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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
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リアクション

 
〜 第十三楽章 con tutta la forza 〜
  

 「レーダーに反応ありました、ご主人様…じゃなかったハデス博士。
  これより迎撃に出ます!」
 「くくくく今度こそストラトスシリーズは、我らオリュンポスがいただくぞ!
  我が力がこのタシガンの空でも十分無双である事を証明するのだ!てぇぇぇい!」

一方こちらはアジトの対空迎撃施設
陽動と空賊の逃亡阻止で動く部隊をドクター・ハデス(どくたー・はです)が迎撃していた
彼の指示でヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)の砲撃が雨のように繰り出される
彼女の装着している【コンテナ内蔵型飛行ユニット】から放たれる三機の【六連ミサイルポッド】

 「来るぞ!狙い撃つ!!」
 「ヒャッハー、運転だー!」

その広範囲爆撃を御宮 裕樹(おみや・ゆうき)が飛空艇から狙撃で撃ち落とす
だが必要以上にアクロバティックな久遠 青夜(くおん・せいや)の操縦に逆に命中率を下げられ
何度目かの文句を言っているようだ

 「アクロバティック飛行するな、お前は!狙いが定まらないから程々にしろと言っただろ!」
 「怒られちゃったー、てへぺろ」

一方で【空飛ぶ箒ミラン】で蔵部 食人(くらべ・はみと)もその爆撃を回避していた

 「まさか【破壊工作】が見抜かれるとはなぁ〜
  あの自称天才科学者……抜けてるようで敵に回すと厄介なんだよ!
  くっそ〜!やっぱ一人で実行するんじゃなかった!」

元々、裕樹と食人の役目は逃亡する空賊の仲間の阻止と迎撃であった
中の強襲に意識が向かう隙に、食人が空賊の停泊している飛空艇に【機晶爆弾】を仕掛け爆破
それでも逃げる相手に裕樹が狙撃のはずだったのだが

そういう組織から離れて捻くれた発想を考える相手は敵にもいたようで
【行動予測】で企み看破したドクター・ハデスがその異常な科学力で片っ端から爆弾を解除し
いつの間にか【要塞化】したアジトの武装で迎撃を行い、今の戦いに至るのである
しかもハデスもヘスティアも【優れた指揮官】と【使用人の統率】という指揮スキルがあるので
なんだかガイナスよりも仲間の動きが異常に良い

 「ハハハハハ!左!弾幕薄いぞ!なにやってんの!……この伝説の言葉が言える至福よ!
  オリュンポスに迎撃の用意アリ!うちの武装は世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 「くそ!こんな終盤でやられキャラ担当なんて御免だぜ!
  あんなパクリ台詞で撃ち落とされてたまるか!」

当初のアクションを外され、回避する食人
何とか裕樹も応戦するが、予測を超えた戦力差に追い詰められていく

 「主砲、チャージ完了です。一気に殲滅させていただきます」

そんな言葉が聞こえた気がして、食人が我に返ると
機動要塞のような武装を背負ったヘスティアが【ニルヴァーナライフル】を構えるのが見えた
しかもいつの間にか射線に誘導され、ロックオンされている

 「しまっ!?」
 「ハデス博士のご命令により、皆様方にはお引き取りいただきます
  主人様…じゃなかったハデス博士、ご命令を」

もはや撃墜を待つのみの食人……勝利を確信し、知識の中からステキ命令台詞を検索するハデスに
不意に背後から聞き覚えのある仲間の声が聞こえた

 「あの……ハデス様」
 「おお!その声はアルテミス!今こそ我が組織の勝利だ!ともにその祝砲を……」
 「えっと……それなんですけど……ごめんなさい」

背後から聞こえるアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の会話の温度差が噛み合わないことに
ようやく気がついたドクター・ハデスが後ろを向く


そこには、はにかみ笑顔で両手をあげている彼女の姿があった
そんな彼女の後ろには特殊銃【Ca−Li−Barn】を構えた機工士
トゥマス・ウォルフガング(とぅます・うぉるふがんぐ)が負けない笑顔で立っていた

