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料理バトルは命がけ

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料理バトルは命がけ

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「ふっふっふ……遂に俺様の出番が来てしまったようだな……」
 皿を持って現れたオフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)が不敵な笑みを浮かべる。
「この料理大会で、この俺様の真の料理という物を味わってもらおうか」
 オフィーリアは一拍間をおいて、笑みを浮かべたまま口を開いた。
「自信も出るという物よ。ファンタジアプリンに恐れおののくのが良いのだよ! タシガン原産の怪しい香料とコカトリスの卵、これらを使って作ったプリンに隠し味として魔法生物生成用の薬品とカナン産の怪奇植物のエキスを混ぜ込む……そうして出来上がった料理が、これだッ!」
 そう言ってオフィーリアがクロッシュを取り払う。
――皿の上に載っていたのは、毒々しい色をしてプルプルと自ら動き、触手を伸ばしているどっからどう見てもモンスターであった。
「これぞ俺様の新作ファンタジアプリン! さぁ御賞味あれ!」
「「「出来るかぁぁぁぁぁぁ!」」」
 審査員が総出で立ち上がる。
 その言葉に反応したのか、ファンタジアプリンは触手を審査員達に伸ばす。
「うぉッ!?」
「こ、これ殺る気満々よ〜?」
「ならこっちも殺るしかないですね!」
 審査員達が武器……の代わりにナイフとフォークを構え、戦闘が始まる。
 始めこそ手こずったが、そこはそれ、戦闘メインのシナリオでないのであっさりと終了する。
 ぜーぜーと息を上げる審査員達の前に、ナイフフォークで滅多刺しにされたファンタジアプリンの亡骸が転がっていた。
「……さて、味は如何だったかな?」
 勝ち誇るオフィーリアに、審査員達は無言でナイフやフォークを構える。
――数秒後、そこにはフルボッコにされたオフィーリアの姿があった。

「これは……また何とも……」
「うわ……」
「こら……酷いわ……」
 審査員の面々が言葉を失う。
 登場したのはダン・ブラックモア(だん・ぶらっくもあ)。絶句の原因は料理ではなく、ダン自身である。
 ダンは、可愛らしいウサギ柄エプロンを身に付けていた。サイズも見た目も強面というか屈強なガチムチ兄貴が身に付けているのは無理がある代物。想像した方は1D100でSANチェックな。
「成る程……警告通り酷いですね」
 アザトースの頬に冷たいものが伝う。
「いえ、確かにアレもですがそっちじゃないです……」
 一足先に審査員に警告に来ていたアメリ・ジェンキンス(あめり・じぇんきんす)が疲れたような、何処か諦めたような表情で呟いた。
 ダンが登場する前、アメリがダンの料理を簡単に警告していた。曰く、

「コンジュラーじゃないのに、その人そっくりのフラワシのようなものが背後に現れる」
「思わず(便座の前に)跪きたくなる」
「目の前にサイケデリックな模様が浮かび上がる」

とまぁ、中々な腕前を持っているようであった。
 その言葉を審査員達が思い出している間に、ダンがクロッシュを上げる。
「これは……また何とも……」
「うわ〜……」
「こら……酷いわ……」
 審査員の面々がまたもや言葉を失う。
 出てきたものはぐちゃぐちゃな見た目で良く言うともんじゃ焼き、悪く言うと嘔吐物。ぶっちゃけゲ●。
「健康を考えて様々な薬草を調合してみた。多少苦いかもしれんが健康にはいいぞ」
 代わりに精神衛生上には非常に良くない。
 その見た目や臭いに恐る恐る手を伸ばす。
「「「う゛」 」」
 苦い。青臭い味やらなんやら細かい点は多々あるが最も感じるものは苦味。まるで抉るような苦味が舌にこびりつく。
 流石は契約者と言うべきか、身体からフラワシのような物は出なかったが不味い物には変わりない。
「二口目が伸びませんね……」
「せやな……覚悟はしとったが……」
「何やら箸が進まないようだな……好き嫌いはいかんな!」
「うおっ!?」
 そう言うや否や、ダンは泰輔を肩にかつぎ、前へと落とす。待ち受けていたのはダンの膝。胸から鳩尾の辺りに叩き込まれる。
「ぐおぉ……あ、あかん……戻しそう……」
 蹴られた場所を押さえ悶える泰輔。
「お残しはいかんな……さて、他に好き嫌いをするような奴は俺のゴートゥスリープぅぁッ!?」
 突如、飛び出してきた何者かがダンの背後から飛び付き、首から後頭部の辺りに膝をあてがう。
 するとそのまま体重をかけて後ろに引き倒す。バランスを崩し、倒れるダン。
 ほぼ同時に着地の衝撃が膝を通して襲いかかる。
――ぐきり、と嫌な音がするとダンはそのまま驚愕の表情のまま動かなくなった。
「素人さんにプロレス技とか……規制来たらどうするんですか全く……」
 ぶつぶつと乱入者――翼が文句を言いつつダンを引き摺っていく。
「あ、ちなみにこの場合は失格です。料理で勝負するものですから」
 それだけ告げると、翼はそのままダンを引き摺って退場。その間、ダンはピクリとも動かなかった。

