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『しあわせ』のオルゴール

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『しあわせ』のオルゴール
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第1章 子供たちと遊ぼう

 ――死と、となりあわせで『しあわせ』?――

   ※   ※   ※

「さぁ、みんなで一緒に歌って踊ろう!」
「お、おねーさんに合わせて歌ってくださいね」
 『うたうおにいちゃんとおねえちゃん』に扮した碓氷 士郎(うすい・しろう)乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)の声が教室に響く。
 ここは山奥の小さな小学校。
 子供たちと遊ぶためにやってきたボランティアスタッフたちが、思い思いの方法で子供たちとコミュニケーションをとっていた。
 猫耳の帽子を被った七ッ音が、ショルダーキーボードで楽しげな音楽を奏で始める。
 歌は、即興。
「ねこさん、ねこさん、にゃーお、にゃーお。ごしごし、ごしごし、お・か・お!」
「にゃーお、にゃーお、ごしごし、ごしごし!」
 七ッ音に合わせて士郎もノリノリで猫マネをして踊り出す。
 子供にも踊れるような簡単なダンス。
 楽しそうな様子につられて、子供たちも一人、また一人と手足を動かし始める。
「ほぉら、もっと元気よく! にゃーお、にゃーお!」
「にゃーお! にゃーお!」
 歌いながら七ッ音は一人の少女をちらりと見る。
 彼女が先程から気になっていた少女の名は、スノと言った。
 スノは、周囲の子供たちからどこか距離を置かれているようで、その様子が昔の自分を思い起こさせ、七ッ音は放っておくことができなかったのだ。
「にゃーお、にゃーお」
 元気よく、大きな声で、スノは歌っている。
 その様子はとても楽しげ。
 楽しげな筈だが……
「どうしたんだい、七ッ音?」
「……どうしたんでしょう、あの子は、あんなに楽しそうなのに。なのに、何故こんなに心がざわめくんでしょう……」
「……そうだねぇ」
「うーむ。大人しい子だから周囲と馴染めんかったんやろうな。それが今あんだけ明るいのは何か意味があるんやろうか……しかし!」
「え?」
 七ッ音たちの会話に、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)が割って入る。
「しかし、そんなのしるか。オレはオレのやりたいようにやるで! ほいな、続いてはオレと一緒にバキンボキン体操、はーじめーるでー」
 七ッ音たちの歌と踊りで緊張がほぐれた子供たちの前に、裕輝が進み出る。
「よっしゃ、いっちょやったろか。何しろオレ、子供が好きやからな」
「ロリコンだ、皆、逃げろー!」
「いやそういう意味やなくて」
 パートナー扶桑の木付近の橋の精 一条(ふそうのきふきんのはしのせい・いちじょう)の言葉に苦笑しながらツッコむ裕輝。
 見た目も幼い一条は、あっとゆう間に子供たちに手を引かれ、あれこれ世話を焼かれたりいじられたりしていた。
「く、くそうっ、これじゃあ逆じゃねえか!」
 ぶつぶつ言いながらもどこか楽しげな一条だった。

「バキンボキン♪ バキンボキン♪ 手首の骨をバキンボキン」
 裕輝の歌声が響く。
「二の腕二の腕バキンボキン 隣も合わせてバキンボキン」
「おい」
「隣の人の腕をボキン、違う隣の足をバキン」
「こら待て」
「おらおら〜、どないした。元気んないで〜」
「待てっつてるだろ!」
 げすん。
 一条のキックが裕輝の後頭部を直撃する。
「がふぅ! 何やねんな」
「子供になんてモン踊らすんだ!」
「そんな事ゆーたかて……」
「あの、でも……」
 裕輝の胸倉を掴む一条に、七ッ音が遠慮がちに声をかけた。
「皆さん、とても楽しそうですよ?」
「む?」
「うーん、ボクらには理解しがたいけど、子供にはどこか惹かれる所があるんだろうかねぇ」
 子供たちの歌がにゃーお! からいつの間にかバキンボキン! に変わっているのを、七ッ音と士郎は複雑な表情で眺めていた。