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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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第10章 瓦礫の下から三姉妹☆ですわ

「シシィ、大丈夫ですか」
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は、昨晩突如崩壊した、空京の雑居ビルの瓦礫の山の中から、何とかセシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)を救出するのに成功した。
 付近には、警察も到着して、救助活動を行っている。
 誘拐犯たちのアジトは、こうして壊滅した。
 あとは、各自がけりをつけるのみだ。
 多くの生徒たちは、誘拐された仲間を救出することに成功していた。
「ああ、パパーイ。これで、ワタシの寿命は何年縮まったかしら?」
 セシリアは、さほど疲れた様子もみせず、淡々とした口調でアルテッツァにいった。

「ラブ、ついにみつけたぞ」
 ビルを崩壊させた張本人であるコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)もまた、瓦礫の山を掘って掘って、ようやくラブ・リトル(らぶ・りとる)をみつけることに成功した。
「ラブ、大丈夫であるか」
「はあ。ほーら、みなさい!! やっぱりあたしは最高の歌姫だったのよ!! なんたって、今回さらわれることができたんだから!! 勝ったー!! バンザーイ!!」
 ラブは、全裸の身体を隠そうともせず、コアの掌の上でおおはしゃぎしていた。
 そのうち、気づいた。
「はっ、こら、なーに、じろじろみてんのよ!! あたしのは、高いんだからね!!」
 そういって、手で身体を隠して、ぷいっと横を向いてしまうラブ。
「ああ、何はともあれ、よかった」
 コアは、安堵のため息をつくと、ラブを掌で優しく包んで、ズシンズシンと去っていくのだった。
 何人かの生徒が、そんなコアを恨めしげにみつめていたが、コアはもちろん、気づかなかった。

「これで、ひと段落ですわね」
 瓦礫の下から自力で這い出して、衣服を調達することもできたトレーネは、姉妹とともに、事件の起きた現場をゆっくりとみまわしていた。
「一時はどうなるかと思ったけど、さらわれた人を救出できてよかったよ」
 パフュームも、ほっとひと安心だ。
「それにしても、バルタザールの最終的な目的は、何だったのかしら? さらった女性を洗脳してストラトスシリーズを演奏させようとしていたのはわかりましたが、それ以上のことはわからないままね」
 シェリエは、腕組みをして、考え込みながらいった。
 警察の捜査でも、瓦礫の下から、バルタザールは発見されなかった。
 行方不明ということになるが、シェリエには、バルタザールが亡くなったとは思えなかった。
 おそらく、どこかに潜んでいて、いつかまた、姿を現すはずだ。
 バルタザールの仮面の奥に隠された素顔も、謎のまま。
 待ち受ける運命、恐るべき敵との再会を想うと、シェリエは背筋がゾクゾクとするものを覚えた。
 不思議なことに、バルタザールの部下であったアマゾネスたちの姿も、瓦礫の下からはみつかっていない。
 それについては、何人かの生徒からの不気味な証言があった。
 振動者が、倒れたアマゾネスたちをその内部に飲み込んでいたというのだ。
 振動者――ザ・バイブレーター――。
 あれはいったい、何だったのか。
 結局、振動者の姿も、瓦礫の中からは消えていたのだ。
 警察が懸命に捜査したところで、事件の真相は闇の中、ということになる。
「バルタザールは、自分が振動者を召還したのに、その後、思いどおりにならない振動者をもとの世界に戻すことができなくて、もてあましているような、そんな印象がありましたわ」
 トレーネが、呟いた。
「そういえば、アリアさんは、大丈夫なのかしら」
 シェリエの問いに、その場にいた全員が顔を曇らせた。
 振動者の触手によって快楽の絶頂を極め、精神が崩壊してしまったアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)
 彼女は、瓦礫の下から救助され、病院に入院することとなった。
 だが、意識が回復する見込みはなく、かりに回復しても、精神は崩壊したままである可能性が高いという。
「元気になってくれることを、祈るしかないよ」
 パフュームはいった。
「ストラトスシリーズを悪用しようとする奴ら。許せないわ」
 シェリエはいった。

