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シャンバラの宅配ピザ事情

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シャンバラの宅配ピザ事情

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◆ お届け先はどちらですか? ◆

「もしもし、シャンバラピザ・ツァンダ店さん?」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)は、電話に出た店員へ、やや躊躇いがちに切り出した。
「ピザの宅配を頼みたいのだけど……その、ちょっと場所が特殊で……え、先にメニューの注文なの? ちょっと待ってね」
 携帯の受話口を押さえ、リネンは後ろを振り向く。そこには他の空賊団員と共に、あれがいい、これが美味そう、と話しているフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の姿があった。
「ちょっと、注文決ったんじゃなかったの!?」
「決ってるって! デラックスとシーフードとテリヤキ! もちろん全部Lサイズ!」
 注文内容を店員に伝えるリネンを見つつ、フェイミィは(そして他の団員たちも)そわそわと落ち着かない様子である。シャンバラに来てそれなりの時間を過ごしているものの、彼女はまだ地球文化には疎いのだ。風に舞い上がったチラシを持ってきてリネンに「ピザって何だ? 食べてみてぇ!」とねだったのはフェイミィである。
「ピザか〜、楽しみだなぁ! 早く来ないかなぁ……!」
「(もう、はしゃいじゃって)えぇと、それで配達先なんだけど……」
 落ち着きのないフェイミィを視界の端に捉えつつ、リネン少し息を止める。そう、ここが最大の難関なのである。
「“『シャーウッドの森』空賊団”旗艦、大型飛空艇アイランド・イーリ。住所は……現在、ツァンダ沿岸に向けて航行中……なんだけど! 無理だったら言ってね? ……え、配達出来る?」
 あっさりと「承りました」と返され、リネンはやや間の抜けた声を出す。
「だ、大丈夫なら航路情報を転送するわ。最近、宅配狙いのコスい空賊も増えてるから気をつけてね。もし何かあったら、私たちに連絡くれれば助けに行くから」
 そう言って電話を切る。どうやらリネンにとっては落ち着かない30分になりそうだ。

 *  *  *

 ところ変わって、イルミンスールの森の奥深く。一軒の小屋に三人の男達が集まっていた。
 ここはシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)の暮らす小屋である。たびたび仲間が集まって飲み会を開いているのだが、今回は少し様子が違った。
「もしもし、シャンバラピザ・ザンスカール店かな?」
携帯で話しているのは司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)である。その口もとは、何やら黒い笑みが浮かんでいる。
「ピザの注文をしたいのだが……そうだな、デラックスピザをLで1つ、オプションはAセット。追加でビールとワインを3本ずつ頂こう。場所は……」
 キラン、と司馬懿の目が光る。
「イルミンスールの森の、少し奥の方なのだ。座標を転送しておくから、よろしく頼むよ」
(フフフ、配達時間30分を越せば割引が発生する! そしてこの場所はランドマークの少ない辺鄙な場所! 不幸な偶然が発生して割引が発生する可能性は、大ッ!)
 ぬはははー、と笑う司馬懿を、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)はやや呆れ顔で見上げていた。
「司馬先生もお人が悪い。こんな場所に初見で来られる人間は、なかなか居ませんよ」
「そう言うアルツール君は鏡を見た方が良い。“興味深い”と顔に書いてあるぞ」
「……おや、そうですか。私としたことが……」
 むむ、と顔に手を当てるアルツール。その傍らで、既にシグルスは地酒を口にしていた。ツマミは燻製にした獣肉。いつもはこの組み合わせが飲み会のラインナップである。
「……そういえばシグルズ様、暫く前に雑誌を見ながら『この「ベトコン」という連中の罠、獣相手に丁度良さそうだなぁ。今度仕掛けてみるか』とか言っていませんでしたか? 落とし穴とかスパイクボールとか仕掛けていましたよね?」
 アルスールの言葉に、シグルズの手がピタリと止まる。
「……そういえば外していなかったな。外しておいた方が良かったかね?」
「……まぁ、上手く罠の無いところを辿ってきてくれるでしょう」
「うむ。然り、然り」
携帯を仕舞った司馬懿も酌の輪に加わる。
「まー、こんな所の配達を任されるんだから、きっと百戦錬磨の強者だろう。獣相手程度の罠なら見破れるだろうし、落とし穴に落ちたくらいなら、きっとへーきさ」
「実際、初見の30分で此処まで来られるというなら、それはそれで大したもの。酒の肴には丁度良いではないか、シグルズ君、アルスール君」
「確かに。さて、我々はのんびり酒でも飲んで待ちましょう」
 そして今更ながらに「「「乾杯!」」」と杯を打ち合わせる3人。呑気な大人達の無茶振りは、どんな結果になることやら……。