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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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第2章 【アオフロ・ナイト・フィーバー】でハッスルハッスル☆ですわ

「ハデス様。視察の結果はいかがでしたか?」
 アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が、主であるドクター・ハデス(どくたー・はです)に尋ねた。
「うむ。ディオニウスの3姉妹とやら、なかなか見込みがありそうであったが、あの様子では、我らがオリュンポスのスカウトを受け入れそうにはないな。ここはやはり、ストラトスシリーズの情報を力ずくで手に入れるしかなかろう」
 ハデスは、うなずいていった。
 視察といっても、ディオニウスの扉を開けてもらって一瞬顔を合わせただけで、すぐに閉められてしまったのだが。
 ハデスは、決して諦めるつもりはなかった。
 ストラトスシリーズの情報を、あの3姉妹だけに独占させるつもりはない。
 世界征服に向け、本格的に動き出すべきだと、ハデスは感じていた。
 もちろん、そんなことを感じているのはハデスだけで、アルテミスなどからみれば「?」であったが。
「オリュンポスの騎士アルテミスよ。今週末にディオニウスで開催されるという音楽パーティに紛れこみ、3姉妹の一人、トレーネを誘拐するのだ。失敗は許されないぞ」
 ハデスは、命令を下した。
「了解しました。必ずやトレーネを連れ帰ってまいります」
 アルテミスはハデスの前にひざまずき、深々と頭を垂れていった。
「ああ、待て。ヘスティアよ。アルテミスの援護を頼むぞ」
 ハデスは、もう一人の部下(?)に声をかけた。
「かしこまりました、ご主人様……じゃなかった、ハデス博士」
 急に振られてヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)は驚いたが、それでもうやうやしく頭を垂れることができた。
 そして。
「ふふふ。さて、あのトレーネさんがおとなしくつかまるかしらね?」
 ハデスたちの後方では、オリュンポスのスポンサーといわれるミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)が、手にしたカップの紅茶を口に含みながら、不敵な笑みを浮かべていった。
 ざわざわざわ
 ハデスたちの周辺から、一般大衆の落ち着かない囁き声が聞こえる。
 無理もない。
 ハデスたちが勝手に「移動基地」として「秘密会議」を行っていたそこは、どこにでもある、普通の街中の喫茶店の一席に過ぎなかったのだから。
 だが、一般大衆たちのいぶかしげな視線にさらされても、ハデスたちはいっこうに平気なのであった。

「みなさま、よく集まって下さいました。さあ、これから、パーティの始まりですわ」
 週末のディオニウスの店内に、トレーネの声が響きわたる。
 音楽パーティ。
 それこそが、3姉妹の張った「罠」であった。
「いよいよ始まったね。さあ、警戒だよ。さりげなくね」
 パーティの参加者を装ってトレーネたちの護衛役を行う、清泉北都(いずみ・ほくと)が、同じく参加者を装っているソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)に耳打ちをしていった。
「ああ、始まったな。それじゃ、俺も、参加者らしく弾かせてもらおう」
 ソーマは、ニッコリ笑ってうなずくと、得意のバイオリンの腕前を披露しようと、おもむろに演奏を始めた。
「楽器を弾くのはカモフラージュになっていいけど、弾くのにあまり夢中にならないでね、って、もう遅いか」
 北都は、周囲の言葉が耳に入らないほど演奏に熱中しだしたソーマの様子をみて、ため息をついた。
「大丈夫でござる。よい演奏をバックに聞きながらの方が、護衛の仕事も務めやすいもの。なぜなら、武術というのも、所詮はリズムなんですから」
 紫月唯斗(しづき・ゆいと)が、北都にいった。
 そういう唯斗は、楽器の演奏はおろか、演奏にあわせて歌ったり踊ったりといったことも一切やっていないのだが。

