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シャンバラの宅配ピザ事情

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シャンバラの宅配ピザ事情

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◆ 空を越え森を越え ◆

 風を切り、空飛ぶ箒シュトラウスが急旋回を行う。その傍らを魔導弾が掠めていった。
「大丈夫だった!?」
 シュトラウスの姿勢を制御しつつ、杜守 三月(ともり・みつき)は同乗者たちに声をかける。
「うん、私は平気! 香菜ちゃんは?」
杜守 柚(ともり・ゆず)は後ろに座る夏來 香菜(なつき・かな)を見遣った。注文を受けヘリファルテで出発しようとした香菜に、柚が「シュトラウスを使って一緒に行こう」と提案したのだ。
「ええ、私も大丈夫。柚の言う通り、シュトラウスで来て正解だったわね」
「えへへ、届け先が“空の上”なんて言われちゃったから、私と三月ちゃんと香菜ちゃんの3人で、ちょうど良いと思って。まさか本当に空賊が出るなんて思わなかったけど……」
 空路はツァンダ郊外への配達に適した方法である。だがその分、(依頼主が忠告していたように)配達を狙う輩も少しずつ増えているのだ。通常の4倍近いスピードが出るシュトラウスでなければ、今頃ピザを守りながら空戦という状況に陥っていただろう。
「店長さんに沿岸部に抜ける近道を教えて貰ってるんです。三月ちゃん、このまま行けそうですか?」
 背後から放たれる魔法やワイヤーガンを避けつつ、三月は後ろを振り返って笑う。
「うん、大丈夫! 柚と香菜はしっかり掴まってピザを守ってて。もう少しスピード上げるから!」
「ありがとう、柚、三月。……私が一人で出ていたら、危なかったね」
責任感の強い香菜である。柚が(温厚な彼女にしては珍しく)少し強く主張しなければ、自分の担当だからと無理をしてでも出発していただろう。
「そんな顔しちゃダメですよ、香菜ちゃん。“空の上”の次は副会長さんの配達もあるんですから、笑顔です!」
「……ええ。そうね、柚。助かったわ」
そんな二人の遣り取りを微笑ましげに聞きつつ、三月はスピードを上げる。最初の配達先、ツァンダ沿岸部はもう目と鼻の先だ。

 *  *  *

 イルミンスールの森の中。
「はぅ〜、こ、こうなったら!」
 ピザの臭いを嗅ぎ付けて集まってきた動物たち。そこから逃れるべく、魔法少女ポラリス――遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)が空飛ぶ箒ミランを取り出して飛び立とうとした時である。
「ちょっと待って、寿子さん!」
 土煙をあげて飛び込んできた影が、寿子とライオンの間に割って入った。
「はぅ〜!? 詩穂ちゃん!?」
 機晶マウンテンバイクに跨った騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、ヒプノシスの能力を発動させる。すると、周囲の動物たちは皆うつらうつらと瞼を閉じ、その場で眠り込んでしまった。
「うん、これで大丈夫。寿子さん、怪我はない?」
「う、うん……ありがとう」
 心配そうな詩穂に、寿子は変身を解除して小さくお礼を言う。きっと、「またドジで人に迷惑をかけちゃった」と思っているのだろう。従者としての経験を積んでいる詩穂は、寿子の表情からそれを読み取っていた。
「寿子さん、お店の店員は仲間だよっ! だから、そんな顔しないで一緒に頑張ろう?」
「あぁ、詩穂の言う通りだ」
「はぅ〜!?」
 ガサリ、と枝を揺らして出て来たのは、忍者装束の青年紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。超感覚を使用しているため、獣耳と尻尾も生えている。葦原店からのヘルプでやってきた彼は、詩穂ら他の仲間と共に寿子の手伝いにやってきたのである。
「おっと、驚かせてゴメン。けど、この辺りは結構入り組んでるし、初めて来て迷わず配達先に辿り着くなんて、ほとんど無理だ。他の配達先だって大図書館の迷宮とか、誰かと協力しなきゃ行けない場所ばかりだしな。だから、俺たちと寿子の力を合せて配達を成功させようってことさ」
 唯斗がビッと立てた親指の先には、上空で手を振る他の仲間の姿も見えた。
「……うん、そうだね。ごめんなさい、じゃなくて、ありがとう、だね!」
笑顔を取り戻した寿子に、詩穂はマウンテンバイクの後ろに乗るよう促す。コンパスに脚力強化シューズなど、準備は万端だ。
「よし、じゃあ出発ですっ! 唯斗さん、詩穂の運転について来れますか?」
「それくらいニンジャ脚力なら余裕さ。行くなら俺が先に行くよ。何だか知らないが、この先はトラップだらけだぞ。スパイクボールに、落とし穴に……俺たちはベトコンのアジトにでも配達に行くのか?」
 トラップ、と聞いて流石の詩穂の顔も曇る。
「獣除けを解除し忘れているのかな。……ぅーん、考えていても仕方ないです。ここは強行突破でっ☆」
「オーケイ、じゃあ空からもサポートを頼もう。罠の位置なら俺が教えながら進むさ。じゃあ、行こうか!」
「うんっ、絶対に時間に間に合わせようねっ!」
 寿子の言葉に、猛然とペダルを踏む詩穂。そして唯斗も木々を足場に走り始める。果たして配達は間に合うのだろうか!?