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動物になって仁義なき勝負?

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第二章 わんぱく日和


 アスレチック広場。

「……もういないみたいだからナコ先生に渡さないと。その前に」
 アメリ・ジェンキンス(あめり・じぇんきんす)は、利用者がいなくなった動物変身薬をナコに渡しに行く前にもう一度だけふたを念のためきつく閉めていた。
「アメリ、悪いが、動物変身薬を渡してくれないか。ナコにはすでに伝えてある」
 動物変身薬を求めてダリルがやって来た。アメリに会う前に一度ナコに説明し、了承は得ている。
「……何かに使うの?」
 アメリは訊ねた。
「本来の形に戻すつもりだ。無害とは言えこのままには出来ないからな」
 ダリルは動物変身薬を見ながら答えた。
「……分かった」
 アメリは動物変身薬をダリルに渡した。
「調査の結果、もしかしたらこれが必要になるかもしれない」
 『薬学』を持つダリルは森を見た時にどの様な薬が必要となるのかだいたいの事は考えていた。
「……必要というと」
 アメリはさらに事情を訊ねる。
「調査結果で戻り薬が必要になれば、これを分析すれば作る事が出来る。あの兄弟に連絡を取れば簡単だろうが、今の状況では無理だろう。その上、戻って来るのを待つ時間が惜しい」
 ダリルは土が様々な姿を変えるという事からもしかしたら戻り薬が参考になるのではと考えている。ロズフェル兄弟がいれば簡単だが、今はいない上に待ってはいられない。
「……そうね。早く森を救えば、みんなの助けになるもなるわね」
 アメリはこくりとうなずいた。

 それに対して文句を口にしたのは動物に変身していない園児達だった。

「えーー、薬持って行っちゃうの」
「やだやだ」
「むー、ずるーい」
 口を尖らせたり、頬を膨らませたりして不満を訴える。

「先生、言ってたよね。戻り薬が戻って来るまで使えないと」
 アメリはナコが騒ぎが起きてすぐに園児達に言った事を口にした。

「でも〜」
「ずるいよーー」
「僕も鳥になって飛びたいのにーー」
 遊び盛りの子供達が納得するはずがない。

「……この薬はね、お熱を出した森を元気にするためにいるからもう少しだけ我慢してね」
 アメリは屈んで優しく言い聞かせ始めた。何とか分かって貰おうと。

「熱?」
「森がぁ?」
 園児達は首を傾げながらアメリに訊ねた。

「……うん、あなた達もお熱を出したら辛いでしょ。幼稚園に行けなくてお友達と遊べない。森は今そうなの。辛くて寂しくて早く元気になりたいって」
 アメリの優しい言葉にはほんの少し悲しさがあった。病気は自分にとって一番心当たりがある事だから。

「うん」
「ずっと寝てるのつまんない」
 園児達は寝込んでしまった時の事を思い出したのか大人しくうなずき始めた。

「あなた達はとても優しい子だから我慢出来るよね」
 アメリは笑顔でもう一度訊ねた。

「うん」
「……森、元気になる?」
 園児達は、アメリにうなずいたり動物変身薬を持ったダリルに不安そうに訊ねた。

「心配無い。俺は医者だ」
 ダリルは子供達に即答して自宅の研究室へ急いだ。

「……じゃ、優しいみんなのために何か弾くよ」
 ダリルを見送った後、アメリは改めて自分の前に用意した持ち運びタイプのキーボード、鍵盤楽器に視線を戻した。

「……何がいい?」
 アメリは早速子供達に訊ねた。
「何でもいいの?」
 ヒーロー図鑑を持っている地球人の少年アルリッヒが聞き返した。
「何でもいいよ」
 あっさりと答えるアメリは幼児が気に入りそうな曲は一通り弾けるのだ。

「じゃぁ、スカイレンジャーの歌」
 少年はびしっと五人組のヒーロー戦隊、大空戦隊スカイレンジャーの図鑑をアメリに見せながらリクエストした。

「あ−、アルリッヒ、ずるーい」
「あたしもー」
 当然、他の子達から不満が出る。

「大丈夫だよ。順番にみんなの好きな曲弾いてあげるから」
 アメリは文句顔の子供達に言い聞かせてからじっと鍵盤を見つめ、ゆっくりと動かし始めた。
 リズムが良く闘志がたぎるような音楽が流れる。『演奏』を持つアメリが奏でる完璧な音だけではなく、元気な子供達の歌声が重なっていく。
 リクエストをしたアルリッヒだけではなく、不満を口にしていた子供達も一緒に歌っていた。アメリも演奏しながら一緒に歌う。

「じゃぁ、次あたし」
「その次、オレ」
「僕も!」

 一曲終わるなり、子供達が次々にリクエストをしてくる。人気のアニメや幼稚園で習った童謡など。リクエスト曲は様々。子供達は楽しそうに歌ったり手拍子をする。すっかり変身出来ない不満は消えていた。