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招かれざる客、解き放たれたモンスター

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招かれざる客、解き放たれたモンスター
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僕らを招き入れる罠

「皆様を困らせている方はどこにいるのでしょう。早く倒して差し上げたいですね、マスター。あ! 気をつけてください! この先に沼が見えます! きっと罠が仕掛けてあるに違いありません!」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に犬の尻尾が付いていたならば、千切れるくらい激しく振り回していただろう。それほど活力に満ち溢れていた。
「危ない!」
 カチリという音と共に銀の矢がフレンディスを目がけて飛んできた。
 フレンディスがトラップ発動のスイッチをしっかと踏みしめたがためである。
 だがそこはマホロバ忍術免許皆伝。
 反応素早く易々と忍刀で矢を叩き落してしまった。
「マスター、こんな本格的なダンジョンがあったんですね! 私とても楽しいです」
「そ、そうか」
(くっそ……どーせこんな事だろーと分かってたさ! せっかく脈ありそうだからフレイ誘ってきてみりゃコレだ。何の嫌がらせだよ?!)
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は悪態をついていた。
 というのも、元々ベルクがわざわざフレンディスを連れてラビュリントスを訪れたのは、デートをしてなんとかモノにしようという腹積もりでいたからだ。
 しかし、いざ存分にラビュリントスを楽しもうと朝一番でやって来てみれば、ミノタウロスが逃亡するというアクシデントの真っ最中。
 手出しするつもりはなかったのだが、あれよあれよという間にミノタウロス捕獲作戦に巻き込まれてしまった。
「あっ! 今度は振り子斧ですよ!」
 ベルクの気持ちをつゆ知らず、フレンディスは次々とトラップを発動させては華麗な身のこなしでかわしていく。
「危ないです、今度は大きな岩が転がって来ました!」
「わざと罠にかかっていないか?」
「えへへ、分かります?」
 岩をなんなくやり過ごすとフレンディスは純真な笑いを見せた。
「ま、楽しんでるようならいいんだけどな」
 ベルクは岩の転がっていく先を何気なく眺めていた。
 本当に偶然だった。
 あと少し気付くのが遅かったらどうなっていたか、想像するだけで身の毛がよだつ。
 人の背丈の倍ほどある岩をいとも容易く砕き散らし、その双角のそそり立った巨体が姿を現したとき、ベルクは本能的に命の危機を感じた。
「マスター。あれがミノタウロスですね」
「そうだ……。しかもかなり興奮してやがる」
 注視してみれば、ミノタウロスの体にはいくつもの擦過傷が散在し、大胸筋にはスパイクボールが深々とうずもれていた。
「どうやら館内のトラップにかかったことによって凶暴化しているようですね」
「ああ、このままじゃオレたち殺されるかもな……」
 そのとき、ミノタウロスが吠えた。
 フレンディスは先ほどまでの能天気さはどこへ消えてしまったのか、真剣な眼差しでミノタウロスと正対している。
「マスター。許可を」
「やめろ、バカ! 逃げるぞ!」
「え? ……きゃ!」
 ベルクは無謀にも一人でミノタウロスに立ち向かおうとしていたフレンディスを抱えると、一目散に逃走を図った。
「ま、まってくださいマスター」
「今はそれどころじゃない!」
「こ、こ、これ……、おひめさま……だっこ……です」
「いっ?! 今言うことじゃないだろ?!」
「あっ、ごめんなさい……。でも……」
「いいから、逃げることが先決だ!」
「は、はい……」
 ベルクの腕の中で小さく縮こまったフレンディスは、顔を真っ赤にしてこの逃避行に胸を高鳴らせていた。

「なーっはっはっは!!」
 ラビュリントスの重苦しい空気におよそ似つかわしくない高笑いが響いた。
「シャンバラ期待の超新星、このメルキアデス・ベルティ(めるきあです・べるてぃ)様が来たからにはミノだかモンタだか知らないが、朝飯前だぜ! 俺様は強すぎる! 強すぎる俺様の前では牛の一頭や二頭、敵じゃねえ!」
「ああ、馬鹿だとは思ってたけどここまでとはね……。ミノタウロスの拳を受けて吹き飛ぶ姿が目に浮かぶわ」
 メルキアデスの3歩後ろをひどくにやつきながら歩いているフレイア・ヴァナディーズ(ふれいあ・ぶぁなでぃーず)はいかにもな言動不一致を見せている。
「まったく、あなたは本当に面白いわ!」
 と、思いきや気分のよさそうに吐いた台詞を聞くに、彼女もまた心底この状況を楽しんでいるようだった。
「よしきた! まずはヒロイックアサルトで攻撃強化だ!」
「ちょっと待って。こちらから攻撃を仕掛けちゃダメだって係員の人も言ってたわよ?」
「なるほどな。だが超絶エリートの俺様が牛ごときに敗れるはずがないじゃねえか! ついでに防御も硬くしねえとな」
「それは重要ね。あなたに死んでもらっては困るもの」
「とりあえず火力アップだぜ!」
「はいはい。どうなっても知らないわよ?」
 フレイアはヒロイックアサルトをメルキアデスにかけた途端、メルキアデスは全速力で通路を走り出した。
「うおおおお! どこだあああああ! 牛いいいいいい!」
「馬鹿! だから先制攻撃はダメだって……。もう、だからあなたはもてないのよ!」
 フレイアはメルキアデスの後をこれまたにやつきながら追いかけると、幸か不幸かメルキアデスがものの見事にミノタウロスと対面しているところだった。
「行くぜ! オラオラオラオラオラ!!!!」
「だからあなたって人は! ディフェンスシフト!」
 とはいえ、自らが身を挺してメルキアデスをカバーするつもりはないらしい。メルキアデスの防御力を上げるだけ上げ、確実に巻き込まれることのない安全圏で顛末を見守っている。
「オラオラオラオラ!!」
「いいコンビネーションよ! 出来れば壁際に追い詰めて! 相手の身動きを取れなくすれば勝機がないわけではないとは思うけれど多分無理よね!」
 パワーアップしたメルキアデスの拳がミノタウロスの腹筋を絶え間なく撃つ。
 しかし攻撃開始当初は威勢に押されていたミノタウロスも、痛みを覚えるにつれ興奮の度合いが高まってきた。
「最後の一発!」
 渾身の一撃がわき腹に入る。が、ミノタウロスが倒れる様子は一切なかった。
「ぐおおおお!」
「ぐわあああ!」
 逆にミノタウロスが真一文字に薙いだ拳闘により、メルキアデスは壁数枚を自らの型をぶち抜きながら飛んでいった。
「……お見事ね、そのやられっぷり。さて、私は生存確認をしに行かなければ……」
 いきり立ったミノタウロスを尻目に、フレイアはそそくさとその場を立ち去った。
 やはり顔ににやつきを貼り付けながら。