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老魔導師がまもるもの

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老魔導師がまもるもの

リアクション

 終/ 暗躍

 向こうは随分と、盛り上がっているようだ。
 なかなかにお気楽なものだと、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)はほくそ笑む。
「おかげでこっちも、仕事がしやすい──幸い、罪を被ってくれる連中も勝手に出てきてくれたしの」
 ひっそりと静まり返った暗い聖堂の中に、彼女は佇んでいる。
 ひとりでは、ない。

 全身黒づくめの、顔もわからぬ仮面の男たちが三人。
 怪しげであることこの上ないこの連中が、今の刹那にとってのクライアントであり、警護すべき対象だった。

 この地に眠る霊脈と、そこにかけられた呪い。
 彼らの目的はその破壊であり、呪いを開放し災厄をもたらすこと。
 行為の善し悪しは、刹那にとってどうでもよかった。男たちの正体だって、特に気にしてはいない。
 ある程度、どの勢力に属するテロリストか、あるいは単なる犯罪者か。推察や予想はするけれども、けっして彼女の認識の中で重要な位置を占めるものではなかった。
 秘密裏の悪事をはたらく者がいて、自分はその連中に用心棒を依頼された。引き受けたからには、それを果たすことが最善であり最優先。その意味では昼間に既にひと騒ぎが起きてくれたことは彼女らにとって好都合といえた。
 不審者を警戒していて、明らかにそれに該当するものが現れた。
 それが追い払われた直後に、また別の形で本命が現れるなどと思う人間、ごく少数だろう。大多数はもはや安心しきっているはずだ。
「どうじゃ、うまくいきそうか」
 最奥の祭壇へととりつき、あれこれと作業を行っていた男たちが立ち上がり、そこから離れる。
 ほどなくして、錆の奏でる軋む音とともに石造りの祭壇が割れ、その奥に隠されていたものを露見させる。
「ほう……これが」
 表れたのは、三つの紅い宝玉。男たちは、レリーフへとはめこまれたそれらに触れていく。
 紅の、血の色をした輝きが──濁る。
「封印を壊すのに、魔導師そのものはいらぬ。かつてであればかの『貿易風』が力によってこれも隠匿され、触れることすらかなわなかったかもしれんがの」
 所詮、こんなものだ。
 あとは時間とともにゆっくりと、宝玉が朽ち果てていけばすべては終わる。
「おい、あんたらここでなにしてるっ!?」
 不意に聖堂の扉が開け放たれ、二人組の影が長く伸びる。
 ベルクと、フレンディス。驚きもそこそこに、そのペアがこちらの存在を確認し、身構えている。
「なんか、人の気配がすると思ったら……!」
「マスター、あれを!」
「ふん、通りすがりか。まあいい」
 西日が、徐々に夜の黒に染まり始めていた。
 彩夜が、エッツェルが、美羽が、ベアトリーチェがふたりの背後に駆けつける。
「あの宝玉……まさかあの人たち、封印をっ!?」
「おお、そうとも小娘よ。こちらも仕事でな、悪く思うなよ」
 もう、遅い。男たちが聖堂内の暗闇にかき消えるように離脱する。
 刹那は、時間稼ぎさえすればよい。
「そんな!! 封印が……!!」
「いけない、伏せて!!」
 封印が、解ける。
 それは一気にではなくとも、ゆるり確実に。
 綻びていく。
 三つ並んだ宝玉、そのうちのはじめのひとつが、内側からの濁りに圧壊させられるかのように、細く不均等なヒビをその滑らかだった表面に刻んだ。
「遅きに失したな──魔導師よ!!」
 ひとつ、ふたつでなく無数にヒビは走っていく。
 
 呪いが──漏れ、溢れ出す。

『生命ならざるモノへの、呪律』が──……。

 今まさに、解き放たれようとしている。


                         (後編に続く)

担当マスターより

▼担当マスター

640

▼マスターコメント

 ごきげんよう。ゲームマスターの640です。リアクション『老魔導師のまもるもの』、前編はいかがだったでしょうか?
 古い考え方の魔導師を説得し、協力体制へと向けた交渉を行う。ひとまずの目的は達成されましたが、しかし残念ながら時を同じくして、彼女の守っていた封印は破られてしまいました。
 後編では、その霊脈が封じられていた理由、封じなければならなかった『呪い』の正体が明かされます。
 皆様、力を合わせて立ち向かっていただけると幸いです。
 
 それでは、また後編シナリオガイドにてお会いしましょう。