校長室
早苗月のエメラルド
リアクション公開中!
「無茶すぎるよ! 僕死んじゃうよ!」 「でもこうしてちゃんと無事だった訳だし」 争っている二人を見ながら、大地はエースに声を掛けた。 「今の、いいかもしれませんね」 「やってみるか?」 問い掛けつつも、エースはすでに光る箒で鯨の目の前へ行っている。 そして注意を惹き付けようと上へ下へ飛びまわった。 タイミングを測っている大地の横に、某が現れた。 彼は手に特大サイズの缶詰を持ち、大地にそれをつきだした。 「頼む」 「何ですかこれ?」 「念のためとっておいた”にがり”だ。 俺の苦労の結晶をあの野郎にぶち込んでくれ」 「了解」 苦笑している大地。 某は鯨に向かってソードを突きつけるように向けた。 「行くぜ!」 某がライトニングブラストを鯨の剥きだしの牙に向かって放つと、鯨は衝撃に口を開く。 大地は眼鏡を外すと、倒れたマストから駆け、鯨の口内へ飛びこんだ。 「まずはこれを食って貰いましょうか」 大地が蓋が空いたままの缶を逆さにして舌を駆けあがると、鯨は苦しそうなうめき声を上げた。 どうやら苦労の結晶は中々に良い効果があったようだ。 「苦しいですか? 今味覚を無くしてあげますよ」 大地は黒曜石の覇剣を舌の上に振り下ろすと、にがりの道を辿って舌を切り裂いて行く。 より一層大きな悲鳴が大地の鼓膜を破る前に、鯨の身体がぴたりと動かなくなった。 その隙に永夜のツタが大地の身体を絡め船へ運ぶ。 「今のは?」 眼鏡を掛けながら聞く大地に、永夜は何も言わずに指を指す。 そこには刀真が鯨を捕えたワイヤーがあちこちに張り巡らされていた。 「運命共同体という訳ですか」 ワイヤーを最後まで使い切ると、刀真は雅羅に向かって叫んだ。 「踏ん張れよ雅羅!!」 「応!!」 ヴァイスとリアトリスの治療により回復した美羽と真が鯨の様子を伺っている。 「なんかおかしくない? さっきから右手でばかり攻撃してるような……」 美羽の問いに、前からやってきた裕輝が答えた。 「さっきのロザマリちゃんの攻撃で左の目が余り見えてないんや。 エコーロケーションを失った今、頼れるのは視覚だけやから」 「右を先にやってしまえば有利になる訳か」 「そういうこ――」 裕輝は、目を見開いている美羽と真に、後ろ振り返った。 ワイヤーで身体の動きを封じられた鯨が渾身の力を込めて右手を振り下ろしたのだ。 船首が潰され破壊されていく。 ばしゃばしゃと人が落ちた音がして、裕輝は反射的に走り出し、海の中へ飛び込んだ。 七ッ音が苦しそうにもがいている。 「今いくで!」 裕輝が七ッ音の元へ向かおうとすると、向う側に夢悠と縁が落ちているのが見えた。 「糞っ! いっぺんにそんな助けられへんやんか!」 鯨は落ちた人間達を攻撃しようと落ちて行く木屑を風圧で飛ばす。 「そ、そうはさせません!!」 リースは氷術で木屑の重さを増やし、海へ落としていくが全ては間に合わない。 夢悠の頭へ木が襲いかかる。 リースの召喚したドラゴンが夢悠を助けようと空を走っていた時だ。 彼女の行動を邪魔に思った鯨の手が、リースへと伸びたのだ。 リースが鯨の手に吹き飛ばされるのが、 ジゼルの目にスローモーションのように映った。 叫び声に前を向くと、食人が鯨の口の中へ喰われていくのが見える。 突然降りだした雨は頬を叩き、自分が泣いているのかそうでないのかも分からなかった。 ――もう駄目だわ。このままじゃ誰かが犠牲になる。 戦いが始まってから船を護るように響き続けていた歌が、聞こえなくなった。 「歌わなきゃ」 ジゼルは繋いでいた柚の手を振り払い、シュラウドに向かって歩き出した。