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リアクション
「……ん?」
ようやく目を覚まし、起き上がったキスミは自分を囲むたくさんの優しくない表情に迎えられた。
「ようやく起きたね、キスミ」
アゾートが一番にキスミに言葉をかけた。
「いろいろと聞きたい事があるんだけど」
「無事なようだな」
ヴァイスがドラゴンの事を訊ねようとし、セリカがキスミが無事である事を確認した。
「キスミ様、話しやがれです」
「さっさとあの化け物は何なのか吐きなさいよ」
ジーナとセレンフィリティも聞き出す内容は同じ。
「……化け物って。というかオレに聞きたい事って」
気絶から回復したばかりでぼんやりするキスミは逆に詳しい事を聞こうと聞き返した。
すると、
「きすみしゃん」
コタローがトテトテとキスミの側にやって来た。
「何だ?」
キスミが可愛いナース姿のコタローに聞く。
「つんれれってなんれすか? ねーたんもじにゃもお家でつんれれって言われてうれすそえ、のーゆーいみなんれすか?」
コタローが小声で訊ねた。
「つんれれってツンデレ? それは……」
キスミがコタローの疑問に答えようとした時、
「そんな事、答えるな!!」
「ツンデレって言いやがるな〜ですっ!!」
樹とジーナが同時に反応し、ジーナは伝説のハリセンでキスミの頭を叩いた。
「って、痛!!」
キスミは叩かれた頭を撫でながらジーナをにらんだ。
「キミを見つけて縛り上げた途端、ドラゴンになったんだけど」
とヴァイス。
「ドラゴン? こっちは大砲に括り付けた途端、気味の悪い生物になったぞ」
樹は苛立った様子。
「……あぁ、あれかぁ」
心当たりを思い出したキスミは、懐から布袋を取り出した。
「……それは」
なぶらが何となく予想出来ながらも訊ねた。
「これは、陽竜商会って店で買ったんだけどさー」
そう言ってキスミは袋の中身を集まったみんなに見せた。
中に入っていたのは、数十本の漆黒の針。
「……針ね」
セレアナが見たままの感想を口にした。
「おう。これを体のどこでもいいから刺すだろ。血を吸い取ると針の色が赤くなるんだ。それで地面に突き刺すと自分と同じなのが生まれるんだ。ただ、一定時間経ったら化け物に変わるって」
キスミは急に楽しそうに説明を始めた。
「何でそんな物、買うかなぁ」
北都が呆れたように言った。
「面白そうだったから。でも針、刺すの痛くて二本しか出来なかったんだ。実演してみようか」
キスミは針を自分に刺そうとするが、
「……危ない物は没収だよ」
ルカルカが針の束を取り上げ、『ドラゴンアーツ』で粉々に砕いてしまった。
「あーーー、すげぇ高かったのにーーーーー」
キスミの空しい声が周囲に響いた。
しかし、誰もキスミを慰める者はいなかった。
「他に物騒な物は持っていないか。持ち物を全て出せ」
セリカが厳しく言った。
「……何だよ」
キスミはセリカの厳しい目に反抗出来ず、渋々手持ちをその場に出した。
「ありゃ? 財布だけ。えっ、あれはどこに行ったんだ。無いぞ」
財布を取り出すも持っていたのはそれだけではなかったらしく冷や汗を出している。
「無いって何が無いんだ?」
樹が問い詰める。
「……陽竜商会で買った物」
焦っていたためぽろりと自白してしまうキスミ。
「……まだ、あるんだ」
なぶらはキスミの返事に呆れていた。
ここで吹雪が数十個のカラフルな石ころを出した。キスミを倒した際に戦利品として回収した物だ。
「……これでありますか。戦利品として回収させて貰ったでありますよ!!」
「何で!?」
信じられないという表情のキスミ。だが、取り返す勇気は無い。
「それでこの石は何だ?」
ダリルが石ころの詳細を問い詰める。
「……地面に打ち付けたら色と同じ花火を散らして弾けて消える」
これまた渋々と話すキスミ。
「……それは危険でありますな!!」
吹雪はそれだけしか言わなかった。返すつもりは一切無い。
事情聴取も終わり、後は城へ攻め込むだけとなった。