「ここはどこ? 私は、もう、ダメなの?」
 アリアは、どことも知れない時空の中をさまよう自分自身の姿を感じて、当惑していた。
 これまで、アリアは、何人もの男性に陵辱され、身も心もボロボロといっていい状態だった。
 そこに、振動者の触手がとどめを刺したのだ。
 あの触手によって、アリアは、苦痛とは別の、快楽、を知ってしまったのである。
 その瞬間、アリアは崩壊したのだ。
 これまで苦痛と認識していたものを、かえって求めるようなことになれば、精神はバランスを失って当然といえた。
「光がみえる……私は……まだ何も……」
 アリアが、死を覚悟したとき。
(アリア・セレスティよ。真の愛欲に目覚めるのだ)
 ふいに、眼前に現れたその光から、明瞭な声が伝わってきた。
「あなたは!?」
(昨夜、振動者をもとの世界に導くために現れたものである。振動者が与えた、あのような快楽に身を任せてはならぬ。いま一度、おぬしを回復させよう。真の愛欲に基づく、自分を活かす快楽に目覚めていくべきである。忘れるな。嫌悪するだけでもダメなのだ……。導きの光が欲しければ、いずれ、我の巫女に尋ねるがよい)
「ああ……なんて神々しい光なの……あれは……あれは、いったい……」
 そして。
 アリアは、病院のベッドのうえで目を覚ました。
「ここは!?」
 看護婦たちが、驚いたような目で自分をみつめていた。
「すごい!! まさか、回復するなんて!! しかも、精神が通常に戻っているわ!! 奇跡だわ!!」
 看護婦たちは、アリアの回復に驚喜した。
「ああ。私は、確かに助かった、いえ、助けてもらったわ。でも、あれは、何だったのかしら?」
 アリアは、自分に呼びかけてきたあの声の正体が、ひどく気になった。
 そして、想い出そうとするうち、その胸の奥に、ひとつの名前が刻まれていることに気づいた。
 パンツァー・イタチューン。
 その名前こそ、あの英霊の名前ではないかと、アリアは想った。
 だが、それ以上のことは、謎のままであったという。

「聞いて! アリアさんの意識が回復したって!! もうすぐ退院できるそうだよ」
 パフュームが、嬉しくてたまらないといった口調でいった。
 カフェ・ディオニウス。
 三姉妹は、再び、日常に戻っていた。
「そう。本当によかったわ」
 シェリエも、笑顔を浮かべた。
「よかったけど、でも☆」
 客としてきていた騎沙良詩穂(きさら・しほ)が、口を挟んだ。
「でも、何かしら?」
 シェリエが尋ねた。
「例の振動者に身体を弄ばれて、快楽を味わわされた人たちの大半は、その後、毎晩身体が疼くようになったって、もっぱらの噂だもん☆ 特に、特に特に、不思議な、とがっていて震えるおもちゃが手放せなくなってしまったって☆」
 詩穂の言葉に、小鳥遊美羽(たかなし・みわ)は首をかしげた。
「ふーん。そんなおもちゃ、何に使うんだろうね?」
 そういう美羽の隣で、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、なぜか顔を赤らめていた。
「あらあら。みなさん、大変ですわね」
 黙って話を聞いていたトレーネが、そのとき、ニッコリ微笑んで、カウンターの隅に手を伸ばした。
(うん? あれは?)
 コハクは、目を丸くした。
 カウンターの隅に、詩穂がいっていた、不思議なおもちゃによく似たものが置いてあったのだ。
 それは、人形のようなかたちをした、不思議なおもちゃだった。
 トレーネは、そのおもちゃを、愛おしそうに指で撫でていたのである。
(ま、まさか、トレーネさんが……まさか、まさか!!)
 コハクは、胸がドキドキするのを抑えられなかった。
 カフェ・ディオニウス。
 今日も、三姉妹は、癒しのコーヒーを客に淹れ、笑顔でもてなすのである。

担当マスターより

▼担当マスター

いたちゆうじ

▼マスターコメント

 今回はカフェ・ディオニウスの三姉妹が活躍する「神劇の旋律」シリーズの一作を担当するという、いつもとは違った趣向でしたが、いかがでしたでしょうか。

 既に気づいた方もいるかと思いますが、今回のシナリオガイドは、運営部の方で原案を用意して頂いたものです。

 三姉妹、なかなか個性派が揃ってますね。
 私はパフュームが好きな感じなのですが、そのわりにはトレーネばかり目立ってしまいました。

 トレーネが何かに目覚めてしまったようですが、それは今後のシリーズ展開に重要な影響を……及ぼしませんので、ご安心下さい(笑)。

 それでは、参加頂いたみなさん、ありがとうございました。