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【ぷりかる】コンロンに潜む闇を払え

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【ぷりかる】コンロンに潜む闇を払え

リアクション


プロローグ

「玄白様、屋敷に侵入者が現れました」
 地下で働く女性たちを眺めていた玄白は声をかけてきた紅玉に視線を向ける。
「やっぱり来たか……楊霞の方はどうだい?」
「ええ……順調です」
 紅玉はニイッと口角を上げて微笑むと、後ろに控えていた楊霞を玄白の前に晒す。
 楊霞は力なく俯いており、全身からは覇気というものを感じられなかった。
「まだ私の指示が無いと何もできませんが、今はこの状態で十分かと」
「ま……来てしまったものは仕方ない……ところで、そこの御仁はどなたかな?」
 玄白は楊霞から、その後ろに控えていた魔法 博士(まほう・はかせ)に視線を向ける。
「今回の件で彼らに恨みがあるから、玄白様に協力したいとのことで連れてきました」
「お目にかかれて光栄です。是非、彼らの始末を私にも一任していただきたい」
 博士は頭を下げる。
「ふ〜ん……彼らに恨みがあるから協力したい……か」
 玄白はニコニコしながら、腰から提げていた刀を抜き放ち、
「僕は、嘘つきが嫌いだよ」
 博士を袈裟斬りにした。
「……っ!?」
 博士は振り下ろされる瞬間飛び退って回避したが肩から衣類が破けてしまった。
「な、なぜ……」
「なんでだって? 幻影に話をさせて、コソコソ隠れているような人間は信用できないだろう?」
「……なるほど、少し甘く見すぎましたか……」
 博士が呟くと、その身体はぐにゃりと歪んで霧のように消えてしまう。
「……さて、いよいよここも危なくなってきた。紅玉、後はよろしくお願いしますよ?」
「かしこまりました」
 紅玉は頭を下げると、踵を返して地上へと向かった。


「ふぅ……失敗か……」
 博士の変装を解いた四代目 二十面相(よんだいめ・にじゅうめんそう)は屋敷の外の庭に隠れながらため息をつく。
「次の手はいかがなさいますか?」
 隣で控えていた前田 利家(まえだ・としいえ)が訊ねる。
「それなら考えてあるよ、さっき逃げる途中で忍者の装束を盗んでおいたから利家くんは変装して忍者たちの中に紛れ込んでほしい。そこから僕のフォローだ」
「御意」
 利家は装束を持って二十面相から離れ、
「さてと、僕もみんなと同じように潜入するかな」
 二十面相は蒼空学園の制服に着替え髪を結んで、遠藤平吉に変装すると屋敷の中に再び忍び込んだ。


一章 強行進軍


  鈍い鉛色の空の下、玄白の屋敷の屋外に歌が響く。
 郊外の静けさに綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の歌声はやけに響き、
「雑兵ばかりの私兵団〜♪ 数だけ多い烏合の衆〜♪ 敵が責めれば怖じ気づく、タダ飯喰らいの穀潰し〜♪」
 歌詞のフレーズは兵士たちを激昂させた。
「んだとこの小娘がぁ! 本当に雑兵しかいねえか、その身体に確かめさせてやるぜ!」
 一人が抜刀すると続くように他の兵士も抜刀してさゆみに襲いかかる。
「そうはさせません!」
 隣で歌を聞いていたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は襲いかかる兵士たちに向かって光術を放ち、強い光りが屋敷の外を閃光の白で塗りつぶす。
「今のうちに侵入して距離を離しましょう」
「うん、今回の私たちの仕事は囮だからね」
 さゆみは目を眩ませて、その場で固まっている兵士たちの横をすり抜けて屋敷の玄関に手をかける。
「ほら、こんな小娘に大の大人が束になって足下掬われるなんて、本当に雑兵の集まりなのかな? おじさんたち、生きてる価値あるの?」
 さゆみが嘲笑するように口元を隠して静かに笑うと、兵士たちは揃って顔を真っ赤にしていく。
「上等だああああああああああああああああ! 野郎ども! 両目潰れても構わないつもりであの女の皮剥いでやれ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 雄たけびをあげる兵士を見て、さゆみとアデリーヌは屋敷の中に入る。
「それじゃあ、逃げよう! アデリーヌ、周囲の警戒は任せるわ!」
「お任せください!」
 後ろから迫る兵士たちを警戒しながら、アデリーヌは神の目を使って周囲を警戒し始めた。
 兵士たちの怒りは収まるところをしらず、怒号は屋敷中に響き渡ったが後列にいた兵士たちは違和感を覚えていた。

