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幕間:幽霊談義 〜英霊たちのありがたい言葉〜

 特に何事もなく巡回を続ける途中のこと。
 トメが久瀬に話しかけてきた。
「あんたは幽霊なんてほんにおると思ってはるの?」
「いるはずありませんよ……」
 即答するが早口すぎた。違和感を感じさせる話し方にトメは苦笑する。
「せやな。いるはずあらへん。よく言いはりますやろ幽霊の正体見たり枯れ尾花や。なによりな、私がなりたかったのになられへんかったもんに、そう簡単になれるお人がおったら私かて怒りますわ」
 過去に色々あったのだろう。
 どこか懐かしむような面持ちで語るトメの言葉はどことなく重く感じられた。
「簡単に幽霊にはなれないから新設校に幽霊がいるはずもないか」
 理屈ではそういうことになるのだろう。
 しかしそれで納得できるかといえば難しい。久瀬も同様に頭では分かっていも感覚的には理解に及ばないような、表現し難い面持ちになっていた。
(すぐにそういうものだと理解しろっていうのは無理があるのかな)
 久瀬の様子を見ていた朋美は思うが、かといって良い手段があるわけでもなく、クウたちが悪戯をしてこないか気を配ることしかできなかった。

 久瀬の後ろを歩いていた陳宮も難しい面持ちをしていた。
(久瀬殿のお気持ちもわかります)
 彼もまた久瀬同様にトメの言葉を受け止めきれていなかった。
 英霊が幽霊を怖がるなど笑い話にもならないだろうが、こればかりは感覚的なことなので仕方がないと言えた。
「久瀬殿。幽霊のことなど考えてもしかたありません。今は巡回を終えることだけを考えましょう」
「そうですね。幽霊はルーノクンたちに任せていますし、私たちは私たちの仕事に集中するべきですね」
 話す二人の前に突然アドハムが姿を現した。
 思わず飛び退く二人。
「フフ……デハイキマショウ」
 何事もなかったように先頭を歩き始めるアドハムを龍滅鬼はたしなめる。
「まったく何度言えば……すまなかったな」
「いえ……大丈夫でしゃいっ!?」
 何事かと久瀬の様子を見た龍滅鬼の視界に入ってきたのは、いつの間にか久瀬の頭の上でくつろいでいるキャロの姿だった。
「アドハムといいキャロといい……何度言えば……」
 龍滅鬼の吐くため息は深い。普段から苦労しているのが窺えた。
「だめなのー?」
「いえ、私は別にかまいませんよ。ちょっと驚いただけですから」
「すまんな。警護役を引き受けておきながら……」
「では行きましょうか」