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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

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    ★    ★    ★
 
「……ネームレス様 コレハ 遊戯 ノ レベル ヲ 超エテイマス」
 ヴァンガードブースター「回天」で木立の間を高速で移動しながら、アーマード レッド(あーまーど・れっど)ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)に言った。
「いいじゃない……ですか。今日は……暇……なんです。今ごろ……は、姉君……たちも……楽しんでいる……ころ……。我らも……遊びま……しょう」
 自らが作りだした魔瘴龍「エル・アザル」に乗ったネームレス・ミストが、無造作に無銘:弩砲を放ちながら言った。
 木を盾にしつつ、アーマード・レッドが左腕部回転式機関砲「驟雨」で威嚇射撃をしながら冷静に回り込む。
「ターゲットロック」
 アーマード・レッドが、二十一式大型砲剣「轟沈」でエル・アザルを狙撃した。射貫かれたエル・アザルが体勢を崩すも、ネームレス・ミストがすぐに立てなおす。
 アーマード・レッドが誘導爆雷「狂犬」を放出したのを、ネームレス・ミストは瘴気の猟犬を放ってことごとく撃ち落とした。
 一気にダッシュローラーで後退したアーマード・レッドが、脚部装備式三連ロケットポッドで応戦する。近接信管で、エル・アザルの半分ほどが消し飛んで霧散した。
くっ、ふ、はーっははははは……
 楽しそうにネームレス・ミストが狂気の笑いをあげる。
 エル・アザルの吐く黒い炎で邪魔な木を焼き払いながらそのまま突っ込むと、ネームレス・ミストは装填の間にあわない弩砲で殴りかかっていった。轟沈の銃剣で受けとめたアーマード・レッドと、斬り合いと言うよりもほとんどどつきあいとなる。
「……楽しい……です」
「非効率的デス……」
 激しい格闘戦を二人が繰り広げ、それはいつ果てるともなく続くかと思われた。
「わーい、楽しそう♪」
「こんにちわー♪」
「えいっ♪」
 イルミンスール魔法学校近くでの戦いが呼び水となってしまったのか、不幸にも組み合ったままの二人は突然の御挨拶を避けきれなかった。
 ガツンとメイちゃんに頭を叩かれて一瞬無防備になったネームレス・ミストの上に、コンちゃんに叩かれて気絶したアーマード・レッドがランちゃんにどつかれて倒れかかってきた。
「ちょっと……よけ……あうっ……」
 とっさに避けきれず、ネームレス・ミストがアーマード・レッドの下敷きとなった。その自重ゆえ、まったく身動きができなくなる。魔鎧である彼でなければすでに圧死していたことであろう。
「あああああ、ごめんなさい、ごめんなさい。さあ、メイちゃんたち、学校はこっちです。ミファも手伝って誘導して。こっち、こっちよー」
 『空中庭園』ソラが、必死にメイちゃんたちを誘導してその場を逃げるようにして去って行った。アーマード・レッドとネームレス・ミストはその場に置き去りである。
「早く……起きて……再起動……」
 必死にネームレス・ミストが言ったが、アーマード・レッドは気絶したままであった。
 
