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リアクション
薔薇騒動が未だ収まらぬ屋敷に、ひょこひょこと忍び込んでくる二つの影。
ミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)とフラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)だ。
屋敷近くの森で、サバイバル・ゲームに興じていたのだが、少し疲れてきたところで、良い匂いに釣られて休憩しようと忍び込んでいる。
幸い入り口にはパーティーのお知らせのチラシが置いてあり、其処には「同性カップル歓迎」の文字。ぱっと見は二人ともボーイッシュな女の子風、しかしよく見れば見るほど男の子なんだか女の子なんだか男の娘なんだかその逆なんだかはっきりしなくなってくる、そんな自分たちであれば、問題無く溶け込めるだろうと判断しての侵入だ。
そしてその読みは的中したと言って良い。薔薇騒ぎも手伝って、誰一人この奇妙な二人の侵入に、気づいては居ない。
「うーん、でもやっぱり、なんか場違いだったかもね」
一応、入り口でパーティーの趣旨は確認したけれど、いざ同性カップルがずらりと並んでいる様を見るとどうにも違和感を覚える。
ミリーとフラットの二人も、見た目こそ女の子二人だけれど、カップルというわけではないし。
「とりあえず、飲み物だけ拝借しよぉ?」
しかし空腹と喉の渇きには逆らえない。フラットの提案に従い、ミリーは庭先に出ていたワゴンから、ティーカップ二つとポットを一つ、ついでにクッキー数枚を失敬する。
流石に通りすがりの侵入者がホール内までお邪魔するのは気が引けたので、そのまま庭の人混みに紛れてベンチに腰を落ち着ける。
周囲は何やら騒がしいけれど、中にはテーブルセットに座ってお茶を飲んでいる人も居るのだし、こうしていても目立たないだろう。
「うん、このローズティーは美味しいね」
ほんのりピンク色をしたハーブティーに舌鼓を打ちながら、ミリーは手にしたクッキーを口に運ぶ。
フラットもまた、騒ぎの中心にぼんやりと目を遣りながら、しかし騒ぎに関わるつもりは無いらしく、ゆったりとお茶を楽しんでいる。
と。
にょろ、と伸びてきたツタ……といっても、一抱えほどある太いものが、ミリーの肩辺りにまとわりつく。
「……なぁに?」
鬱陶しい前髪を払うような気軽さで、ミリーはツタを払いのけようとする。しかし、ツタは思いの外頑丈で、しかもどうやら、意思を持っているらしいツタはそれしきではびくともしない。にゅるり、とミリーの体にまとわりつこうとする。
「うわぁ、なにこれ、鬱陶しー」
ミリーは不快感をあらわにするが、全力でサバゲーに没頭していたばかりだからか、思うように立ち回る事が出来ないようだ。
「もう、鬱陶しいなぁ」
見かねたフラットが、そうだ、と何か閃いたような顔をした。
次の瞬間、フラットの手には、自らの光条兵器が握られていた。偃月刀と薙刀の中間の様な形をした、フラットの身長の二倍近くはありそうな柄の先端に、大ぶりの刃を具現化させたものだ。
「もっと上手く使えるようになりたいんだよねぇ……みじん切りになぁれ」
うふふ、と楽しそうに笑いながら、フラットは手にした光条兵器をぶんぶか振り回す。
切る対象をツタだけに限定しているので、多少ミリーに触れても問題無い。フラットの手の中で柄が閃くと、ミリーを捕らえようとしていたツタはすぱすぱと切り裂かれてぼたぼた地面に落ちていく。
しかし、すぐに第二波がやってきてしまう。
「鬱陶しいなぁ、もう。お茶飲んだら、さっきの続きにもどろー?」
「そうだねぇ」
危機感の感じられないやりとりを続けながらも、フラットは光条兵器を振り回し続けている。
ツタの再生速度は異様に速いようで、切り捨てるそばから次のツタがやってくる、のだが、フラットに危害を加えるつもりはまるで無いらしい。
これは良い練習台、と、フラットは元を絶つことはせずに、ミリーにまとわりついてくるものだけを、素早く的確に切って捨てる。
そうしながらも、ちゃっかりお茶を頂くことは忘れない。
暫くそうしてから、カップもお皿も空になったところで、二人は何事も無かったかのように立ち上がり、その場を立ち去るのだった。
レオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)は、いくぞ、と小さな声で天海 北斗(あまみ・ほくと)に合図した。
