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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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第3章 拉致監禁でキャッキャウフフ☆ですわ

「くすくすくす。楽しそうな宴ですわ」
 ディオニウスで開催されているパーティの会場に、蝶のような仮面をかぶった、妙齢の女性が現れた。
 参加者の一人として、その女性は、会場に流れる調べにあわせて、妖艶に身をくねらせる。
「あなたは? 楽しそうに踊ってらっしゃいますわね」
 トレーネは、不思議とその女性が気になって、ともに手を合わせて踊り始めた。
「トレーネ。やはり、あなたには素質がありますわ」
「素質ですか? 何のことかわかりませんが、ほめてもらえて嬉しいですわ。あなたは、名前を何というのです?」
 トレーネの問いに、その女性は答えた。
バルタザール。わたくしは、バルタザールですわ」
 そして、トレーネとバルタザールとは、参加者の喝采を受けながら、互いに手と手をとりあって、くるくるとまわりながら会場を練り歩いていった。

「しかし、この格好は何だ? 俺たちが囮役ではなかったはずだぞ」
 高塚陽介(たかつか・ようすけ)は、自分の服装を確認するたびに、頬を赤らめていった。
「囮役でも何でもいいじゃないか。やっぱり、お嬢様とメイドが安定だしな。かかってくる奴がいれば、縛りあげるぞ」
 陽介と同じく、女装してパーティに参加しているクレイ・ヴァーミリオン(くれい・う゛ぁーみりおん)が、ブツブツいうなとばかりに、剥き出しの肘で、陽介をこづいた。
「いたっ! 何するのよ、もう。って、何いってんだ俺!?」
 思わず女言葉でいってしまって、陽介は再び赤面した。

「トレーネ。踊り疲れたんじゃない? 一杯飲んだら」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、バルタザールとともに踊るトレーネに、ワインの入ったグラスを差し出した。
「あら。ありがとう」
 ルカルカの差し出したグラスに口をつけ、ワインをすすると、トレーネは、礼をいった。
 その目に、いぶかしむような光があった。
(ルカ、あなた、姿を隠してついてくるんじゃなかったかしら?)
 ルカルカは、トレーネが目でいいたいことを理解して、さらに意味ありげな目配せをした。
(その女、危険な女がする。ヤバいよ。いま、小細工しても気づかれてしまう。だから、パーティが終わるまでは普通の参加者でいるのさ)
 ルカルカの真意が伝わったのか、トレーネは軽くうなずいてみせた。
 そんな二人の無言のやりとりを、仮面をかぶったバルタザールがじっとみつめている。
 仮面の奥のその瞳が、不気味な光を放っていた。
(やっぱり危険だ。本当なら、闘いを挑みたいところだけど)
 ルカルカは、武者ぶるいにじっと耐えながら、二人の様子を見守った。
 この女には、何かある。
 ルカルカのその直感に、間違いなどあろうはずもない。
 だが、店の奥のサイバールームに控えているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に連絡をとったところ、「いま何か仕掛けるのはまずい」というアドバイスがきたのだ。
 そのアドバイスがなければ、ルカルカは、予定どおり姿を消したままトレーネに張りつくか、すぐさま攻撃を仕掛けているところだった。
 バルタザールというこの女の正体はわからないが、このパーティには、あくまでも一参加者としてやってきているように思えた。
 おそらく、ひとしきり踊った後は、どこかへ消えていってしまうはずだ。
 そうなってから、予定どおり作戦を実施しようとルカルカは考えていた。
 そして、ルカルカの戦士としての直感というのは、いつも当たるものなのである。