「みんな、楽しんでいってね!!」
 パフュームの陽気な声が響く。
「さあ、踊るわよ」
 シェリエが、ニッコリ笑って華麗に舞い始めた。
「宴もたけなわだねー!! さあ、演奏もいよいよ絶好調だよ!!」
 楽団の一員として演奏するカッチン和子(かっちん・かずこ)が、興奮に顔を紅潮させながらも、勢いよく調べを奏でる。
「ふふふ。誰にもわからないよね。まさか、和子も囮の一人だなんて! さあ、さらわれるのが楽しみだなー」
 和子のバックの中に潜んでいるボビン・セイ(ぼびん・せい)は、思わずほくそ笑んだ。

「なかなか見事な演奏ですね。私の腕前も披露しましょうか」
 レイカ・スオウ(れいか・すおう)が、ヴァイオリンを弾いているソーマに話しかけた。
「うん? お前もヴァイオリンをやるのか?」
 ソーマの問いに、レイカはうなずいた。
 おもむろにヴァイオリンを取り出し、鮮やかな手つきで演奏を始める。
「あなたには及ばないかもしれませんが」
「いやいや、なかなかのものだぜ」
 ソーマは楽しそうに微笑むと、自分の演奏をレイカの演奏に合わせるようにし始めた。
 まるで、ヴァイオリンの競技大会である。
「だから、あまり夢中になるなって」
 ソーマの様子を見守る北都は、頭を抱えてしまった。
 いま、ここで何かが起きたら、どうするというのか?

 そのとき。
「ヴァイオリン? レイカ・スオウか」
 背後から、何だかいやらしい気配がしたので、思わずレイカは身をかたくして、振り返った。
「あなたは?」
 きょとんとしたレイカに、霧島玖朔(きりしま・くざく)はニヤッと笑って囁いた。
「依頼の件で、動いている者だ。囮をやるんだろう?」
「あっ、あなたが霧島さんですか。はじめまして」
 レイカは思わず大声をあげそうになるのを抑えながら、努めて囁くような声で応答した。
「あまり話しこまない方がいいな。じゃ、ストーカーやってるぜ。伊吹、行こう」
 霧島は、傍らにいた伊吹九十九(いぶき・つくも)のお尻をポンと叩いて、うなずいた。
「きゃっ! もう、パーティにまできて、変なとこ触らないで欲しいわ」
 伊吹は、頬を膨らませながら、霧島に従っていった。
 その乳が、歩くに従って、見事な揺れをみせる。
「お、おおきな胸ですね」
 伊吹の胸に思わずみとれてしまったスオウは、相手に聞こえないくらいの声で呟くのだった。