    ★    ★    ★
 
「それでは、みんなの無事帰還を祈ってアイスクリームでかんぱーい」
 大盛りシャンバラ山羊のミルクアイス・フルーツソースがけを持った手を掲げて、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、アラザルク・ミトゥナたちに言った。
「かんぱーい」
 マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)リン・ダージ(りん・だーじ)が、手に持ったアイスクリームの皿を掲げて応える。ココ・カンパーニュたちは成人式に行ってしまったため、留守番組のゴチメイとアラザルク・ミトゥナが、小鳥遊美羽の招待に応えて集まったのだった。
「さあ、じゃんじゃん持ってきてね」
 小鳥遊美羽に言われて、メイド姿のゴーレムのローゼンクライネが、カウンターのミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)から大盛りアイスを受け取って運んでくる。
「本当に、みなさんにはお世話になりました。アルともども、あらためてお礼を述べさせていただきます」
 アラザルク・ミトゥナが、深々と頭を下げた。
「いえ、私が全部やったんじゃないんだもん。それは、これからも顔を合わせるだろうみんなにしてあげてよね」
 さすがにちょっと恐縮して小鳥遊美羽が言った。
「うん、でも助かったわよね。あのままあそこに閉じ込められていたら、今ごろはちゅどーんだったもの。そしたら、こうしてこんなに美味しいアイス食べられなかったものねー。んーっ、お・い・し・い」
 リン・ダージが、椅子の上で喜びに足をバタバタさせながら言った。
 それを見てしまったコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、おもむろに顔を赤らめてちょっとうつむく。どうにも、先の戦闘でスカートの前をはだけて銃を取り出すリン・ダージの姿を見てから、まともに女の子のスカートを見られなくなっていたのだった。なにげに、一番ゴチメイたちのパンツ目撃王であるかもしれない。
「あれ、あれ」
 それに気づいたマサラ・アッサムが、リン・ダージをツンツンとつつく。
「ふっ、おこちゃまね。このアリスのリンちゃんの魅力にかかったら、あんなおこちゃまなんかいちころよ」
 左手でうなじをかきあげ、右手でスカートの裾をぴらぴらとさせながらリン・ダージが言った。とたん、ばったーんと大きな音がして、コハク・ソーロッドがひっくり返る。
「何やってるの!? 油断しちゃダメだよ
 小鳥遊美羽が、あわててコハク・ソーロッドを助け起こした。
「だ、大丈夫です」
 鼻のあたりを打ったのか、軽く手で押さえながらコハク・ソーロッドが答えた。
 そのとき、宿り樹に果実の前を『空中庭園』ソラに連れられたメイちゃんたちが通りかかった。
「ああ、こんな所に珍しい関係者が……。お殴りトリオのみんなもアイスクリームどう?」
 当然のように、小鳥遊美羽がメイちゃんたちを誘った。
「アイスクリーム! もちろん参加します。行こっ、みんな!」
 俄然目を輝かせると、『地底迷宮』ミファがメイちゃんたちの背中を押してお店の中へと入っていった。
「あ、アイスクリーム……。ダメダメダメ。わたくしは走る女なのです」
 うらやましそうにそれを目撃しつつ、通りかかった神代夕菜はそのまま走り去っていった。
「アイスクリーム!」
「アイスクリーム!」
 一緒の大きなテーブルに着いた一同が唱和する。いつの間にか、仲間に加わっていたノルニル『運命の書』も一緒になってアイスクリームのカップを掲げてカチンとぶつけ合った。
「それにしても、いいタイミングで現れたんだもん」
 嬉しそうに小鳥遊美羽が言った。
「ええ、メイちゃんたちのオベリスクが壊れてしまったんで、世界樹に引っ越したらどうかと思って」
 『空中庭園』ソラが経緯を説明した。
「それだったら、私がお話ししてあげるのです」
 校長室に行くのだったら、紹介するとノルニル『運命の書』がアイスクリームを堪能しながら言った。
「それは助かります」
 『地底迷宮』ミファが喜んだ。エリザベート・ワルプルギス校長が斡旋してくれれば、簡単に寮の部屋がもらえるだろう。
頑張った御褒美にアイスがほしいです
「はいはい。アイスですね」
 お代わりを要求するノルニル『運命の書』に、コハク・ソーロッドがローゼンクライネを呼んで新しいアイスを持ってきてくれるように頼んだ。
「ねえ、それで、マスターの開封方法は見つかったの?」
 小鳥遊美羽が、メイちゃんたちに訊ねた。
「それが、ビュリさんの言うことには、魔石の力が強すぎるので、凄い力で壊すか、魔石の力を弱くしてから壊すしかないらしいんですけど……」
 どうしたらと、逆に『地底迷宮』ミファが聞き返した。
「アラザルクなら、詳しいんじゃないのかなあ」
 コハク・ソーロッドがアラザルク・ミトゥナに話を振った。
「うーん、おそらく、その魔石はパンダ像と同じ材質の物を加味してあると思いますよ。だとすれば、魔石その物が魂を引き寄せようとしますから、簡単ではないでしょう。申し訳ない、もっと詳しく分かればいいんですが、私も昔の記憶の全てを記録していたわけではないんですよ」
 ちょっと考えてから、アラザルク・ミトゥナが答えた。
「でも、客寄せパンダ様なら、カナタさんたちがバラバラにしたって聞いてますけど」
 以前聞いた話を思い出して、『地底迷宮』ミファが言った。
「本当ですか? 私たちは破壊を諦めて封印保管していたというのに。それが可能だったのであれば、望みがあるかもしれませんね」
 興味深いことだと、アラザルク・ミトゥナが言った。
「わーい、マスターにまた会えるかもしれないんですね」
 ペンダントを両手でそっとつつみ込みながら、メイちゃんが喜んだ。
応援するよ、頑張ろう
 小鳥遊美羽が、メイちゃんたちを励ました。
「これって、きっとあの像の御利益かもしれないよね」
「うん、そうだよね」
 コンちゃんとランちゃんが、顔を見合わせてうなずき合う。
「なあに、その像って……。ああっ! さっき世界樹の入り口近くにあったあの変な像のこと!?」
 『空中庭園』ソラが、天城紗理華たちが解体作業中だったざんすかの像のことを思い出して言った。
「たしか、ざんすかさんの姿をしていたような……」
 『地底迷宮』ミファが言った。
「そ、それは……」
 マサラ・アッサムが、ちょっとひきつり笑いを浮かべながらリン・ダージの顔を見た。たしか、何かの報酬とか言いだして、ココ・カンパーニュが森の中に倒れていたのを勝手に拾ってきて、世界樹の入り口に突き立てておいた物のはずだ。
「何か、心当たりがあるんですか?」
「はは……、そんなことより、アイスでかんぱーい」
 ノルニル『運命の書』に聞かれて、マサラ・アッサムがアイスクリームを掲げてあわててごまかした。
「アイスクリーム!」
「アイスクリーム!」
 
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「ふう、いい汗をかきました」
 やっとマラソンを終えた神代夕菜が、世界樹中層のお風呂に入りながらちょっと確かめるようにお腹のお肉をつまんでいた。
 地下の大浴場とは違って、ここは男女別の中小のお風呂だ。人の目は気にしないでゆっくりとできる。
「肉?」
 突然湯船の中から顔が現れたかと思うと、ザンスカールの森の精ざんすかが言った。
「きゃあ、入っていたんですか!?」
「ええ、ずっと……。湯中りしていて、しばらく沈んでいたざんす。なんだか、自分を燃やしたお風呂に入っている気がして……。ああ、また気が遠くなって……」
 そう言うと、ザンスカールの森の精ざんすかはまた湯船の中にぶくぶくと沈んでいった。