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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
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リアクション

 
〜 第八楽章 scherzando 〜
 
 
 「うわぁ……これはこれは……」

特別に設営されたコロセウムを囲む熱気に包まれ
中に入って早々に奏輝 優奈(かなて・ゆうな)は言葉にならない声を上げた
魔獣の暴走を考慮して中央のリングから少し離れて設置された客席
そこにはありとあらゆる【裏】の看板を背負った者たちが予想以上にひしめいていた
その多くが熱に浮かされたように心躍らせながら、これか起こる血の宴を楽しみにしている

 「さっさとはじめやがれ!もう待てねぇよコラァ!!」
 「これからどうやってあの女が血祭りにあげられるのか……ああもうたまらないぜ!」
 「魔獣なんて手ぬるいぜ!もっと残虐に盛り上げろ!ヒャッハァ!」

ヒト一人が一年かかっても考えられないような物騒極まりない言葉を溢れされ、盛り上がっている面々に
思わず『悪ぶってゴメンナサイ』と謝りたくなりそうな感情を何とかこらえ、指定された席に移動する
……まぁ優奈が内心ビビり入っているのに対し
共にいるフォルゼド・シュトライル(ふぉるぜど・しゅとらいる)はどちらかというと楽しげの様子だ

 「さすが天下に名をとどろかせる女傑のイベントだな
  彼女の安否など興味はないが、この狂乱はなかなかに心躍るじゃないか」
 「……今はその悪魔っぷりにホンマに救われるわ
  しっかしこのギャラリーの数、ちょっと意外やわ。ここから事を起こすのって、結構骨なんちゃうの?」
 「それは俺達の仕事範囲外だから興味はないな。俺達はただのマーカーだ
  指定の場所で、指定の時刻に指定の合図を出せばいい……ここまでのルートもマーキング済みだろう?
  まぁ俺もディエルも戦えるにこしたことはないが」
 「あかん!あんた等絶対そっちに夢中になって逃げだすもんも逃げ出せんようになるわ
  もし戦う事があっても、立ちふさがる連中を最低限……ええな?」
 「……………了解だ」

見れば無言のまま佇むディエル・ブリガント(でぃえる・ぶりがんと)も心なしかしょんぼりしていた
それを無視して再び優奈は周囲を見渡す

 「予定ではあと何人か、私の様にこの中におる筈なんやけど……こうも多いとわからんなぁ」
 「問題ないさ、こちらはわからなくても向こうはこちらを認識してるようだ」

客席に紛れてるいくつかの視線を感じ、フォルゼドは不敵にその問いに返答した



 「おお!どうやら別チームさんも来たみたいだよ?準備万端だねぇ海っちゃん」

金網リングを挟んだ、遥か向かいの席で優奈達を発見し
トゥマス・ウォルフガング(とぅます・うぉるふがんぐ)が楽しそうに隣に話しかける
彼の陽気な言葉と反対に彼女麻奈 海月(あさな・みつき)は優奈以上に会場の悪意の熱気に呑まれていた

 「…………○◎※■☆▲っ!!」

まぁ信頼する義兄の不在もあるのだろうが
無口を通り越して言葉にならない発声とともに口をパクパクしてる海月を見て
トゥマスは背中をパンパンと叩く

 「だめだよそんなビクビクしてたら、こういう場では堂々としてなきゃ!
  そんな風に可愛らしくしてたら、ここのケダモノに目をつけられちゃうよ?ホラ」

彼の言葉が終わらないうちに、早々から酒に酔った二人の男が海月に近づき声をかけた

 「よう!こんな場所でずいぶん可愛らしいウサギがいるじゃねぇか?
  そんなに怖いのは嫌かぁ〜?だったら俺達と……」

そう言って品の無い笑いとともに手を伸ばしながら言った男の言葉が止まる
彼の眼前にいつの間にかトゥマスの拳がギリギリまで伸びて止まっていた
そのままニコヤカナ表情とともに彼が口を開く

