リアクション
空京の新年 「そこは、アニスの指定席なんだもん」 炬燵に入った佐野 和輝(さの・かずき)の膝の上に乗った佐野 悠里(さの・ゆうり)を見て、アニス・パラス(あにす・ぱらす)が言いました。 「お義姉ちゃん、よくお父さんと一緒にいるから、たまには譲ってほしいですわ」 もう、てこでも動かないぞと、佐野悠里が佐野和輝の膝にしがみつきます。 「アニスちゃん、こっちこっち」 それを見た佐野悠里が、あいている自分の膝をポンポンしてアニス・パラスを誘いました。 「ルーシェリアお姉……おっ、おっ、おっ義母さん。いいの?」 ちょっといっぱいいっぱいになりながら、アニス・パラスが佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)に聞き返しました。 「いいんじゃないか?」 「うん、そうする」 佐野和輝に言われて、わーいとアニス・パラスが佐野ルーシェリアの膝の上にちょこんと座りました。 家族揃っての年の瀬は初めてです。 佐野ルーシェリアの作ったおせちをつまみながら、炬燵で大晦日のテレビを見ます。 「今年もいろいろあったが、未来から俺たちの子供がくるのは一番だったかもな」 膝の上の佐野悠里の顔をのぞき込みながら、佐野和輝が言いました。 「アニスは二番?」 アニス・パラスが、プーッと頬をふくらませます。 「アニスちゃんは、私の一番ですぅ」 佐野ルーシェリアが、アニス・パラスの顔をのぞき込んで言いました。 「わーい」 アニス・パラスと佐野悠里が、なんだか喜んだり、張り合ったり、うらやましがったり、まるで本当の姉妹のようです。いえ、そうなったのですね。 「テレビで、何か叩いているけど、あれってなあに?」 「ん? あれは除夜の鐘だな。あれを叩いてから、新年おめでとうって言うんだ」 そう説明する間に、カウントダウンが始まりました。四人揃って、その時を待ちます。 5、4、3、2、1……。 「あけましておめでとうございます」 四人が声を揃えて言いました。 ★ ★ ★ 「はい、二人ともいいかあ。じゃあ、始めるぞー」 空京大学の修練場で、立会人の霧丘 陽(きりおか・よう)が言いました。 那由他 行人(なゆた・ゆきと)とフィリス・ボネット(ふぃりす・ぼねっと)にとっては、年末年始もありません。日々修行。これのみです。 とはいえ、さすがに疲れるでしょうし、霧丘陽としてはお正月も楽みたいですから、隠れてちゃんとお雑煮は用意してあります。組み手が終わってくたくたになったところで、タイミングよく出す予定です。 「行くぜ!」 開幕早々、那由他行人が突っ込んでいきました。 クリスマスはフィリス・ボネットが風邪をひいて寝込んでしまったため、修行はお休みでした。その分、体調万全な今日は、全力で戦えるはずです。 「さあ、来い!」 久々の組み手に、フィリス・ボネットもやる気まんまんでした。 突き出されてきた那由他行人の拳を、フィリス・ボネットが手の甲で受けて横へと流します。 その瞬間、フィリス・ボネットがあれっと言う顔をしました。 踏み込みが甘いのです。そのため、威力が予想以下でしたので、簡単に受け流すことができました。 「甘い!」 即座に、横に回り込んで手刀を叩き込もうとします。けれども、その攻撃は完璧に那由他行人に避けられてしまいました。今回の動きは完璧です。そうすると、先ほどの攻撃の緩さはたまたまだったのでしょうか。 素早く体を入れ替えると、今度は那由他行人の回し蹴りが飛んできました。その速さに、避ける暇がありません。あわててフィリス・ボネットが腕でガードしました。 弾き飛ばされると思ったのも束の間、那由他行人の足がフィリス・ボネットの腕にちょこんと当たります。ほとんど寸止めです。 当然、反撃に出たフィリス・ボネットが那由他行人の足を捉えてすくい投げをします。 「や、やるようになったな」 一本とられたと、倒れた那由他行人が言いますが、フィリス・ボネットとしてはもの凄く不満です。 「何だよ、そのへっぴり腰は! 組み手だからといってオレに負けるようじゃ、背中は預けないぜ!」 「言うようになったな。よし、もう一度だ!」 素早く立ちあがって、那由他行人が言いました。 ピョンと身体のバネを使って一瞬で立ちあがるその身のこなしに、ちょっとだけフィリス・ボネットが見とれます。 「はい、じゃあ、もう一本!」 霧丘陽が、再び開始の合図をしました。 ところが、やはり同じで、どうしても那由他行人が寸止めしてしまいます。どうも、フィリス・ボネットが本当は女の子だと知ってしまってから、無意識に手加減してしまっているようです。 「うう、今日は調子悪いのか?」 「もしかして、調子悪い?」 奇しくも、二人から同じ疑問がわきあがります。クリスマスのときのフィリス・ボネットのように、病気なのかもしれません。どんな病気かは、推して知るべしなのかもしれませんが。 「じゃあ、そこまで。終わりにしよう。ちょうど、お雑煮を用意してあるんだよ。さあ、食べようか」 パンパンと手を叩いて修行を終了させると、霧丘陽が二人に言いました。 |
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