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動物になって仁義なき勝負?

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第四章 奪還日和


「原因はこれだね」
 ルカルカは、あらゆる場所の土を採取し、携帯顕微鏡で拡大観察をしたり、ホムクルンスと相談しながらようやく原因を突き止めた。
「土がいろんな形になるのは、土中に含まれている魔法で変異した無数の微生物が人に反応してそれぞれ動物になろうとするから」
 ルカルカはゆっくりと結果をまとめていく。
「と言う事は、魔法を使って姿を変える動物変身薬と同じって事かも。魔法によって姿を変えるんだから。でも、微生物と土中に含まれている魔法を何とかしないとだめだね。森に悪影響を与えず……あ、エリシア。どうだった?」
 動物変身薬と似ている事に気付いた時、やって来たエリシアの案配を訊ねた。

「微生物と土中に含まれている微生物を変異させる魔法が問題ですわ。薬には二つの効果が必要ですわね」
 ウィッチクラフトの秘儀書と『博識』や『召喚者の知識』、『サイコメトリ』などをフルに使い実験調査をしていたエリシアが、互いの結果を確認し合うためにやって来た。
「分担した方が早いよね。今頃、ダリルが動物変身薬を分析し終わっていると思うから、ルカ達は土に含まれている魔法部分を何とかするよ」
 ルカルカはダリルが動物変身薬を分析している事を思い出していた。
「それでしたら、わたくしは微生物を何とかしますわ」
 エリシアは、微生物対策を引き受ける事にした。
 一人が二つの薬を作るより時間は短くて済む。

「よし、決まりだね」
「……急ぎましょう」
 ルカルカとエリシアは話し合いを終え、行動へと移った。

「ダリル、土の分析結果が出たよ」
 ルカルカは自宅の実験室にいるダリルに急いで連絡を取った。

 結果をだいたい予想していたダリルは、『薬学』や『R&D』、『先端テクノロジー』を使い、手早く動物変身薬を分析し、戻り薬を作り上げていた。後はルカルカの結果によって改良を加えるだけだった。ちなみに動物変身薬は再び六本の瓶に別々にされている。

「……そうか、予想通りだ。薬の方は早く出来上がるはずだ」
 ダリルはルカルカから土壌の分析結果を聞いていた。

 報告が終わると
「……さて、始めるか」
 作業を始めた。
 ダリルは、『薬学』と『博識』を併用し、手早く戻り薬に改良を加えていった。

 魔女エリシアの移動工房。

「存分に魔女の力を見せてあげますわ」
 エリシアは、薬品開発を手早く始めた。使用した時、薬同士が化学反応を示さないようにダリルと連絡を取り合いながら作製を進めた。

 ウィッチクラフトの秘儀書と『博識』、『召喚者の知識』を使い、作り上げる薬を頭の中に組み立て、魔女の薬草箱から様々な薬草を取り出しては魔女のフラスコを使って実験をして効果を確かめては加えたり廃棄したりして微生物の活動を休止させる薬を目指していく。

「薬が出来るまでルカは森にひどい事をした魔術師について調べようかな」
 ルカルカは二人が回復薬を作り上げるまで『サイコメトリ』で森をこんな姿にした魔術師について調査する事にした。

 森に入って岩など数カ所、記憶を読み取って行く。
 少しぐらい何か情報を得る事が出来るのではと思っていたが、得たのはひどいものばかり。

「……ひどい」
 ルカルカは思わず言葉を洩らした。読み取ったのは、土に呑み込まれる人々の恐怖や悲痛な姿ばかりで魔術師の姿は発見出来なかった。魔術師が何かしているのかもしれないが、森全てを確認した訳では無いのでどこかに記憶が残っている可能性は捨てきれない。
 ただ、これ以上読み取って気持ちの良いものではない。
「……森を完全に元に戻さなきゃ、犠牲者を出さないためにも」
 ルカルカは強くそう思った。

 ルカルカが森の記憶を読み取り、森の治癒を強く決意していた時、微生物の活動を休止させる活動休止薬を作り終えたエリシアがやって来た。
「薬、出来ましたわ」
「あとは、ダリルだけだね。ねぇ、エリシアもサイコメトリで記憶を読み取っていたよね?」
 ルカルカはエリシアも同じように記憶を読み取っていた事を思い出し、訊ねた。もしかしたら自分の知らない情報を知っているのではないかと思ったのだ。
「えぇ、度が過ぎた不始末ですわ」
 エリシアは気分が悪いと言うようにうなずいた。誰が見ても楽しくなるような記憶ではない。
「ルカもそう思ったよ。魔術師の姿が見えないし」
 ルカルカもまた嫌な顔になった。
「えぇ。あれは魔術師の仕業なのか、たまたまわたくし達が目撃していない場所を読み取ったのか、どちらなのか分かりませんわね」
 エリシアはルカルカと同じ見解を述べた。
「……エリシアもそう感じたんだ」
 ルカルカはうなずき、何事かを考え始めた。

 その時、
「……待たせた」
 ダリルが戻り薬を改良した薬を片手に現れた。元に戻した動物変身薬はナコに渡してある。
「出来たんだね。まだ戻り薬を取り戻していないみたいだから、きっとみんなの手助けになるね」
 ルカルカは思考を今に戻し、力強く言った。今は森を元に戻す事が先だ。
「あぁ、散布は頼む」
 ダリルは散布をルカルカに託した。
「任せて」
 しっかりと引き受けた。
「わたくしも手伝いますわ」
 エリシアも散布に参加する。

 ダリルとエリシアの作った薬を用意した散水装置に詰め込む。範囲がそれなりに広いので水を入れて量を増やす。水に入れて使うタイプの薬なので何も問題は無い。
 ようやく、土壌回復薬の散布が始まった。

 ルカルカとエリシアはルカルカの『空飛ぶ魔法↑↑』を使って空から土壌回復薬の散布兼水やり始めた。

「うわぁ、虹だよ! すごく綺麗」
 ルカルカは散水によって生まれた虹にはしゃいでいた。
 森の外でも虹は見えるので目撃した園児達はとても喜んでいた。特にダンからノアの方舟の話を聞いた子供達は。

 散水後、二人は地上に降りて薬の効果を確認した。
「……うまくいきましたわね」
「何も襲って来ないね」
 地上に降りても土塊は生まれず、ただの地面のまま。森を元に戻す事が出来たのだ。
「……これで犠牲者は今後出ないだろう」
 ダリルも薬の効果のほどに満足していた。