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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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第十一章 ストラトス・チェロ危機一発!? 2

 ともあれ、これはチェロ奪取目的の侵入者よりもはるかに厄介である。
「さあ、オレを止めてみ!!」
 そう叫ぶや否や、裕輝はいきなり手近にあったチェロを掴むと、それを振り回し始めた。
「わああああっ!!」
「ちょっ、やめてよっ!!」
「な、何をする!!」
 チェロを確保する意図のある相手であれば、チェロに被害が出るようなことはしないはずだ。
 だが、彼のように「そんなんどうでもいい」という相手は、平気でチェロに被害が及びかねないことをする……というか、裕輝の場合、わざとそうやって反応を楽しんでいるフシがある。
 数の上では警護側が圧倒的に有利であり、全力で戦えば裕輝を捕えることも不可能ではないのだろうが、チェロを破壊しないよう気をつけねばならないとなると、なかなか思うようには戦えない。

 しかし、そんなことは一切気にしない剛の者がいた。
 もちろん、テラーである。
「ごげがげごぉぉぅ!!」
 吼え声をあげながら、裕輝からチェロを奪還しようと飛びかかる。
「お? せやったらこれはくれたるわ!」
 当然裕輝は迷うことなくフルスイング。
 テラーをジャストミートしたチェロが、面白いようにあっさり壊れた。

「い、いい加減にしろ!!」
 フェイがたまらず発砲するも、裕輝は持ち前の身の軽さで別のチェロの台の陰に隠れてしまう。
「くぅ……おのれっ!」
 小次郎がすかさず後ろを取ろうとするが、裕輝は当然のごとく目の前のチェロを手にして応戦する。
 こうなると、また捕り手は手詰まりとなり……結局、体勢を立て直したテラーがまた突っ込む、という悪循環になる。
「ごぅぐぁがぁぁぁ!!」
「よし、そんなら三挺目や!!」
 フルスイング。ジャストミート。壊れるチェロ。完全な地獄絵図である。

 その部屋の片隅で、セイは必死でメールを送っていた。
『変なのが来てチェロが壊されそう、早く来て!』
 三姉妹はもちろん、今回来ている知り合いに片っ端からメールを送りまく……ろうとしていたセイの動きが止まり、その場にパタリと倒れる。
 そんな様子を物陰から確認しつつ、刹那が少しずつ少しずつ部屋の中にしびれ粉を送り込んでいたからだ。
 えらく回りくどい作戦ではあるが、もうこれくらいしか思いつかなかったのである。

 ……と。
「ん?」
 最初に異変に気づいたのはフェイだった。
 壊れたチェロの破片を引っ掛けたのか、テラーの着ぐるみの一部が破れかけている。
 それだけなら特に不思議はないのだが、問題はその中から何か漆黒の靄のようなものが漏れ出してきていることだった。
「ま、まずいっ!!」
 少し遅れてパーシヴァルもそれに気づき、慌ててテラーの方にダッシュすると、なおも臨戦態勢をとっているテラーをひょいと小脇に抱えあげた。
「あ、僕は用事を思い出したので、あとはよろしくっ!」
「え? え? えええっ!?」
「おい、この期に及んでどこに行く!?」
 裕輝にも匹敵する謎行動に、一条やフェイが敵味方問わずツッコミを入れるも、パーシヴァルの足は止まらず。
 テラーを抱えたまま部屋を飛び出し、刹那にも気づくことなくそのままどこかへ行ってしまった。

 それを見届けて、裕輝がおもむろに口を開く。
「何や、あの怪獣おらんようになったら、一気に面白なくなったな」
 それじゃもう帰ってくれ、と言いたくもなるが、これだけ荒らされて帰してしまっていいものか、というと、もちろんいいはずがない。
 捕縛の機会をうかがうフェイと小次郎を両手に持った二挺のチェロで牽制しつつ、裕輝は一気に部屋を飛び出した。
「この一挺はファンサービスや!」
 そういうや否や、右手に持っていたチェロを刹那の方に向かって投げつける。
「!?」
 刹那はそれをとっさに受け止めると、すぐに撤退に移った。
 本物か偽物かはこの際仕方ない、というより、本物がすでに壊されていない保証はない。
 その上、セイが呼んだ契約者たちが続々と戻ってくる可能性もある。
 だとすれば、もうとりあえず手に入ったものを持って脱出するより他にないだろう。
「あっちにも!?」
 フェイと小次郎の注意がそれた隙に、裕輝は一条の手を……いや、そのまま抱えあげる。
「そっちの二人にはこれや! 地祇的投擲兵器、発射シマス!」
「やー、やーめーろーよおおおぉぉぉっ!?」
 ぶん投げられた哀れな一条が、フェイに向かってすっ飛んでいく。
 この哀れな犠牲者を、フェイはしっかりと受け止め……ない。
 それどころか、思いっきりはたき落した。
「ぶっ!?」
 顔面から床に叩きつけられた一条に、隣の小次郎も言葉を失う。
 そして当然のごとく、その隙に裕輝は逃げ去ってしまったのであった。

「うう……なんで俺だけいつもいつもこんな目に……」
 もし彼が男の子ではなく女の子だったら、そしてついでに言うと髪を結ってさえいたなら、きっと確実に抱きとめてもらえたはずなのだが……なかなかうまくはいかないものである。