 「だめだよ、彼女は俺の大事な人なんだから〜。手を出したら………コロすよ?」

崩れない笑顔と拳の殺気のアンバランスに酔いがさめたのか
ギリギリ悪態をついてプライドを保ちながら男達は帰っていく
ため息をついてトゥマスが海月の顔を見ると、何やら顔が真っ赤のまま無言のベクトルが変わっていた

 「なんだよ?間違ってないじゃん?俺は裕樹も海っちゃんも大事だよ?
  な〜に赤くなってんのかなぁ?」

ますます赤くなって陰に隠れる海月の頭をよしよしと撫でながら、彼の言葉は続く

 「とにかく準備万端って事だよ。あとはここに辿り着いている仲間
  そして相棒の合図を待てばいい……ゆっくり待とうよ、裕樹の連絡をさ」

そう言ってトゥマスはアジトの外で待機している相棒の事を案じるのだった
信頼のスナイパー御宮 裕樹(おみや・ゆうき)久遠 青夜(くおん・せいや)の事を
 
 
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着々とそれぞれが持ち場につくことを確認している中
まったく関係の無い者達の数人も、実はその動きに気づいていた

潜入ではなく、純粋にこのイベントに【ガイナス空賊団】によって招待された者達である

 「フハハハ!我が名は悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!
  ガイナス殿、アジトへのご招待、感謝する!」

高笑いと共に頭領のガイナスと話している【自称、悪の天才科学者】ドクター・ハデス(どくたー・はです)
その傍らに控えながら客席を見ていたヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)
客席の違和感を感じ、隣のアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)に話しかけた

 「アルテミス様、観客席にどうやら興業とは別の目的で来た方達がいるようです」
 「誰かが潜入してるって事、ですか?」
 「おそらく、フリューネ様の人望を考えれば救出を望む方達もいらっしゃるのは明らかです」
 「そっか……パフュームさんも来るかなぁ……」

フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)の今回の件に【ディオニウス三姉妹】の一人
パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)が関わっていた事は彼女らはすでに知っていた
元々彼女達と【ストラトスの楽器や楽譜】を求めて争っている身だ
(ただし、向こうが自分達をどう思っているかは知らない)
今回もあらかじめ商船をマークして、港への到着を待っていた所に空賊の襲撃を知ったわけで
ハデス達が来たのもこの【魔獣ショー】が目的ではなく
ガイナスが手に入れたという【ストラトスシリーズ】を確認することが目的であった

そのキャラの個性が強いのが玉に瑕だが、ハデスの実力はそれなりにタシガンでも認知されている
そんなわけで、そのツテを強引に手繰り寄せて招待してもらったのだ

故に意気揚々と声高らかにガイナス相手に語っている自称・悪の天才学者
その束ねた長髪をヘスティアが思いっきり引っ張る事で終了した

 「な……なにをするこのへっぽこメイド!今のショックで貴重な脳細胞がいくらか死滅したぞ!」
 「もうしわけございません、ご主人…じゃなかったハデス博士
  実は、観客席の観衆の話なのですが………」
 「フン、大方あの女空賊を救出するためにネズミが紛れ込んでいる……という事であろう?」
 「ご存じだったのですか?」
 「当然だ、俺を誰だと思っている
  まぁいささか少々一方的な趣味に疑問は抱いていたのは確かだ
  こちらの目的も悪趣味なショーではなく【ストラトスシリーズ】なのも確かだ……故に」
 「フリューネ様に協力されるのですか?」

元々パフュームにも縁があるアルテミスが、一抹の期待と共にハデスに質問する
その言葉に、にやりと笑みを浮かべ彼は返事をした

 「いや、逆だ。奴を助けに来る連中の邪魔をする
  うまくいけば【ストラトスシリーズ】を引き取る交渉のカードになるかもしれないからな」
 「……ハデス様もフリューネ様とはいくらか縁があった筈。この様な結末、何とも思わないのですか?」

