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今年もアツい夏の予感

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今年もアツい夏の予感
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はじめに:ツァンダの屋外プールにやってきました。


「皆さんこんにちは。ようこそこのプールにお越しくださいました。私、ここの管理人をしております沢渡 宗男(さわたり むねお:♂)と申します」
「……」
 六月――。
 もうそろそろ夏だと言うのに、涼しい日が続いていました。日中とてそれほど気温が上がるわけでもなく、過ごしやすいと言えば過ごしやすいのですが、異常気象ではなかろうかと、少々心配になってくるような日々。そんな六月も半ばのある日のこと……。ツァンダの町中にある屋外レジャープールに、大勢の参加者たちが集まってきていました。
 今回、夏を先取りしようと言うイベントの張り紙を見てやってきたメンバーたちを出迎えてくれたのは、このプールの管理人の沢渡 宗男(さわたり むねお:♂)という二十台半ばのお兄さんなのでありました。いい感じにサロン焼けしたマッチョで角刈りの似合うスポーティーな青年なのでありますが、なんだか参加者たちの視線が冷たいような気がします。自己紹介によりますと、彼はツァンダの町の職員の一人で、町内の設備の点検管理を担当しているとか。実のところ、目の前のプールは、豪華な設備や豊富な人材をそろえられる企業が経営するアミューズメント施設ではなく、単なる町営の屋外プールなのでありました。コストカットのためか清掃のための予算もあまりなく困り果てた彼が苦肉の策で応援を頼んだのが、今回の張り紙なのであります。
 現金での報酬は出ませんが、誰よりも先に奇麗な水で泳げるということで、掃除を手伝いに来てくれた人達。彼らを頼もしげに見やりながら宗男は言いました。歯がキラリと光ります。
「これだけの参加者の方々がプール開きの準備に取り組んでくださいますことを感謝します。すばやく掃除を終わらせて、みんなで楽しく泳ぎましょう。水着、水着……水着は皆さん用意してありますね!?」
「……」
 すでに泳ぐ気満々で、競泳用のピッチピチ水着にゴーグルまで装着している宗男。プールサイドでデッキブラシを手にスタンバっています。
「……帰ろっか」
 集まっていた女子の一人が警戒したように言います。それに呼応するように、ざわざわと辺りがざわめき始めます。
「な、なぜですか……? 私に何か悪いことでもあったでしょうか……?」
 虚を突かれたように驚く宗男。
「なんか、名前からして胸を触ったりするみたいだし。ルックスがいかにもって感じだし……。町の職員がそんなことをしたら、ねえ……」
「ちょ、ちょっと、誤解です……! ああ、皆さん帰らないで……!」
 ちょっとやる気を失った女子たちに、宗男は落胆の表情になります。
「まあ、責任者をイジるのもその辺にしておきましょうか。彼とて好きでそんな名前がついたわけではないでしょう。学食券1ヶ月分を提供してくれるのは、彼だということを忘れてはいけませんよ」
 宗男を救うべくキリリと出現したのは、今回張り紙を見てシャンバラ教導団からプール掃除にやってきた(?)戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)でありました。
 やる気はあるもののまとまりのない参加者たちを見て、このままではいけないと仕切り役を買って出た小次郎は、異存はないかと皆の顔を見回します。
「これからの作業について、不肖……この私めが適材適所に人員を割り振らせていただきますが、よろしいでしょうか?」
 しばらく様子を見てみましたが、誰も反対するものはいませんので問題はないようでした。さっそく作業のための適切な人員配置を始めます。
 と……。
「あの、一つ伺いたいのですけれども……」
 小次郎を見据えながら恐る恐る手を挙げたのは、みんなと一緒にお掃除を手伝いたいと参加してきた泉 美緒(いずみ・みお)です。夏用の体操着というシンプルな姿での登場に、みなの視線が釘付けになります。
 言うまでもなく、それは……、けしからんラインでありました。凹凸の際立った全身のシルエットが目いっぱい強調されていて、近寄ってくるだけでも凄い破壊力なんです。さらには、あの薄い体操着の下には新調した水着が隠されていると言うではありませんか。もう想像しただけでたまりません。ごくり……とどこからともなく唾を飲み込む音が聞えてきます。
「……どうしましたか? 私に不備があるのでしたら意見は受け入れさせていただきますよ。遠慮なく言ってください。」
 しかし、冷静で知的な小次郎は動じることはありません。美緒の胸を凝視したまま、クールな声で聞き返します。
「……それ、何ですか?」
 美緒は至って純朴で素直な口調で、小次郎の下半身を指差します。
「褌といいましてね。日本に古来から伝わる民族衣装ですが、何か……?」
 彼は、普通の男性用水着ではなく、真っ白な褌を締めているのでありました。越中褌ではなく、漁師などが愛用している身の丈ほどの布を巻きつけるタイプのものをバシッと締めてきているのです。日本男児なら黙って褌! 早くもエンジン全開の格好です。
 それがよほど珍しかったのか、天然で世間知らずなお嬢様ゆえの怖いもの知らずなのかは知りませんが、美緒は特に恥ずかしがった様子もなく小次郎の褌を興味津々の表情でじっと見つめてきます。
「水着着用は必須と伺っておりますけど、それは水着ではありませんよね?」
「いや、水着ですよ……?」
「昔見た、お祭りでだんじりを引いていた男の人がそっくりな締め物をはめていました。お相撲取りさんのまわしにも似ていますけど、では、あの人たちは水着で外を出歩いているのですか?」
「何を言っておられるのですか……美緒殿? これは言うならば水陸両用なわけでして」
「ならば、あなたはこの後その姿で泳ぐおつもりなのですか……?」
「その予定ですが」
「……」
 まだ褌に視線を当てたまま美緒が黙り込んだのを見て、小次郎は少し首を傾げます。今日に限って、何をそんなにこだわっているのでしょうか、この娘は……。
「水陸両用民族衣装……興味がわいてきましたわ。私も一度着用を検討し……むぐっ……!?」
 美緒は、台詞の途中で周囲の女子たちに口を押さえられえどこかに連れて行かれました。彼女にしては珍しい光景です。
「……少々のハプニング(?)はありましたが、さっそく始めましょう」
 小次郎は平静を保ったまま話を続けます。落ち着きっぷりはさすがです。目はずっと美緒の胸を見たままでしたが。
 小次郎が真っ先に仕切ってくれたのをほっと一安心しながら、宗男は気を取り直して言います。おかげで話が続けやすくなっています。
「では、案内します。プール掃除の方はこちらへ。我慢大会に挑戦される方はあちらへ。準備はよろしいでしょうか……」
「おー!」
 ようやくまとまったようです。
  
 さて、前置きはこの辺にしておいて。
 皆さんを一足早い夏へとご招待いたします……。