 「あんまりコロセウムが混戦してて危なくってさ
  巻き添え嫌だから裕樹助けにきちゃった、ゴメンネ?」


同様な事は空でも起こる
いつまでも来ない命令に不穏に思い、ふと別の気配でヘスティアが見上げると
【奈落の鉄鎖】で高速機動をしている【空飛ぶ箒】の乗り主が見えた
ミシミシと音を立てる自分の飛行ユニットに【サイコキネシス】の気配を感じるのと
箒から麻奈 海月(あさな・みつき)が【アルティマ・トゥーレ】のスタンバイをするのが見える

 「…………」

恥ずかしそうに物騒な攻撃を彼女が放つのと
トゥマスが銃口をハデスに向けるのが同時だった

 「ごめんね、狙うのあんただけにするよ
  ほら、俺ってさ………可愛い女の子とか、好きだからー!」


それから刹那、轟音とともにどこぞの古典アニメのように、アジトから煙を上げ
飛んでいく悪の首領と、同様にやられて追随する機晶メイド

 「やぁぁぁぁぁぁなかんじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

これまた伝説の悪の台詞と共に星となる仲間を急いで追いかけながら
アルテミスは何となく今回の悪事の片棒を担げなかったことに安堵するのだった


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 「助けに来ました!みなさん大丈夫ですか!?」

一方、監獄棟に突入していた叶 白竜(よう・ぱいろん)達【人質救出班】も
囚人メイドがいるサロンおよび監獄に到着していた

見張りの男達の騒々しさから、メイドとして働かされていた者達も救出の到来を悟る
しかしその争いの喧噪のなかに、知った声を聞いた気がして
フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)は心中穏やかでなく、頭の犬耳に神経を集中させる

 「いるのじゃろうフィーア!返事しろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 「こ、こんなバラ色の花の中にフィーアが……今すぐ助けますよぉぉぉぉ!!」

間違いなく、一際聞こえる声は二人の仲間
……戸次 道雪(べつき・どうせつ)ヴァルトルート・フィーア・ケスラー(う゛ぁるとるーと・ふぃーあけすらー)のものである
ヴァルトルートの趣味嗜好に喚起してる場違いの声と違い
ものすごく必死な道雪の声に、自分がここでメイドをやっている理由を思い出すフィーア

(どどどど……どうする?ここはどさくさに紛れて逃げるか?)

逃亡という要救助者にあるまじき考えを本気で選択肢に入れようと、彼女がこっそり踵を返した刹那
倒された見張りごと豪快に扉が吹っ飛んで解放され、件の二人が姿を表し、すぐさま彼女を発見した

 「見つけたぞ!やはりここにおったか!何をやっとるんじゃおぬしは!!」
 「し、しししし師匠!?ゴメンナサイこれはほんの出来心でっ!!」
 「まったくだ、フリューネ殿救出とはいえ……単独で潜入など無謀じゃ!心配したぞ!」
 「………はい?」

開口一番の道雪の一喝に、頭の耳を閉じて丸くなるフィーアだったが、その後の言葉にきょとんと顔を上げる
そんな彼女にヴァルトルートも続く

 「本当だよ!こんな囚人メイドなんて美味し…いやいや、危険な作戦、私だって協力したのに!
  私達に嘘ついて旅に出るなんて……ホントずるいんだから!」
 (あれ……ヘソクリのこと……ばれてない?)

若干、本音が垣間見えるヴァルトルートの抗議を聞きつつ、事態がなんとなくうまく進んでることに気がつくフィーア
これを逃す手はないと、途端に態度を一転して胸を張るのだった

 「はっはっはっはっは!ばれちゃったら仕方ない、悪かったねふたりとも!
  これから(フリューネ救出側に)切り替えていく所だったのさっ!力強い援軍に感謝だ!
  さぁ囚われた者よ!力あるものは拳を握れ!今こそ解放のときだい!」

彼女の声に、戸惑っていた他のメイドも勢いで士気をあげ、おー!と鬨(とき)の声をあげる

 「ま、待て……お前元々はバイ……がぁっ!」
 「騎兵隊だー!当たると痛ぇぞー!!」

足もとで呻く男を踏みつけて黙らし、フィーアはサロンから飛び出した
その元気な様子に安心し、道雪達も後に続く
なんとなくうやむやになった……と内心安堵したフィーアだが、道雪の次の言葉がすべてを現実に引き戻した

