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【ぷりかる】打倒! 誘拐犯

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【ぷりかる】打倒! 誘拐犯

リアクション


第三章

「単に身代金目的で誘拐するなら一回でいいし、今までの事件全部が未遂であり連続して起きているって考えると、何か別の目的があるような気がするのよね」
「ちょっと不自然なことが多いよね」
 ソフィアたちとは別に、日向 茜(ひなた・あかね)アレックス・ヘヴィガード(あれっくす・へう゛ぃがーど)も犯人調査に乗り出していた。
「ワザと掴まってみるのが手っ取り早いかしら」
「茜、その恰好で行ったら間違いなく犯人にスルーされると思うよ」
「まあ、どうしたって傭兵だからねえ。百合園の制服を着て髪型と口調変えれば大丈夫かな」
「うん、あと少しゆっくり歩くようにすれば大丈夫じゃないかな?」
 囮というよりは、いっそ掴まってしまって相手のアジトに侵入する作戦を立てる。
 そのまま軽く変装すると、夕方の街を一人歩きはじめる。
 少しするとあっという間に仮面の男たちに囲まれた。
 静かに怯えた芝居をする茜。
 数分後、そこにはもう誰の姿もなかった。

「やられた、か……」
 ソフィアが悔しげに拳を震わせながら下を向く。
「そんなに力を入れると、手も唇も傷がついてしまうよ」
 柔らかな空気とともにエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がソフィアにそっと近寄ると純白と淡いピンクの薔薇を何本か束ねたプチブーケを渡す。
「あ、ああ、すまない。ありがとう」
「どんな動機があろうとも、不埒な輩は成敗して当然だと思うわ」
 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)の言葉にソフィアは頷く。
「犯人から連絡は?」
「今のところどこにも入っていないらしい」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)にソフィアが答える。
「現時点では目的も分からず、か」
「一人誘拐した上で、さらに動くか否かも不明、だな」
 北都の言葉に白砂 司(しらすな・つかさ)も加わる。
「誘拐するという事は何か目的があってそのリスクを犯すと言う事だろ? でもこれまではお嬢さん達が悲鳴をあげただけであきらめてる。仮面つけてたりとのその見た目とのアンバランスさに違和感が強い。試してみる価値はあるんじゃないかな?」
「よし……悩んでいる時間もない。動こう。もう1度囮作戦を実行する。ただし今回は犯人が現れたらその場で捕えるんだ。各囮役も攻撃に転じてもらって構わない」
 ソフィアの言葉に皆が頷く。
「囮役の子たちそれぞれに隠密攻撃班が付いたほうが安全だよね?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の提案にソフィアは頷く。
「狙われる基準が曖昧な以上、囮全員が巻き込まれる可能性があると想定すべきだからな」
「アジトも探るんだっけ?」
「ああ。今回の作戦では基本的に犯人は全員その場で倒しつつ、数人だけはアジトに戻らせなければならない」
「じゃあ、適宜情報交換しつつの対応にはなるけど。逃げ足が速いらしいから、完全に全員とっ捕まえて良い場合は取り囲んで、せーのって行きたいかな。大きな音には誰しも一瞬注意が削がれるから、信号弾を撃つ音を合図にしたらどうかしら?」
「そうだな。状況で判断していこう。皆、厳しい作戦だが、よろしく頼む」
「おー!」
 頭を下げたソフィアに揃って返事をすると、皆作戦決行のため散っていった。

「やほ、ろざりん。今日はパワードスーツじゃないんだ? 気分が良いから手伝うよ。あー、いいよいいよ、副団長の仕事に、校長とのデート……忙しいんでしょ? たまには楽してよ」
「ロザリンド、今日は熱血? どのような気概だって、このよが地獄であることは変わりないのに、きゃはは」
 見回りに出ていたロザリンドと会った牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)はロザリンドの言葉を手で遮って、聞かないまま話を切り上げる。
 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)は魔鎧化してラズンに装備されていた。
「行けそうか?」
「準備万端です。ああ、アジトにさらわれるのは私がやりますのでご安心を」
「助かる。気を付けてくれ」
 ソフィアの言葉に頷くとラズンを装備したアルコリアは街中をふらふらと歩き始めた。

