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リアクション
■観光前日 〜揺れる心の始まり〜
綺麗な月が浮かぶ静かな夜。ミリアリアは窓越しに月を見ながら、本日何度目かのため息をつく。明日の準備がある、と契約者たちがミリアリアの小屋を後にしてから、ずっとこんな調子だ。
「この私が恋……ねぇ」
ため息の原因は、恋にあった。視線をチラリとクルスがいるであろう部屋に向ける。……クルスはその部屋で、ぐっすりと眠っているようだ。
「恋……それは恋ね。同じ恋する乙女として見過ごせないわ。ミリアリアさん、あたしも協力するからサポートは任せて」
「私も応援しちゃいます。私は恋するオトメの味方ですから♪」
――眠 美影(ねむり・みかげ)と遠野 歌菜(とおの・かな)の言葉を思い出し、なおかつ自分がクルスに恋していることに気付かされる。そして、顔を赤くしながらため息をつく。そんなループをミリアリアは繰り返していた。
「この歳になって恋とはねぇ……久しく忘れてた感じがするわ」
もしかしたら、初めてなのかもしれない。妹と生き別れてから、様々な分野を研究し続け、今日まで生きてきた。その研究も、全ては寂しさを紛らわすものだったかもしれない。
「――モニカ……」
そして、もう一つ思い出されるのが生き別れた妹、モニカ。モニカはミリアリアの言葉を否定し、自分の姉ではないと言い放った。その言葉に、ミリアリアは少なからずともショックを受けてはいるようだ。
「……とにかく、今はクルスを楽しませることだけを考えなくちゃ。あの子には、楽しい世界を見せてあげて……寂しくさせないようにしないと」
遅かれ早かれ、再びモニカと対峙することになる。そんな予感を胸に秘めながらも、ミリアリアはまず目先のことに集中することにした。そして同時に、恋心に揺れる想いがクルスのことを思い出すと……ミリアリアは再び、ため息をついてしまうのであった。
――とある場所、とある所。モニカは粗末なベッドにうずくまり、自身の想いと戦っていた。
(あの魔女が私の姉であるはずがない……私が物心つく前の頃、姉は私たちが住んでたところで起きた争いごとに巻き込まれ、全身を包帯で巻かなければならないほどの大怪我を負ったって“主”が言っていた……その治療の様子を遠目ながら見せてもらった! なのに……なのに、なぜあの魔女が私の姉であることを否定しきれない……!)
険しい表情を浮かべるモニカ。姉と騙るあの魔女の言葉を頭では否定しても、心までは否定しきれない……そんな複雑な心境と焦燥に苛まれるモニカ。そこへ携帯電話に着信が入り、モニカの繰り返される逡巡を止めさせた。
「――はい、もしもし。……はい、明日……あの魔女と機晶姫が空京へ……わかりました、隙を見て再び奪取してきます。……失敗は許されないんですね……了解です。……姉のためにも、頑張らせていただきます……」
短めの電話を切ると、モニカはベッドから身体を起こし、まっすぐ前を見つめる。
(機晶姫を手に入れるのはもちろんだが――あの嘘吐き魔女をこの手で討ち取り、あの言葉が嘘であることを証明する。待っていろ……魔女め)
空京で騒ぎが起これば、警察が嗅ぎつけてすぐにやってくるだろう。その前に任務を終わらせ、そして……自身の気持ちに整理をつける。モニカの不退転の決意は確かなものとなるが、いまだその心には否定しきれぬ自分の存在をあることも感じ取っているのであった……。
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