「それでは、みなさん、お疲れさまでした。おかげさまで、とても楽しかったですわ。さあ、気をつけて帰りましょう」
 トレーネは、宴の終了を宣言した。
 ルカルカの予想どおり、バルタザールという謎の女は姿を消している。
 ルカルカは、予定どおり、ベルフラマントで自分の姿をみえなくさせると、空中に浮遊して、会場を出て帰宅の途につくトレーネを、その頭上から追跡していった。
 本当は、トレーネが一人で帰るというのは普段の習慣にないことだが、囮作戦のためにわざわざ一人になっているのである。
 敵はきっと仕掛けてくるはずだと、ルカルカは考えていた。
 だが、その、直接仕掛けてくる相手は、おそらくバルタザール本人ではないはずだとも、ルカルカは予想していたのである。

「はあ、結局、何事もなかったね。とりあえず帰ろうか」
 カッチン和子(かっちん・かずこ)も、やや肩すかしの感は否めなかったが、とりあえず家路につくこととした。
 まあ、帰宅途中で襲われるかもしれない、という気もしないではなかったのだが。
 そして、和子は、見事に襲われた。
「あれ? パーティの参加者だった人たちだよね」
 和子は、何人かの女性たちが、歩きながら、自分の周囲を取り囲むようにしてきたことに気づいた。
 よくみると、その女性たちは、容姿こそ美しいものの、その身体は筋骨隆々として、なみの鍛え方ではないとわかるものだった。
 突如、和子の視界が真っ暗になった。
「わああ、これは、術を使われたの!? ね、眠い」
 視界が闇に覆われると同時に眠気に襲われ、和子はその場にうずくまった。
 取り囲んできた女性たちが、自分の身体を抱きあげるのがわかった。
(ボビン、早く助けを呼んでね!!)
 バックの中のボビン・セイ(ぼびん・せい)に内心で呼びかけながら、和子は、深い眠りに落ちていった。
(よーし、さらわれたね。さあ、スパイ開始だ!!)
 ボビンはボビンで、いよいよこれから冒険だと、ワクワクする気持ちを抑えられないでいたのである。

「あ、あれあれあれ!?」
 和子と同様に帰宅途中だったレイカ・スオウ(れいか・すおう)も、多数の影に囲まれ、悲鳴をあげた。
 だが、レイカもまた、捕まるつもりだったのだ。
 だから、あっさり倒れて、眠りこけた。
 もちろん、本当に意識も飛んでしまっていたのだ。
「さあ、いよいよ追跡開始だな。しかし、誘拐された女は何をされるのだろうと期待してたんだが、同性に襲われているとはな。まさかレズとか!?」
 レイカが連れ去られる様をものかげからうかがいながら、霧島玖朔(きりしま・くざく)は、やっと仕事を始められると、腕が鳴るものを覚えていた。
「レズじゃなきゃ、何がいいの」
 伊吹九十九(いぶき・つくも)が、囁き声で尋ねた。
「そうだな。こういうのとか!!」
 そういって、霧島は伊吹の肩に手をまわし、胸の谷間に顔をうずめようとする。
「ちょっと、やめてよ。早く行かないと、あいつら行っちゃうわよ」
 伊吹は赤面して、霧島の顔をはがしにかかった。

「き、きゃあー、やめて、いやあー、って、何いってんだ……お……れ……」
 女装したまま帰宅についていた高塚陽介もまた、謎の筋肉女集団に襲われ、眠らされてしまっていた。
「何やってんだよ。ダウン速すぎるだろうが。おい、起きろって。ちっ」
 同じく襲われていたクレイ・ヴァーミリオンは、あっさり倒れた陽介をほっといて、メイド服のスカートの中からフューチャー・アーティファクトを取り出すと、めちゃくちゃに乱射し始めた。
 だが。
 女戦士たちの反応は、冷静かつ、迅速なものだった。
 クレイの放った弾丸は一発も対象に当たることなく、瞬く間に腕をひねりあげられて、銃を取り上げられてしまう。
「なあ、そりゃ……ない……だ……ろ……」
 そして、クレイもまた、深い眠りに落ちていったのだった。
 ひゅうううううう
 どこからか冷たい風が吹き、倒れ伏したクレイの、メイド服のスカートの裾を大きくまくりあげて、このために準備したらしいTバックのパンツを露にさせていた。