「さあ、みなさまもダンスにご参加下さいませ」
 トレーネは、妖艶な笑みをみせながら、ダンスの相手を勧誘した。
 そこに。
「トレーネ様、すみませんが」
 参加者としてパーティに潜り込んでいたアルテミスが、トレーネのダンス・パートナーに立候補し、その手をとってくるくるまわり始めた。
「あらあら。なかなかいい線してますわね」
 トレーネは、アルテミスの身体つきを賞賛した。
「本当に申し訳ありません。おとなしくしていれば、危害は加えませんので」
「あら?」
 アルテミスは、トレーネの両肩をつかんで、互いにくるくるまわりながら、会場の出口に向かっていった。
 このまま、踊っているフリをしながら外に出れば!
 アルテミスには、トレーネの力を抑える自信ならあった。
 だが。
「ソーマ、演奏中止! エマージェンシーだよ」
 異変に気づいた北都が、踊る2人に走っていった。
 囮調査なのだから、トレーネがさらわれてもすぐには動かないつもりだった。
 だが、この状況は違う。
 本来、さらってくれるのを予定していた連中の仕業ではないのだ。
 とりあえずここは妨害しておかないと、計画が阻害されるのである。
「うん? 何かいったか? すぐに動かない方がいいだろ」
 ソーマは、ヴァイオリンを弾く手を休める間も惜しいようだった。
「違うって。これは予定されていたことじゃない。あれをみなよ!!」
 北都は、会場のひと隅を指さした。
 そこには。
「ワハハハハハハハハ!! しもじもの者よ、実に愉快な宴であるな!! 我が名は、秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者のドクター・ハデスである!! 奇しくも、今宵は、オリュンポス創立○○周年(←お好きな数字を入れて下さい)記念日の参賀すべき夜である!! さあ、ぞんぶんに楽しむのだ!! トレーネよ、夜の闇に踊り出すがよい!!」
 酒に酔って、すっかりできあがってしまったハデスの姿があった。
「わかる? ハデスの仕業なんだよ。まさか、ハデスの追跡なんか、しないって!! ここで止めて、本当の相手を待たなきゃ」
 いいながら、北都はトレーネに歩み寄って、組み合っているアルテミスを引き離そうとした。
「企みがバレましたか!? ですが、このまま引き下がるわけにはまいりません!!」
 アルテミスは、意地でもトレーネを離すまいとした。
「あらあら。モテモテですわね」
 トレーネは、何だか楽しそうに笑っている。
 そして。
「警告します!! それ以上邪魔するなら、敵とみなし、攻撃します!! あっ」
 6連ミサイルポッドを構えたヘスティアが、アルテミスを援護するべく、北都を威嚇しようとして……、間違って、発射ボタンを押してしまった。
 しゅるしゅるしゅる、どごーん!!
 会場内に放たれる、危険極まりないミサイルの群れ。
「むっ、いかん!!」
 そのとき、唯斗は走った。
 さすがに動かなければいけない情報だった。
 唯斗は、酔って洪笑を続けるハデスに駆け寄ると、その身体を抱えあげて、ヘスティアが乱射したミサイルに向けて放り投げていた!!
 どご、どごーん
 ちゅどどどどーん
「お、おわああああ、何だあああああああ!! がああっ」
 ミサイル全弾を身体に受けて、ハデスは紅蓮の炎に包まれた。
「ハ、ハデス様ぁ!!」
 驚いたアルテミスは、トレーネを離して、ハデスに駆け寄っていく。
「ご、ご主人様、じゃない、ハデス博士、申し訳ありません。あっ、生きてる!! すごいですね」
 ヘスティアもまた、驚いてハデスに駆け寄り、その驚異的な生命力に感嘆した。
 そして。
 ハデスと、その2人の部下、合計3人の頭上に、唯斗は網を放った。
「はっ、不覚でした!!」
 アルテミスが気づいたときには、もう遅い。
 瞬く間に3人は網にからめとられ、縄でぐるぐる巻きにされた。
「あらあら。結構面白かったんですが、もう年貢の納めどきですわね」
 トレーネは、ニッコリ笑いながら、捕縛された3人を見下ろした。
「さあ、帰るでござる」
 唯斗は、北都とともに、捕縛したハデスたち3人を、外に運び出した。

「あら。トレーネかしら? 違うわね。とりあえず回収しますわ」
 外の車の中に待機していたミネルヴァは、運ばれてきた3人が車内に放り込まれるのをみて、驚いたような顔をしてみせた。
 本当は、そんなに意外でもなかったのだが。
「それでは、お役目ご苦労。失礼するでござる」
 唯斗は、そういって、会場内に戻っていった。
「仕方ないですわね。それにしても、ハデスったら、真っ黒焦げになって、それでも生きているんですわね」
 車中のミネルヴァは、呆れたような口調でいった。
「ぐ、ぐう。ハデス死すともオリュンポスは死なず! だが、死んではいない!! 我が発明品のひとつ、不燃スーツが役にたったようだ。がくっ」
 それだけいって、ハデスは失神した。
「セバスチャン! 車を出して。帰るわよ」
 ミネルヴァは、運転手を促した。
 かくて、ミッションに失敗したハデスたちは、スポンサーであるミネルヴァの車によって、暗闇の中に回帰していくのだった。
 いっときの騒動に身悶えるかに思えたカフェ・ディオニウスは、やがて、何事もなかったかのように、美しい調べを奏で、雅な歌を響かせ、夜更けまでパーティを続けるのであった。
 参加者の人たちは、みなみな、至福の表情で、いっときの遊楽に身を陶酔していたとのことである……。
 
『【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて』

          

【マスターより】
 今回もみなさんお疲れ様でした……って、そんなわけないでしょ!! ハデスの試みが失敗に終わったけで、物語はまだまだ続きます。だから、早く、本当の誘拐犯出したいんだって!!