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リアクション
■幕間:暴走した機械
硝煙が風に撒かれて消えていく。
煙の向こう側に見えた人物は高崎 トメ(たかさき・とめ)だ。
構えていた銃を担ぎ直すと後ろで一連の様子を眺めていた高崎 朋美(たかさき・ともみ)に向かって手を振った。
「お見事」
「止めるから、トメどす」
ふっ、と優しい笑みを浮かべた。
「ごめんね! まさかあんなに脆いとは思ってなくてさ」
サビクが三人の元に駆け寄ってきた。
申し訳なさそうに頭を下げる。
「幸い怪我人も出なかったもの。良かったじゃない」
「せやね。やて、こらけもじぃねえ」
「けもじって?」
「おかしいって意味どす」
トメは告げると咲耶の足元を見やる。
そこには彼女の眼前に迫っていたはずのドリルが落ちていた。
ドリルの先、尖っているはずの部分が欠けている。何かが抉ったような跡にも見えた。
しかし大事なのはそこではない。
「おお、すげえすげえ。まだ回ってるよ」
シリウスがサビクの背後から顔を覗かせた。
「良かったね、シリウス。調査対象が目の前にあるよ」
「探す手間が省けたぜ!」
シリウスがドリルに手を伸ばそうとするが横から遮られた。
「ちょっとごめんね」
朋美が指先を向けるとすぅっとドリルが宙に浮く。サイコキネシスだ。
くるくるとその場で360度回して見る。ドリルの様子を注意深く観察した。
「どこにでもありそうな感じだな」
「そうだね。でも製造所の印字がないよ。こっちの子も機械というより生物みたいな……表面は原始的な構造なのに細部が生体的というか、こんなの見たことないよ。解体してもいい?」
「だ、駄目ですよ!? それ兄さんのお手製なんですからっ!」
ロボットもどき、ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)の頭らしき場所を撫でる。
「武装の制御しすてむニ、えらーガ発生シマシタぱーじシマス」
機械音声が発せられた後、胴体から伸びた手らしきものに付いていた各種道具が路上に散らばった。ほとんどの物がその動きを止めているが、一部機械が止まらずに動いている。
「こらこれで調べるとして、暴走しなはった時どなたはんが使こうてたのか、お話を聞かせておくれやす」
トメが咲耶と話している横で朋美がシリウスに声をかけた。
「トメが事情を聞いている間に、ボクたちはこっちを調べようか」
「おっけー。さっさと調べてラインナップ現象の原因を究明してやるぜ」
「だから『ラップ現象』だってば……それにどちらかといえばポルターガイスト現象だと思う」
一波乱はあったものの彼女たちは調査を続けることができた。
■
シリウスらが暴走したハデスの発明品と対峙していた頃、街の北側で彼女らと同じように暴走した機械について調べている者たちがいた。
「パラミタの多くの物は機晶石や機晶エネルギーで動いている物が多いですよね」
そう告げたのは富永 佐那(とみなが・さな)だ。
彼女はパートナーのエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が手にしている証拠品を見つめている。それは件のまな板まで綺麗に捌いてしまった包丁だ。危険物として倉庫に送られる前に拝借したのだ。
「暴発したやつも現物が見たかったけど、お話が聞けただけ良しとしましょう」
「そうね。いまのところは佐那の予想通りだわ。これも猟銃も全部――」
エレナは佐那をまっすぐに見つめながら、おそらく真実であろうことを口にした。
「機晶石が使われてるわ」
単に『動作しない』であれば純地球産の機械という可能性があったが、今回の事件はその逆である。パラミタで使われている機械、その多くに機晶技術が用いられているのは『動作しなくなる可能性がある』という特殊な環境下でも安全に機械を運用するためだ。
エレナの手にした包丁の柄には機晶石がはめ込まれていた。
どうやら刃の部分を熱するような造りになっているようだ。
「おまたせー」
彼女たちが声のした方に振り向くと、体格の良い猿人ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)を引き連れて笠置 生駒(かさぎ・いこま)がこちらに手を振っていた。
「お疲れ様です」
「調子はいかが?」
「話は色々聞けたよ。お土産ももらってきた」
笠置の言うお土産が見当たらない。
ジョージの方を見やると、棒に横板をつなぎ紐を結びつけた道具を手にしていた。棒の先の方には円盤も付いている。
「それはなんですか?」
佐那が問いかけるとジョージは胸を張ってご満悦な表情を浮かべる。
「ライターじゃ」
「だいたい合ってる」
笠置はポケットからライターを取り出した。
離れて、と二人に言うと火をつける。
ゴォウという音と共に熱波が周囲に広がった。ライターの先から火柱が上がっている。
「これがお土産ね」
「これも機械の暴走ですか……」
呆気にとられているエレナと佐那にジョージはふん、と鼻を鳴らすと言った。
「いまの奴らは何でもかんでも機械機械よ。自分で制御できない力を持て余すと今回のような大きな事故へとつながるのじゃ。それに比べてこれは素晴らしい」
彼は手にした道具を構えた。
棒の先、枯葉がいくつも置かれている。
上下に横板を動かすと棒の部分が回るようになっているらしく、しばらくすると枯葉から煙が上がってきた。
「ああ、なるほど。たしかにこれはライターですよね」
「生駒の手にしているものよりも安全かつ単純な作りじゃ」
ジョージは周囲の奇異の視線を何故か誇らしげに受け止めているようで、いわゆるドヤ顔を浮かべていた。
「ところでそのライターは?」
「着火しにくいって言ってたから改造してみたんだけど」
想定以上の火力が発生してしまったらしい。
これは使い物にならないということでもらってきたようだ。
「佐那、これにも機晶石が使われてますわ」
「それがどうしたの?」
「実は……」
二人は笠置に現段階での推測を述べた。
ちなみに蛇足になるがジョージの手にしている道具を用いた火おこしの方法は『マイギリ式火起こし』とよばれている。
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