『さぁ皆様方! ここからはこの冬月 学人(ふゆつき・がくと)が実況解説をさせて頂こうか! 皆様がその一生の内、一度でもこの場に立ち会えた事を奇跡だと思うがいいよ! それでは調理人の入場だ!』
 学人の合図と共に【ローライダー】がゆっくりと入場する。その後ろには追っかけ、【ヒートネイツ】達の姿も見られた。
『盗んだ【ローライダー】のハイドロが今宵も冴えわたる! その中から出てきたのは【二代目暗黒の黒豹】(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))、【ワイルドユニコーン】(斑目 カンナ(まだらめ・かんな))、【炎の墓堀人】(シン・クーリッジ(しん・くーりっじ))の3人! そして一緒に【ヨシヒコ】ことお師匠様までいる! 一体彼らは何者か? 皆様方にはわかるかな?』
 油圧による上下にバウンドするような動きを【ローライダー】が止めると、ゆっくりと中から九条、カンナ、シンが下りてくる。
 九条がマイクを持つ。瞬間、【ヒートネイツ】達から『ヒート! ヒート!』とのチャントが始まる。
 その声にしばし耳を傾け、やがて大きく息を吸い込んだ。
「If you smeeee「ってこの場合主役はオレだろうが!」
 途中、マイクパフォーマンスを邪魔したシンを九条が恨めしそうな目で見た。
『……すまない皆様方、シンは空気が読めないのです……おっと、【墓堀人】はどうやら空気が読めないようですね』
「おい何人の正体バラしてんだよ!?」
『まぁいいでしょう。それでは料理の紹介へとまいりましょうか!』
「おぃぃ!」
「……あ、料理あるんかい?」
「てっきり出オチだとばかり思っていたわ〜」
「登場シーンやけに派手ですからねぇ」
 料理の紹介、という所で審査員達がはっと表情を変える。
「……と、とりあえずオレが作った料理だ!」
 そう言ってシンが取り出した料理は、見た目も鮮やかで大量の料理であった。
『おっと、これまた大量の料理だね。見た目も美味しそうだけど、コンセプトは?』
「……りょ、料理人ならこれくらい作れて当然だ」
『は?』
 学人の問いに、シンはカンペを棒読みで答えた。
『いやそうじゃなくて……』
「……あ、あの料理は生姜が隠し味だ」
『……まぁシン……じゃなくて【墓堀人】はこれだから仕方ない。それでは審査員の方々! シンの料理を召し上がれ!』
 最早『わざとやってるんじゃないか?』というバラしを交えつつ学人が促す。
「そう言われましても……」
「ねぇ……」
「無理やろ普通にこの量……」
 だが審査員達は箸を動かさない。それもそのはず。料理が大量すぎるのだ。
 一応これまで食べた料理は胃に残らないという設定であるが、実食中は話は別。終了するまでその設定は発動しない。
 しかもどれもが高カロリーだと思われる食べ物ばかり。これを消費するのは至難の業である。
「ならばお腹がすく様に運動をすればいいと思うよ!」
 その時、沈黙を守っていた九条とカンナが動いた。
「シュッ!」
 まずはカンナが泰輔の側頭部を蹴りぬくと、九条が背後に回り込んだ。
「せぇッ!」
 そしてそのまま背中を合わせ、両脇に手を入れ持ち上げると前方へとブラックタイガーボムで叩きつける。
「おっと、こっちはオレだぜ!」
 その様子に唖然としていたアザトースに、シンが抱きつく様に飛びつき、そのまま押し倒す。
 更に、残っていたアスカにカンナが抑え込むように脇固めで倒すと、腕を足で、頭を腕で固定するクラップラーフェイスロックで固めた。
「さぁて、そろそろ料理を食べてもらおうかなー?」
 九条が皿を持ち、アスカへ叩きつけようと振りかぶる。

「だぁから素人さんにプロレス技はやめてって言ったでしょうがぁー!」
 
 先程に続き、乱入した翼がまず九条の顔面にフライングニールキックを叩き込んだ。
 仰向けにダウンする九条に続いて、フェイスロックを固めているカンナには滑り込むように膝蹴りを顔面に放つ。
「……は?」
 その光景に唖然としているシンには、頭に低空のドロップキックを叩きこんだ。
「全く……こっちも失格!」
 頭の攻撃を受け気を失った3人を、翼が引き摺り去っていった。
『……えー、というわけで失格という結果に終わったわけだ。それでは僕は去るよ!』
 それだけ言うと、慌てて逃げる様に学人が引き上げていく。
「……何だったんでしょうかね、今のは?」
 アザトースが呟くが、誰もが「さぁ……」と首を傾げるだけしかできなかった。