「さて、魔王城に行く前にしっかり修行をしておくか」
「はぁぁあ、何でんなこと」
キスミはセリカの発言に思いっきり嫌な顔をした。
「残念だけど、あんたに発言権は無いよ」
ヴァイスが厳しい一言。
「俺も付き合うよ。勇者というものを正確に理解してもらうために」
なぶらもキスミの修行に加わった。
「あたしもその修行とやらに付き合うわよ」
「……大変な事になりそうね」
セレンフィリティとセレアナもキスミの修行に参加。まだ本物をしばき倒していないので。
「私達は城へ乗り込む準備でもしているよ。その際は声をかけてくれ」
現実的な樹はすぐに乗り込めるようにしておく方が吉だろうと考えた。
「甘い物でも食べに行くでございますよ!」
甘い物が好きなジーナは乗り込むためのエネルギー補給をする事を提案。
「こたもたべるー」
コタローはジーナの提案に笑顔。
「ルカ達も付き合うよ」
「怪我をしようが瀕死になろうがすぐに回復させるためにな」
ルカルカとダリルは医療班として付き合う事にした。一応、契約もしているので。
「……瀕死って」
ダリルの不吉な言葉に青い顔になりながらも従う他無かった。
この後、簡単に城への侵入ルートを話した後、一時解散となった。
「準備をして待ってるよ」
「行くか」
北都と白銀はキスミの連行確認後、一度店に戻ってから森の入り口へ向かった。城への侵入ルートは森にある抜け道を使う事になったのでその案内の準備のためだ。
「行ってらっしゃいであります!!」
吹雪は連行されていくキスミを見送った。
「見送ったところで何をするの?」
「勇者の仕事でありますよ!」
コルセアの問いかけにあっさり答えた。
この世界が終わるまでたっぷりと勇者生活を楽しむだけだ。
「我がゴーレムをするのもあとわすかなのだな」
鋼鉄二十二号は小さくつぶやいた。
この後、吹雪達はブリジット自爆計画を知るも再び勇者らしくモンスターを倒したりアイテム回収をしたりしていた。
中には、妙な物もあった。
「大吉でありますよ。何をしてもうまくいくと書いてありますよ!」
吹雪が壷の中から取り出したのは右足用の長靴だった。その長靴の中におみくじ的な事を書いた紙が入っていたのだ。
「もしかしたら隣の壷にもう片方が入っているかも」
コルセアは隣の壷を示した。
「確認するであります!」
吹雪は即確認。
そして、
「入っていたでありますよ。む、今度は大凶であります。何をしてもうまくいかないと書いてありますよ」
コルセアの予想した通りの展開。
「……両方合わせればちょうどいいかも。大吉と大凶で相殺されて」
コルセアは左右揃った長靴を見て一言。
「そうでありますな!」
吹雪は能天気にうなずいた。
「……一体、あの兄弟は何がしたいのかしら」
コルセアは思わずつぶやいていた。そもそも長靴を別々に入れる理由が分からない上におみくじ的な物をつけるのも意味不明だ。面白いというだけでしたのだろうが。
「……確かに」
鋼鉄二十二号もコルセアにうなずいた。
街から少し離れた場所。
「まず、修行の前に勇者としての心構えを語らせて貰うよ」
なぶらの授業が始まった。
「えーーー」
キスミは、あからさまに嫌な顔をする。
「そんな顔をせず、ちとそこに直れ!」
嫌な顔をしたからといって授業をやめるつもりはない。なぶらは座るよう指示する。
「……」
キスミは仕方無くなぶらの前に座った。周囲には殺気立っている人達がいて逆らえないので。
「魔王を倒すべき勇者としてキミの立ち振る舞いは断じて許せないものだよ。そもそも勇者というのは、経験値獲得のためのモンスター虐殺や装備や資金充実の為の民家侵入はまあ、許容されているとしても……」
まず、なぶらは勇者としてのキスミの立ち振る舞いから話し始める。とは言え、現実では民家侵入は許されないのだが。
「まだ終わらないのかー」
始まってすぐ我慢出来ずに体をいごいごさせるキスミ。
「まだ始まったばかりだよ。とにかく魔王討伐と言う最終目標を達成する為に許される事で、つまり魔王を倒さなければ勇者ではないという事だよ」
なぶらは話を続ける。