折角のレオンとのデートを、騒動に邪魔されて、不機嫌そうに唇を尖らせていた北斗だったが、しかし合図一つで軍人の目つきに変わる。
レオンと軽く目配せを交わすと、今まで遠巻きに見守っていた人々に向かい、離れるように声を張り上げる。
「このまま此所に居ては巻き込まれます! 避難して!」
その声に、固唾を呑んで戦闘の行く末に注目して居た人々はふと我に返る。
加勢する意思のある者は残って、そうで無い者はもっと離れるように、と北斗とレオンの二人で分担して指示を出し、誘導する。
二人とも教導団の軍人である。有事の際を想定しての避難誘導の訓練も、勿論積んでいる。その甲斐あってか、誘導はきわめて順調に進んだ。
戦闘に加わるつもりのない人たちを余波の及ばない所まで待避させると、改めて二人は薔薇に向かい合う。まだ数人が残っているが、残っているということは余波くらい自力で避けるだろう。
これで思い切り戦えるというもの。
「よし、いくぜ!」
普段はパートナーの援護に回ることが多い北斗だが、たまには恋人に良いところの一つも見せたい。
そんな思いも手伝って、その行動には気合いが入っている。
地面を強く蹴って、飛び出していく。
「仕方ない、行くぞ、アウレウス」
「はっ」
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)に合図をすると薔薇の前へと躍り出た。
グラキエスは、騒ぎを聞きつけて飛んできたものの、手を出すタイミングを計りかねて傍観していた。しかし、なかなか事態は好転しない。相変わらず薔薇の手の中には数人の男性が捕らわれ、弄ばれているままだ。
このままではいつまで経ってもパーティーが始められない。グラキエスはさっさとケリを付けるべく、奈落の鉄鎖を発動させ、重力に少しばかり干渉し、ツタの動きを鈍らせる。そこへすかさずブリザードを叩きつけると、ぴしぴし、と高い音を立ててツタの一部が凍り付いた。
その瞬間、アウレウスが駆ける。強化光翼で凍り付いたツタの元まで飛ぶと、ランスバレストでそれを粉砕する。
「よし、その調子だ――」
首尾良くツタを一本、無力化出来たことに満足すると、グラキエスは次に行くぞ、と別のツタへ狙いを定めようとする。しかし。
「ッ……?!」
突然、グラキエスの左半身に鈍い痛みが走った。彼の左上半身には、悪魔と契約した証が刻まれている。その、契約の証がじくじくと燃えるように熱い。息苦しさに、グラキエスは膝を折った。
「主?!」
それに気づき、主大好きアウレウスは慌てて地上に降りてきて、グラキエスの横に座り込む。
「体調が思わしくないのですか? どうかお下がり下さい、ご自愛を」
「ああ……すまな……ぐっ……」
声を上げることすらままならない様子で、グラキエスは荒い息を吐く。
それから、震える指先で空中に印を描いた。契約した悪魔を呼び出すための印だ。
「ふふ、お呼びですか、グラキエス様?」
するとずるりと空間が歪んで、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が姿を現した。
「エルデネスト……」
「ああ……証が痛みますか?」
すべてお見通し、と言わんばかりに口元を笑みの形に歪めて、エルデネストはグラキエスの顔にそっと自分の顔を近づける。
「……あの薔薇を何とかしろ……それから、これを、鎮めてくれ……」
苦しげな声に、エルデネストは分かりました、と囁くように答える。
「代償はきちんと支払って頂きますが」
「分かっている……」
グラキエスの返事を聞くなり、エルデネストはスッと立ち上がって薔薇と対峙する。
「アウレウス、グラキエスを守っていてください」
「……仕方が無い」
エルデネストの口調に、何か裏があるような気がしないでも無かったが、しかし戦闘に加われないグラキエスを一人で放っておく訳にもいくまい。アウレウスは仕方なしに、鎧の姿に転じてグラキエスの体を包み込む。
それを確認して、エルデネストは薔薇に向かって飛び出していった。カタクリズムで牽制してから、絆の糸を巡らせてツタを切り裂こうとする。が、しかしツタは太く、思うように切り落とすことが出来ない。
「これは、少々時間が掛かりそうだ……」
少し苦々しげな顔を浮かべながらも、エルデネストは攻撃の手を緩めない。
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