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「……こういう話には、酒が必要だな」

 と、レン・オズワルドがそういって、おばちゃんにお酒を注文する。
 おばちゃんは徳利とおちょこを3つ持ってくると、それをテーブルに置いた。

「若い奴らの元気に遊ぶ姿を肴にして、俺たちは一献やるとしよう」

 レンのその提案に三郎景虎も席につき、3人は杯をあげた。
 レンと三郎景虎は静かに杯を空ける。権兵衛は飲めないので、浮かせていたおちょこをそっとテーブルに戻した。

「そういえば、権兵衛。聞けば、生前は傭兵をやっていたそうだな?」

 と、レンが何気なく権兵衛にそう聞いた。

「ええ、身寄りもなく、戦っていくことでしか食べていくことができませんでしたからね」
「そうか。となると、妻や子供は……」
「はい、そういったものはありません。それに私のようなものが家族を持てば、いずれその者たちを悲しませたことでしょう。ですから、そういうものを持とうとも思ったこともありません」
「そうか。俺も同じような家業をしているんでな。つい他人とは思えずに聞いてしまった。申し訳ない」
「いえ、お気になさらずに……それより、あなたは?」
「俺か? 俺もおまえと同じ根無し草さ」
「そうでしたか、私はてっきり……」

 権兵衛は言葉を濁しながら、海で皆と楽しそうに遊ぶノア・セイブレムを見つめる。
 レンは苦笑いを浮かべると、そんな権兵衛に向かっていった。

「あれは俺のパートナーだ。だが、あいつを見てると、子供を持ってみるのも悪くないなと思えてくる」
「そうですね。やはりこの世に存在する意味のようなものは、あって悪いものではないのでしょう」
「それは俺もそう思う」

 三郎景虎はそういって、肩越しに振り返る。
 そこには、彼がいまこの世に存在する意味が安らかな寝顔で眠っていた。

「おまえがそう思うなら、話は早いな」

 と、レンが空になったおちょこに酒を注ぎながらそういった。
 そして権兵衛を見つめて、フッと口元を緩める。

「さっさと成仏して新しい人生を始めてしまえ。次の人生も悪くない、そう思えたら成仏するには今日は良い日だろうさ」
「……そうですね、今日ほど楽しいと思った日はありません。私もできるなら早く成仏して生まれ変わり、皆さんとまたこうして遊びたいです」

 権兵衛はそういうと、テーブルに置かれたおちょこに視線を落とした。

「権兵衛、そなた……!」

 と、権兵衛を見て三郎景虎が驚いた声をあげる。

「なんでしょう?」
「よく自分を見てみろ」
「はい?」

 権兵衛は首をかしげながらも自分の手を見る。
 するとその手は薄くなっており、地面が透けて見えていた。

「これは……」

 権兵衛は目を丸くしたが、すぐに何事かと悟ると、目の前にふたりに向かって笑顔をむけた。

「今日はどうもありがとうございました。どうやら長い怨霊生活もこれで終わりになりそうです……これも皆さんが私などのために力を尽くしてくれたおかげです。楽しかった今日という日は決して忘れません。それでは他の皆さんにもくれぐれもよろしくと――」

 権兵衛の言葉が途切れる。
 淡い光に包まれていた権兵衛は、唐突に姿を消した。

「――権兵衛さん! 一緒に遊びましょう!」

 と、ノアがやってきてそういった。
 だがそこに彼の姿はなく、杯を打ち鳴らしているふたりの男がいるだけだった。