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リアクション
プロローグ
十二時。空京、とある個室。
一人の女性が木造の椅子に腰掛け、窓から差し込む日光を便りに一冊の本を読んでいた。
忘れてはいけない一日。空京を襲った悪夢
表紙にそうでかでかと書かれているのは、この本のタイトル。
ぺらぺらとした薄いが丈夫な紙にコンピュータによる無機質な文字で紡がれているのは、神隠し事件と盲目白痴の暴君についてのことだ。
彼女は集中をしているのか凛とした目を細め、その本を読み進めていく。だんだんと、ページを繰る手が早くなっていく。
時間は刻々と過ぎていき、大方読み進めたところで、彼女はやがて最終章にたどり着く。
忘れてはいけない一日。空京を襲った悪夢。 最終章 「それぞれの叫び」
空京の街外れにある小さな教会の祭壇に、生前のグラニア・オデットが人知れず書き込んだ決意表明より抜粋
その章の初めに書かれてあるその文を読み、彼女の手に我知らず力がこもって、くしゃりとページに皺が出来た。
私は悪徳の逆徒として冥府に堕ち逝くことでしょう。
しかしそれは為した事が悪しきものだったからではありません。
私の力が及ばざるが故です。
力なき正義は悪……故に、敗れて冥府に堕ちた私は悪なのです。
それでも、私は抗うと決めました。
現在(いま)を精一杯生きた結果として、未来がある。
それが、たとえ幸運ならざる結末だったとしても、気に入らないからと言ってそれを変えようとする事は、現在を精一杯生きる人々に対する冒涜です。
それを赦してしまえば様々な不幸を回避しようと皆が皆、未来を書換えようとする事でしょう。
神ならざる者が未来を書換える、それはもはや赦されざる悪徳です。
現在を精一杯生きる人々を踏み躙った末に得た未来は大団円などではありません。
それを為したあなたがたもまた、未来で災禍を起こした元凶と何ら変わらぬ悪徳の徒なのです。
幸運ならざる未来にも意義はあります。
私は現在を精一杯生きる人々が作った結末を、未来を守りたいのです。
だから私は――大団円を否定します
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