「……ふぁ」
なぶらの話が眠りの呪文に聞こえ始め、まぶたが重くなるキスミ。
「同じ勇者でも“世界を救った結果勇者と呼ばれた系”と“世界を救う勇者として選ばれた系”の二つに分けられると思うけど、キスミさんの場合は後者の方だね」
勇者の種類を語るなぶら。
ここでとうとうキスミは
「……」
うつらうつらと頭が前後に揺れ始める。
「ちょ、キスミさん、聞いてる?」
なぶらは、話を中断し、必死に呼びかける。
「ほら、起きなさいよ!」
セレンフィリティが銃の柄で頭を小突いた。
「痛いなぁ。長いし、眠いし」
小突かれ、目覚めたキスミは小突かれた頭をさすりながらセレンフィリティを恨めしそうに見た。
「話を続けるよ。特に後者の方は実質まだ何の功績も上げてないんだから人助けをするなり危険なモンスター退治をするなりちゃんとそれなりのイベントをこなして行かないと魔王城へ至る為のイベントは発生しない訳で……」
「おい、起きろ! 寝るには早いぞ」
今度はセリカが声をかけて起こす。
「……あ、まだかぁ。眠い」
起こされたキスミは欠伸をしながら言う。
「特に勇者は魔王を倒さなければならないんだ。魔王の誘いに乗って悪さをするなんて許されないし勇者だけではなく人間も失格だ」
「……へい」
キスミはようやく終わったと安心顔になる。
「キミ達は、他の人に迷惑を掛けている事は分かってるよね」
アゾートがなぶらと交代して説教を始めた。
「……こうなったのは予想外で」
キスミが言い訳を始める。ヒスミがやり過ぎたせいだと責任転嫁している。止めなかった自分にも責任があるというのに。
「今のこの状況でその言葉は意味が無いよ。分かってる? そもそもアゾートさんが言いたいのは常日頃の事だよ。悪戯は仕掛ける本人以外に迷惑掛からない程度にしねぇとな」
ヴァイスがアゾートの手伝いをする。
「そんなの悪戯じゃねーじゃん」
キスミが精一杯の反論をする。他人の反応を見るのが面白いからやっているのにそれがだめと言われるとつまらない以外無い。
「……空から槍が降ってくる悪戯とチョコレートやキャンディーが降って来る悪戯のどちらがマシか分かるよな」
ヴァイスは話を少し変えた。悪戯をやめるのが嫌なら楽しい悪戯と迷惑な悪戯を認識させようと。
「チョコレートはいいかも」
チョコレートが好きなルカルカが一番に反応。
「……両方面白いじゃん。その降って来る槍を痛くない物にしたらいいし」
生来の悪戯脳のキスミはあっさりと答える。
「……キミは。そんな事だと先々大変な事になるよ」
アゾートはすっかり呆れている。
「……それは、分からなくもないような」
キスミは小さく言う。これまでに散々説教をされているので頭では分かっているがどうにも我慢が出来ないのだ。
「……セリカ」
「あぁ、交代だ」
ここでヴァイスからセリカに交代し、キスミの勇者修行が始まった。
「えーーー」
キスミは、無駄だと分かりながらも思いっきり嫌な顔をして反抗する。
「始めるぞ」
セリカはキスミの発言を無視し、修行を始めた。
鬼教官セリカは徹底敵にキスミをしごく。怪我や瀕死になる事もしばしばだったが、その度に医療班であるルカルカとダリルの『命のうねり』や『命の息吹』などで即座に治療をして修行を滞りなく遂行させる。
修行に時々セレンフィリティが参加し、これまたありったけの力で相手をしていた。
修行は数年分を数時間で終わらせたため終わった頃にはキスミはかなりぐったりとしていた。そのぐったりのところで総仕上げとしてヴァイスが『ヒプノシス』を使い、眠らせなぶらの協力の下睡眠学習で勇者の使命を刷り込んだ。
修行をしている間、ヴァイスは魔王軍の動向を調べ、ブリジット自爆計画を知るもキスミには黙っておくよう口止めされた。セレアナやアゾート、なぶらはキスミが逃亡しないよう監視していた。
修行終了後、ヴァイス、セリカ、アゾートは去り、なぶらは町民の避難誘導に向かった。
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