 気がつくと、自分の背後から聞こえていた兵士の声が聞こえなくなっていたのだ。
 周りの怒号と動く度に擦れる鎧の音で気になるほどでは無かったが、兵士の一人がふと後ろを振り向くと──ホッケーマスクの怪人、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が迫っていた。
 頭上にはヘッドレスを身につけ、ズボンとジャングルブーツの上にメイド服を身に纏った、まさしく怪しい人と書いて怪人だった。
「う、うわああああああああああああああああああああああああ!」
 兵士は思わず悲鳴を上げるが、
「ふうぅんぬぁ!」
 甚五郎が兵士の股の間に腕を突っ込み、豪快に持ちあげると窓の外に放り出した。
 ガラスが打ち破られ、盛大に音を立てると怒りに身を任せていた兵士たちも一斉に後ろを振り返る。
「な、なんだてめえ!」
「わしはメイドじゃ」
「そんなホラームービーくさいメイドがいるかこの変態が!」
 兵士が甚五郎に殴り掛かると、
「そうはさせませんよ!」
 兵士の拳は甚五郎の前に割って入ったホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)によって弾かれてしまう。
「ブリジットさん、今です!」
 ホリィが窓の外に声をかけると、外には飛行して屋敷に向かって六連ミサイルポッドを構えているブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)がおり、
「了解、発射します」
 淡々と命令を受諾して、六連ミサイルポッドを屋敷に向かって容赦なくぶっ放した!
「ばっ……! てめえら対ショック姿勢!」
 兵士の一人が号令を上げると兵士たちは慌てて持っていた盾を構えてしゃがみ込み、それと同時にミサイルの爆撃が屋敷の壁を抉った。爆炎が上がり、屋敷の一角から煙が立ち上る。
「くそ……! 滅茶苦茶しやがって!」
「所詮敵の陣地じゃ、いくら壊しても非難される謂われはないのぅ」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は言いながら盾を構えていた兵士たちに向かって、その身を蝕む妄執を喰らわせる。
「ぐ………あああああああ!」
 兵士の一人が悲鳴を上げて盾を落として頭を抱え始める。
「ブリジット、どんどんミサイルを撃つがよい。わらわたち以外の場所も穴だらけにしてしまえ」
「了解です、発射します」
 ブリジットは小さく頷くと再びミサイルポッドをデタラメに射出し、屋敷や地面を穿つ。
「ククク……このままだと屋敷が骨組みだけになるかもしれんな……」
「て、てめえらあああああああ!」
 激昂した兵士が不敵に笑っている甚五郎に向かって剣を振り下ろすが、
「だからさせませんって!」
 ホリィは再び剣を蹴り上げ、
「隙有りじゃ!」
 羽純はがら空きになった胴に我は射す光の閃刃を放ち、手の平から光りの刃が伸び、兵士の鎧を貫いた!
「ぐぁ……!」
 兵士は力なく倒れ込み、甚五郎はそれを見下ろしながらクククと楽しそうに笑っていた。
「さて……次は誰が犠牲になるかのぅ?」
 甚五郎はショック姿勢から立ち直った兵士たちに目を向ける。
 ホッケーマスクから嬉々として瞳を光らせる甚五郎の後ろには同じく目を爛々と光らせているホリィと羽純の姿があった。
「ひ……! ば、化け物! こ、こっちに来るな!」
 兵士たちは顔を青ざめさせて、甚五郎たちから離れるが、
「なんだか……悪いことしてる気分になりますね」
「最初に悪いことをしたのは向こうだから、おあいこってことでいいんじゃないかな?」
 逃げた先には、先程まで自分たちが追っていた、さゆみたちの姿があった。
「く、くそ! 逃げてたのはこれを狙ってたからかよ!」
「まあ、偶然なんですけど……結果オーライですね」
「そうそう。それじゃあ……兵士さんにはしばらく寝ててもらおうかな」
 そう言ってさゆみはサンダーブラストを放ち、アデリーヌはブリジットが風穴を開けた天井から天のいかづちで雷を落とした。
「……っ!!??!」
 二つの異なる電流が兵士たちの身体を貫き、兵士たちは背筋を一瞬だけ伸ばすとそのまま床に倒れ込んでしまう。
「ご苦労じゃったのぅ二人とも」
 甚五郎は労いの言葉を投げかけながら二人に近づき、二人は思わず後ずさり。
「あ、ありがとうございます……それで、次はどうしますか?」
「決まっているじゃろう。建物を破壊しながら兵士たちを殲滅する……今回は全員気絶させてしまったが次は楊霞の場所を訊くために尋問せねばならぬしのぅ……ククク!」
 甚五郎は喉を鳴らすように笑うと兵士たちを踏みつけながら屋敷の奥へと向かう。
「なんだかどっちが悪者か分からなくなってきたような……」
 さゆみは苦笑しながら、甚五郎たちの後を追った。