 「ところでな、別でおぬしに聞きたいこともあったのじゃ
  わしがコツコツと貯めた楽しみのための蓄えなんだが……これが終わったら、ゆっくり聞いてもいいか?」
 「…………ゴメンナサイ……イロイロシラナカッタンデス」

何も知らぬ周囲には、駆け抜けるフィーアの眼からこぼれる涙が
再会と勝利の眩しいものだと思われていたのが、せめて救いかもしれなかった


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 「女性に対する態度がなってないねえ!」

一方こちらは白竜の隊
見張りを鎮圧し、囚人メイドが寝泊まりする檻を【サイコメトリ】と【ピッキング】を駆使して解除し
次々に開放する世 羅儀(せい・らぎ)は倒した男に侮蔑の言葉を吐き捨てる

先に救出され、サロンにいる仲間を助けるため、彼と共にいた囚人メイド
五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)がその言葉に目を反らすのをリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)は見逃さなかったが
あえて黙っておくことにした
彼らが、牢獄エリアの人達の様子を目の当たりにしたのは先程が初だった
ガイナスに捕えられた者が歩む【人身売買】【魔獣ショー】に並ぶ三番目のの可能性
それは囚人として潜入してきた伏見 明子(ふしみ・めいこ)から聞いてはいた
【逃亡】を試みて失敗した者の行く末とはいえ、白竜に助け出された傷だらけの彼らの姿を思い出す

自分達も選択を誤ったらそうなっていたかもしれないのだ

 「とりあえず応急の回復魔法はかけました!
  治療をしてないので感染が心配です、広い空間に運ぶのでセラータは援護を!」
 「攻撃してくるのなら全力で対抗させて頂きます。出来れば戦いたくはないのですが……!」

次々に解放される傷だらけの囚人達を移動させるため
キリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)セラータ・エルシディオン(せらーた・えるしでぃおん)に指示を出す
駆けつける増援を【サイドワインダー】で迎撃する間に東雲と怪我のひどい囚人をキリエは運び出す
【召喚獣】に道を切り開かせ、移動しつつ魔法で処置をするキリエを感心して東雲が見ていると
その視線に気がついて決意の微笑みを返すのだった

 「せめて手の届く人の命を守りたい。それが私の願いですから
  フリューネさん達、そしてみんな助ける為に頑張りましょう!」


 「要救助者の8割は確保しました!残りは奥の部屋です!羅儀!」

棟の奥の最後の部屋の位置を【銃型HC】で確認し、白竜は相棒に指示を飛ばす
最後の角を曲がり、目的の部屋を発見……だがその扉はすでに解放されており、粗野な男達の声が聞こえている
その状況に、一抹の不安を感じた世が突入した時には、時すでに遅く中は無人であり
奥の小さい鋼鉄の扉の鍵が破壊されていた

 「人質代わりに連れて行ったか!鍵を壊すとは味な事を!」

すぐさま別ルートを探すために移動する世
それを見送り、白竜はここにいた者の身を案じながら部屋の様子を確認する
その足が不意に何かくしゃっと踏むのを見て、確認すると……なぜか丸まった柔らかい紙だった

 「……ちり紙?」
 「お、な〜んだ、やっぱり救助が来てたのか」

不意に背後から聞こえた声に、反射的に白竜は振り向く
そこには立てない瓜生 コウ(うりゅう・こう)を肩に担いだフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)がいた

 「あなた達は?」
 「不詳、この部屋の住人さ……ただ一応脱出の準備はしててさ
  抜け出してみたら見張りが伸びてるから、まさかと思って戻ったんだ……大人しく待ってりゃ良かったな
  とりあえず、こいつの治療頼むよ。まだ元気は戻ったらしいんだけど、怪我は流石に治らなくて」

部屋に続けて入ってきたキリエ達治療組にコウを引き渡し、フェイミィはやれやれと息をつく
腑に落ちずに白竜がそんな彼女に質問をした

 「自力で脱出したんですか?」
 「だからそう言ってるじゃん。そこの窓に少しずつ細工してたんだよ、そこの怪我人が……頑張るよなぁ」

首をとがらすフェイミィを見ながら、白竜はさっきの突入前の部屋の喧噪を思い出す
確かにあれは誰かを捕まえて連れ去るような声だった……はず

 「………誰が連れ去られたんでしょうね?」

足もとのちり紙をつま先で蹴りながら、白竜も首を傾げるのだった