、次で決めさせていただきます」
「それはこっちの台詞ですー」
 その後このゲーセンで長く語り継がれる戦いが始まろうとしていた。