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リアクション
魔王城、庭。
「……本当に魔王に会わなくて良かったんですか」
エオリアは自分達と一緒に残っているローズとシンに訊ねた。オデットはまっすぐに魔王の元に行った。門番がいた正門からの侵入は、裕輝が与えた毒草を粉にした物によってスムーズだった。
もし裕輝の手助けが無ければ、正門から庭の手入れや踊りや詩の披露、布教をしに来たといって潜り込む必要は無かった。
カンナは
「詩を書くためにこの目で見なければならない」
と言って詩を書くために戦場を駆け回っている。
「魔王に会うのも大切ですが、この庭を見捨てるわけにはいきません」
ローズはシスターらしい笑みを浮かべながら答えた。
「まぁ、人手はあった方がいいだろう。ここも爆発に巻き込まれるらしいが」
シンは植え替えのために持って来た植物に話しかけているエースを見ながら言葉を洩らした。
「そうですけど、エースがあの通りですから」
エオリアはちらりとエースを見ながら言った。実はオデット達と合流して城に向かっていた時に計画を知ったのだが、エースは花達と会話をしていて耳に入っていなかったのだ。
ここまで来たのなら黙っておいた方がいいかもしれないとエオリアは思い始めていた。
植物を愛するエースに知られたら店全ての植物を避難させると言い出しかねない。城への侵入準備もかなりの時間がかかったのだから。
「あんなに綺麗に咲いていた花達が跡形もなく」
お喋りを終えたエースは、花達の姿が消えた庭を見渡した。
「……エース、植え替えは庭を整えてからにしましょう」
「……そうだね」
エオリアとエースは花の植え替えの準備を始める。
その時、
「ここにいたか、シスターに神父!」
ギャドルが登場した。
「また、あなたですか」
「起きたのか。来るなら来いや!」
ローズとシンは戦闘する気満々。
「戦闘は他でやってくれよ」
エースは植物が巻き込まれる事に難色を示す。
「何だ庭師か」
ギャドルはちらりとエースとエオリアを見た。
「そうだ庭師さ。何で彼女達をこんな酷い目に遭わせたんだ。美しく一生懸命に命を輝かせていたというのに」
エースは怒りをギャドルにぶつけた。
「知らんな。戦うというのなら来い。二人だろうが三人だろうが蹴散らしてくれる」
ギャドルはそう言い捨て構えた。
「……そこの者、魔王軍か。魔王軍なら来い」
ローズは第七式の肩に乗って思索している朱鷺を挑発した。
「まだまだ朱鷺の出番はまだですから」
朱鷺はさらりと挑発をかわし、見学としゃれこんでいる。『記憶術』であちらこちらで繰り広げられる戦闘を記憶し、八卦術の研究に役立てようとしている最中。
「悔い改めさせてやるぞ、コラァァ!」
ローズはそう言い、銃を朱鷺目がけて連続で発砲。
「……仕方ありませんね。八卦術の素晴らしさを教えてあげましょう」
おちおち思索も出来ない状況に朱鷺は戦闘に参加する。
「朱鷺は陰陽師改め、白銀の八卦術師。八卦の理を学びたい者からかかってきなさい」
朱鷺は戦闘前に『名乗り』と『警告』を使った。
「来るなら来い。シスター九条ジェライザ・ローズが人々の信仰のため相手だ」
ローズも名乗った。
「……愚かですね。元陰陽師相手に名乗ったら、呪詛られますよ」
朱鷺は薄く笑い、ローズに『呪詛』を使った。
「……くっ」
ローズは呪いにかかり病床に伏せなければならないほど弱るが、常備している薬草を食べ、『命のうねり』『リジェネレーション』を使い持ち直し、戦い続けた。朱鷺は八卦術を使って相手を務める。
「オラァァ!」
シンはギャドル相手に戦っていた。
ローズもシンも教会での戦闘と同じように特攻戦法で挑んでいた。
「……いたな。戦闘か。今は止められそうにねぇな」
ギャドルの様子を見に来たウォーレンは空から確認。
