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リアクション
When You’re Smiling
森でイノシシ狩りが行われていた頃、杜守 柚は海岸を散歩していた。
「綺麗な砂浜ですね」
「そうだね」
振り返った先にいる彼女のパートナー杜守 三月は、屈託の無い笑顔を向けられて同じ笑みを返す。
ここで過ごすであろう半日と、明日の事を考えれば、こんな所で遊んでいていいものかとも思われたが、何処も人出が足りて居て彼らには担当すべき仕事が無いのだから仕方ない。
実際本人達もどうにかしようと考えてここまできてはいたのだが……
「歩いてたら何かあるかと思ったんだけど、な!」
手持ち無沙汰に海岸に落ちていた貝殻の欠片を海に向かって投げていると、柚が何かに気づいた様に森の方を見ている。
「あれ、ジゼルちゃん?」
「ホントだ。何やってんだろ。おーい」
二人が手を振って合図すると、ジゼルもそれに気づいたようでこちら側へとやってきた。
「ジゼルちゃん、何してたんですか?」
ジゼルの髪に付いていた葉に気づいて、柚は取ってやりながらそう尋ねる。
「グロキモイノシシが追いかけてきて、走ってたらよく分かんない所に出ちゃった所」
「え?」
「いや、そこは忘れて。ていうか私が忘れたい。
……んーとね、雅羅には遊んでていいって言われたけど、何か手伝える事は無いかなーって、そう思ったんだけど。
やっぱ無かった」
「はは。僕らと一緒だ」
「食事の準備はまだ時間があるみたいだし、他の事は人手が足りてるって。
せめて私もモンスターをこう、皆みたいにかっこ良くえーいって倒せたら役に立てるのに」
ジゼルは地面から拾い上げた枝を、恐らく刀を持って戦う真似をしているのだろうが、その手がバット持ち状態になっている辺り、この娘が何時かの未来にも剣士になれる事は無いだろう。
と、三月は吹き出してしまう。
「ジゼルが? 無い無い」
「むー……柚、三月”ちゃん”がいぢわる言う」
「三月ちゃん! 駄目ですよ」
「何だこのアウェー感」
ため息を付く三月に、柚とジゼルはコロコロと笑い出している。
数秒あれば手をつないだり腕を組んだりしているのが、何と言うかまぁ女子学生のノリだ。
その後も二人が他愛も無い会話を楽しんでいるのを暫く微笑ましいものとして鑑賞しつつも、元来動き回っているのが好きなタイプの三月だから、その場で意味も無くじっとしているのは少々疲れてきていた。
「散歩でもする?」
散歩と言って実際歩いてはいるものの、文字で言うならそれは牛歩だ。
三月が吹き付ける風に目にかかる前髪を抑えながら後ろを振り向くと、靴を手に持った柚とジゼルが波打ち際で戯れながら歩いている。
距離としては数メートルも無いのだが
――ここ迄来るのに何分かかるやら。
「楽しそうなのは良いけど、ずっと水に入ってると風邪引くよ」
散歩を諦めて、三月が逆に二人の所まで歩き出した時だった。
「った……」
唐突に顔を顰めたジゼルに、柚が手を引いて歩き出す。
砂浜に引き上げて行った二人の元へ行くと、柚が”パラミタ版 家庭の医学”のページを捲っていた。
どうやらジゼルは、何かで足を怪我をしたらしい。
「もしかして切った?」
「うん。でも大丈夫よ。ちょっとした傷だし、柚もそんなに真剣に調べなくていいから」
「一応だろ。見せて」
反射的に足に触れた指に、ジゼルは一瞬身を震わせてから視線を泳がせ、柚に助けを求めた。
「だっだめですよ三月ちゃん、女の子の足をそんな」
気づいた柚は、真剣に傷口の具合を見ている三月の手を払って、自分が診療すべくその場所と入れ替わった。
ジゼルの隣に座った三月は、柚の態度でやっと自分の失敗に気付き、そして以前自分がジゼルにしてしまった”事”もついでに思い出し、口元に手を当てて俯いてしまう。
「ごめ……」
「別に大丈夫だからっ、あ! あの気にしないでね。
三月に触られるのが嫌とかじゃないからってえと、私何言ってんのかな」
フォローしようとして逆に窮地に追い込まれた様子のジゼルもまた俯いてしまう。
軽いお葬式ムードに、困って話し出したのは柚だった。
「……ジゼルちゃん。
海に帰りたくなったり、してないですか?」
柚の口から出た意外な一言に三月が隣を見ると、いつの間にか柚が顔を上げて不安げな眼差しでジゼルを見つめていた。
「どこかに行ったりしないですよね?
もし不安とか、悩みとかあったら、何でも言って欲しいです。
……明日の事を考えると、不安にならない人って居ないと思うんです。
私自身、ちょっと不安がありますし。
でも! 言葉にすると少し楽になるかなって」
柚の口から堰を切ったように溢れ出した言葉に、ジゼルは合図値すら打てないでいる。
言いようの無い不安からか、ジゼルがフレアスカートの裾を握りしめている手に気づくと、柚は飛びつくようにジゼルを抱きしめた。
「私じゃ頼りないですけど……ジゼルちゃんは大切な友達ですから!」
三月の目からは、ジゼルの瞳が動揺に動いているのが分かった。
何かを隠しているのも、何かを考え居るのも分かる。
けれどそれを今言えないのならば、無理強いせずに待っていよう。
三月はそう思い、伝えるべき言葉だけを送った。
「僕も、大切な友達だと思ってるよ」
そう言ってポケットからあるものを取り出すと、彼女の首にネックレスの様をかけた。
「これ……」
装飾を手をのせて見ているジゼルに、三月は説明する。
「お守りだよ。
明日は傍で守れないから、僕の代わりとして」
――本当は出航前に渡すつもりだったんだけど、遅くなっちゃったな。
小さな後悔を胸に隠しながら、三月はジゼルの頭に向かってに手を伸ばした。
「無理しちゃ駄目だよ!
不安になった時は、周りを見渡せばいい。
もう、一人じゃないから」
優しく頭を撫でる手と見つめてくる微笑みに、ジゼルは耐えきれずに再び真っ赤になって俯いてしまうと、蚊が鳴くような小さな声で
「……ありがとう」と気持ちを伝えた。
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