流石に心が痛むのか
恨めし気に睨むアルテミスに、ハデスはより堂々と悪の幹部らしく答えた

 「もちろん、こんな事でくたばる奴などと思ってないさ
  だからこそ、こちらも遠慮なく悪の道を進むのだよ、さらなる混沌を望むためにな」
 
  
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そしてハデスよりも更なる混沌を望む集団がもう一つあった
ガイナスに招待されながら、憮然と無人の金網のリングを睨む男
その名を白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)という

 「噂に聞くフリューネ・ロスヴァイセと殺し合いができると聞いて来てみたのによぉ
  なんだこの三文ショーは……くっだらねえ
  誰が人の血祭りを見て喜ぶってんだ、自分がやんなきゃ意味ねぇだろうが!」

目の前の塀を蹴り飛ばし悪態をつく竜造に傍らで松岡 徹雄(まつおか・てつお)が宥めに入る

 「そう苛立たないでよ、彼らは粗暴だし金払いを渋る傾向だけど、それでも大事なお客だからね
  招待とは言われたけど、ガイナスが期待するのは護衛だろう?」
 「お仕事、だからしょうがないですよ……それに大人しくしろとはいわれてないですよ?」
 「……まだるっこしいな、何が言いてぇんだ二人とも」

アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)の同意の言葉も加わり、その意図を感じて竜造は会話の先を催促する
その様子にガスマスクの奥の目を光らせて徹雄が話を続けた

 「感じない?この三文舞台を楽しむ以外の連中が潜んでる
  あのヴァルキリーは有名人だから彼女を助ける輩も来るはずだからその類じゃないかな?
  彼らが来たら相手をすればいい、こんな中に飛び込む連中だから腕も立つと思うよ」
 「そりゃ喜ばしいこった。だがそれでも俺のメインディッシュは檻の中だ
  それを眺めながら食事しろって言ってもよ……俺のグルメは満たされないぜ?」

その竜造の言葉を待っていたかのように
言葉の意味を伝えるが如きゆっくりとした口調で徹雄が答えた

 「だからさ……腕が立つなら【この場がどうなるか】なんてわからないだろ?
  俺達だって【檻を守る】事は難しいかもしれないよ?暴れることはできてもさ」
 「…………なるほど、冴えてるなぁ、テメェは相変わらず」

不機嫌を改め、一転して楽しみを待つ顔で竜造は無人の金網を見下ろした

 「いいぜ、待つだけ待ってやる、つまらねぇ見世物ならぶっ壊すけどな
  テメェもそれでいいだろう?……まぁ俺以上にイカレてるからどっちでもいいか」

そう言って振り向いた先には連れ添う最後の一人
ゼブル・ナウレィージ(ぜぶる・なうれぃーじ)が感極まった声で叫んでいた

 「ヴァルキリィィィィと魔獣との戦い!これに意味があるのか一切不明!
  でぇが、これも一つの需要と供給 人間達の飽くなき欲望の形の一つ!
  ならば、その営みを見極めるまで絶・対・防・衛!イェェェェェェェェア!」
 
 
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 「……やれやれ、敵も味方も騒々しくご苦労な感じだな」

そんな、それぞれの様子を高いところから見下ろす戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)の影があった
場所はコロッセウムを見下ろす天井の照明の陰である
多くの者がフリューネを目的として動いている中で、彼は純粋に単独でガイナスの壊滅を狙っていた
元々探りを入れていた所に、フリューネの件が舞い込んできたのだが
彼女を巻き込んで多くの者が動く事は逆に彼にとって好都合だったのである

賞金が目当てというわけでもないが、改めて誰かと手を組んで今まで組んだ段取りを変えるのも手間
そう判断した彼はそのまま単独行動を維持し、こうしてみなと同じ目的の場所に辿り着いたのである

 「さて、このまま動いてもこの布陣では厄介だな……小競り合いまで待つしかない
  恐らく、宴が盛り上がった直後が流れを変える瞬間だろうな、それまで待つしかないか」

そんな彼の眼下がいよいよ騒々しくなる、誰もが期待する【魔獣ショー】の始まりだった

 「始まるな……ではお言葉に甘えて、お手並み拝見と行こうかな。かの女傑とその仲間の活躍を」