無事と共に間に割っては入れない事を知り、街の方に戻ってルファンに報告。
「……仕方無いのぅ。戦闘をしているのであれば、無理に止める訳にもいかぬし。自爆についても知っておるじゃろうから心配ないとは思うが」
ルファンはどうしたものかと考えた。避難誘導は未だ終わっていない。ギャドルがいる場所には戦える仲間もいる。
「ダーリン、レオ、早くみんなを避難させないと」
イリアは二人を急かした。
「おう」
「そうじゃな。ギャドルの事は心配なかろう。皆がおるからのぅ」
ウォーレンとルファンは避難誘導を再開させた。
ルファンが信じている通り心配は無かった。
避難の方は、自警団のおかげで無事終わり、三人も避難を終え脱出の時を待つだけとなった。
庭が戦場となっている間。
「連れて来た花達を安全な場所に避難させるよ。俺がついているから怖がらなくていいからね」
エースは戦闘には加わらず、連れて来た植物達の安全確保に勤しみながら話しかける。
「分かりました」
エオリアも当然手伝う。
「神父が爆発に巻き込まれるとか言っていたようだけど」
エースはふとシンとエオリアが話していた事を思い出し、多少嫌な予感を抱えながら訊ねた。
「……聞いていましたか」
植物の植え替えの準備に専念していたかと思ったら耳に入っていたようだ。
「……エース、実は」
エオリアは仕方無く事情を話した。
「自爆だって。それでは俺の帰りを待っている彼女達はどうなるんだ」
エースは自分の帰りを信じて待っている植物達の事を思い出していた。ここで庭を整えている場合ではない。
「……」
エオリアは沈黙で答えた。
「こんな所にいる場合じゃ無いよ。早く店に戻って彼女達を避難させなければ」
エースは大急ぎで荷物をまとめる。こうなる事が分かっていたからこそエースが知らないと知った時、そのままにしていたのだが。
「……分かりました。急ぎましょう」
止めても無駄だろうと悟ったエオリアは覚悟を決めエースの行動に従った。
二人は急いで城下町の自店に戻った。
庭師達が去っても戦闘は続いていた。
「……ここまでですね」
朱鷺は避難するべき時が来た事を知った。
「行く也」
第七式は朱鷺を肩に乗せ安全な場所に移動を始めた。
「避難だ」
「行きますよ」
シンの言葉にローズ達も安全な場所へと移動を始めた。
「待て」
ギャドルはローズとシンを追いかける。自爆については知っているがそれよりも決着をつけたいからだ。
とにかく五人は何とか避難した。
花屋。
「急いでくれよ。時間は少ないんだからね」
エースは両手に抱えられるだけの植物を抱え、エオリアを急かす。
城から飛んで帰るなり店頭の植物の避難を始めた。
「本当に全部避難させるんですか」
エオリアも両手に植物を抱えている。どう見ても二人では避難しきれないほどの量がまだ残っていた。下手をしたら植物を避難させている最中に確実に爆発に巻き込まれてしまうおそれもある。あえてエースに知らせなかったというのに。
「それは愚問だよ」
植物を愛するエースにとって聞く必要の無い質問。植物を愛する心に現実も仮想世界も関係無い。
「俺も手伝うよ」
住民の避難誘導をしていたなぶらが声をかけて来た。勇者を目指す者として困っている人は放っておけない。
「それは助かるよ。丁寧に優しく運んでくれ」
エースは手助けを歓迎しつつきっちり植物の扱いについて注意をする。
「……分かった」
なぶらはそう言うなり近くの台車に載せられるだけの植物を載せていく。
「助かります」
エオリアも礼を言い、避難場所へと植物を運んで行く。
三人で何十回と往復する事で無事全ての植物を避難させる事が出来た。
「何とか間に合いましたね」
両手に植物を抱えながら空っぽになった店を見回した。
「最後は俺達が避難するだけだ」
そう言うエースの両手にも植物があった。
「急ごう」
なぶらも両手に植物を抱えていた。
三人は避難場所へと向かった。