「やはり強そうな雰囲気が出ちゃうアルトリアちゃんも囮には不向きですからねぇ。それなら囮は私が引き受けて、おびき出した犯人を叩いてもらった方がいいですぅ」
「ルーシェリア殿、さっさと片付けてしまいましょう」
「危険な役回りだが、よろしく頼む」
 佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)にソフィアが話しかける。
「ああ、ソフィア殿。ソフィア殿の噂は女学院内でかねがね聞いております。こんな時でなければ剣で一勝負というのも面白いところではあるのですが、とりあえずこの事件の解決が先ですね」
「誘拐犯をこのままにしておくわけにはいきませんからねぇ」
「そうだな」
「こうお人よしに見えてもルーシェリア殿の本質は……」
「……アルトリアちゃん、何を言おうとしてるですかねぇ?」
「と、自分としたことが余計なことを言いました」
 何かを言いかけたアルトリアだったが、ルーシェリアの笑顔に言葉を切る。
「? そうか? では、頼むぞ」
 ルーシェリアが一人で街中へ出ると、アルトリアは少し距離を保ちながらルーシェリアに続いた。

「誘拐犯とかああいう連中は、本能的にお金の匂いに敏感なんだから、本物のお嬢様じゃなきゃ歯牙にもかからないわ。あたし、こう見えても「実家はかなりの大金持ち」なお嬢様なのよ。本当のお嬢様の立ち居振る舞いってモノを見せ付けてあげるわ!」
「なんと言っても私は846プロに所属する正真正銘の現役アイドル、「魔女っ子アイドル あすにゃん」なんだから。制服を着ていても、アイドルだって自然と分かっちゃう。そしたらきっと「芸能人=お金持ち」だと思って襲ってくるよ」
 明るい藤林 エリス(ふじばやし・えりす)アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)のテンションに、張りつめていたソフィアが少し微笑む。
「頼もしいな」
 ソフィアの言葉に二人が同時に声を上げた。
「当然だわ!」
「ぶっ潰してあげないとね!」
 百合園の制服をお嬢様風に着こなした二人は、その華やかなオーラも相まって、かなり目を引く。
 そのまま二人で喋りながら、エリスとアスカも街へ出た。
  
「何だかなぁ……どうも子どもが遊んでるみたいなんだよな。失敗しながらも一時沈黙できるのは金に困ってるなど、やむにやまれぬ事情があるとも思えないし。何よりすぐに逃げ出すのは、覚悟のなさを表しているような気がするんだが」
「確かに妙な点が多すぎるんだ。だからこそ、目的も分からず先日誘拐された令嬢の安否が……」
「退屈を紛らわす遊びか何かのつもりなら、大怪我をする前に、分別が付くようになると良かったんだが。もう、遅いな」
「ああ」
 苦々しげに呟く源 鉄心(みなもと・てっしん)にソフィアが顔を伏せて答える。
「頼まれてやるからには、頑張りますの!」
「私はイコナちゃんの護衛をします」
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)ティー・ティー(てぃー・てぃー)の言葉にソフィアが頷く。
「イコナをさらわせて、アジトまで追うつもりだ」
「すまないな」
「だ、大丈夫ですわ!」
 イコナは不安を必死に隠しつつ、強く頷いた。

「私がおてんばお嬢様の“フリ”をしつつ路地裏に迷い込めば、この私の猫的魅力に誘拐犯が吸い寄せられるという寸法ですねー」
「せっかくお嬢様のお付きという設定なのだし、俺もスーツでバシっと決めておこう。たまには悪くないな」
「槍のない司君は単なる不機嫌な荷物持ちなので頼りになりませんけど」
「まさかスーツ姿で槍を持っているわけにもいかないだろう」
 豪華なドレスに身を包んだサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)とスーツ姿の司が、計画通り路地裏をうろうろ歩き回る。
 サクラコが動きその後ろをついていく司の姿は、おてんばな令嬢に連れまわされる堅物という設定に見事に沿っていた。
 何かの際にすぐ取り出せるよう、司はさりげなく路地裏に槍を隠しておくことも忘れない。

「このあたりで良いかな?」
「ああ、外からは見えにくいし、飛び出しやすいし良いと思うぜ」
 万が一犯人に見つかっても怪しまれないよう、北都はメイド服姿、白銀 昶(しろがね・あきら)は狼姿で囮が現れる場所で待機を開始する。
「ああ、囮チームが動き始めたな」
 昶が気配を察知し北都に伝える。
「犯人は小さな音にも反応するから、このまま動かないようにするよ」
「分かった」

「じゃあ、ここの連絡は常にオンラインにしたまま、囮の女性たちとの連絡は地区毎でいいかな? ちょうどここが切り替わりだ」
「わかったわ! 任せて」
 エースとリリアは街の地図を覗きこむと最終確認をする。
 執事風のエースと女性騎士風のリリアは、バラバラに動き回り、囮チームの動きを随時他チームに伝えることになっていた。