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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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第十一章 ストラトス・チェロ危機一発!? 1

 しかしその頃。
 チェロを保管してある部屋には、刹那が辿りついていた。

「……む?」
 予想外の光景に、刹那が一瞬手を出すのを躊躇する。
 それもそのはず、チェロの部屋には黒い鎧の人影と恐竜の着ぐるみを着た何者か――つまりパーシヴァルとテラーが警護として配されており、その中央にはいくつものチェロが並べられていたからである。
 これは「交渉が済む前にチェロを盗まれないように」というクロウディアの計画で持ち込まれたものなのだが、当然刹那はそんなことを知る由もない。
「参ったの……どれが本物かさっぱりわからぬ」
 潜入などには自信のあった刹那だが、さすがにチェロの真贋を判定せよというのは完全に専門外である。
 最も確実な手段は全て持ち出すことであるが、サイズを考えればさすがにそれは不可能。
 とはいえゆっくり調べている時間はなく、最終的にはどれか一つに当たりをつけて持ち出すより他になさそうだ。
 そう考えて動き出そうとした刹那だったが、その瞬間、こちらに向かってくる何者かの気配を感じ、急いで部屋の前を離れた。

「やー。やってみるもんやねぇ」
 刹那と入れ違いにやってきたのは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)
 とりあえず狙うは一攫千金とばかりに隙を窺っていたところ、わりとあっさりと好機が到来してやすやすとここまで侵入できてしまったりしたわけである。
「やってみるもんやねぇ、じゃねーよ……」
 あきれ顔でついてきているのは扶桑の木付近の橋の精 一条(ふそうのきふきんのはしのせい・いちじょう)
 うっかり裕輝のパートナーになってしまったせいで日夜振り回されっぱなしの不幸体質くんである。
 そしてさらにその後方、二人の様子を怪しみつつ尾行してきたのはフェイ。
「確実性を重視し、決定的な瞬間を確認してから捕まえる」という判断はどうなのだろうか、とも思うが、あいにく彼女は単独で行動しているため、ツッコミを入れてくれる相方など存在しない。

 物陰から刹那が見守る中、裕輝はあろうことか堂々とチェロの置かれている部屋に入って行った。
「!?」
 まさかの正面突破に硬直する一条をしり目に、裕輝は何と自分から警護の二人に話しかける。
「や、見張りご苦労さん」
「ん? ああ」
「がぁぅ」
 あまりに自然に堂々と入ってくるものだから、テラーはもちろんパーシヴァルすら彼が侵入者であるととっさには判断できない。
 もう完全に心臓バクバク状態の一条には目もくれず、裕輝はずらりと並んだチェロを見回し、これまたストレートにこう聞いた。
「……で、どれが本物なんや?」
「え? いや、実は僕もさっぱり……ねぇ?」
「ががぅがぁぃ」
 顔を見合わせるテラーとパーシヴァルに、裕輝が一つため息をつく。
「なんや、知らんのかいな」
 警護の二人にすらどれが本物か教えない、というのは……いいような、悪いような。
 そんな様子に、裕輝はもう一度チェロを見回し、何でもないことのようにこう言った。
「しゃあないな。とりあえず二、三挺もらうわ」
 その言葉に、怪訝そうに振り向いたパーシヴァルとテラー……のボディに、いきなり裕輝の拳が直撃した。
「……っ!!」
 パーシヴァルがその場に膝をつき、体重の軽いテラーは派手に吹っ飛んで、あろうことかチェロを一挺巻き込む。

「ええええええ!?」
「な、何をしている!?」
(――おいっ!?)
 一条が、そしてつけてきていたフェイもたまらずツッコむ。
 刹那はどうにかこらえたが、心の中では同時にツッコミを入れていた。
「おい、目的忘れてどうすんだよっ!?」
 一条の至極もっともなツッコミに、裕輝は不思議そうに答える。
「男やったら狙うは一攫千金! ……なワケないやろ。
 正味の話、そんなんどうだってええんや。オレはなんか楽しそうだから来ただけや」

『そんな目的かよっ!!』
 周囲の全員、総ツッコミ。
 いつの間にかチェロの中に隠れて警護をしていたボビン・セイ(ぼびん・せい)や、侵入者が最後の一人になるのを待って捕まえようと潜んでいたはずの戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)までツッコミを入れてしまっている。
 もちろん刹那もつられてツッコんでしまい、見つかる前に慌てて隠れたことは言うまでもない。
 全員に正気を失わせてしまう、まさに恐るべきメンタルアサルトといえよう。