校長室
学生たちの休日10
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★ ★ ★ お正月の晴れ着というのは、女の子たちにとってはやはりちょっと特別なもののようです。 「わーい、晴れ着だ晴れ着だー」 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)に着付けをしてもらって、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)もはしゃいでいます。 この日のために、水原ゆかりが特別に用意しておいた晴れ着ですので、苦労して着付けたかいもあるというものです。もちろん、水原ゆかりの方も、きっちりと晴れ着を着こなしています。どちらかというとお仕着せのようなマリエッタ・シュヴァールと比べると、ちゃんと着こなしていて自然です。 「さあ、ちょっと遅くなっちゃったから、急ぎましょう」 晴れ着を着たからには、やはりお正月は初詣からです。そういう言葉が自然と出てしまうところが、水原ゆかりが日本人だと言うことなのでしょう。 「ああ、ちょっと待ってよ。これ、意外と歩きにくいんだからあ」 慣れない晴れ着によちよちと歩きながら、マリエッタ・シュヴァールが水原ゆかりを追いかけていきました。 ヒラニプラ鉄道に乗ってしまえば、後は空京まではのんびりした魔列車の旅です。そのへんは、やはり初詣のことを考えてくれているのか、大晦日から元旦までは、ヒラニプラ鉄道も終夜運転をしていました。 「初詣のハシゴというのも珍しいですわ」 「まあ、たまにはいいじゃないか」 ヒラニプラ鉄道の客席には、源鉄心たちが座っていました。ちょっと大変かもと言うイコナ・ユア・クックブックに、源鉄心が少しごまかすように言います。 「お家に帰れば、またうどんがあるのにぃ……」 ティー・ティーの言葉に、それが嫌なんじゃないかと源鉄心がちょっと横をむいて引きつりました。 ★ ★ ★ 「なでなで、にゃ〜♪ なでなで、にゃ〜♪」 西村 鈴(にしむら・りん)が炬燵で猫のタッカとプリムを必死になでようとしています。けれども、警戒した猫たちは、一定の距離を保って、触らせてはくれません。 そこへ、奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)と雲入 弥狐(くもいり・みこ)がやって来ました。 「ほら、その子たちを解放して、出かけるわよ」 そう言われつつ、炬燵からズルズルと引きずり出されます。 「ああ、大切なにゃんこ分がぁ〜」 炬燵に潜り込んでいく猫たちを見て西村鈴が名残惜しそうに手をのばしました。 「いったいどこへ行くのよ」 「はつもうでだよ♪」 嬉しそうに雲入弥狐が言いました。そういえば、奥山沙夢は晴れ着を着ています。 「じゃあ、空京神社へ出発するよ」 そう言うと、奥山沙夢は雲入弥狐と西村鈴を連れて空京神社へとむかいました。 ★ ★ ★ 「それじゃ、出発するよ」 杜守 三月(ともり・みつき)が、杜守 柚(ともり・ゆず)を急かしました。 「ちょっと待って……。ん、大丈夫」 一所懸命メールを送信していた杜守柚が、小走りに追いついてきました。 晴れ着を着て空京神社へ初詣に行くので、高円寺 海(こうえんじ・かい)へお誘いのメールを出していたのでした。 「来てくれるといいなあ」 たびたびメールを交換したりはしているのですが、高円寺海も忙しいらしくてなかなか会うことができません。でも、さすがにお正月ですから、今なら暇だと思うのですが。ただ、帰省していないかだけがちょっと心配でした。 ★ ★ ★ 空京神社の札所の横には、巫女服姿のエンライトメントがででーんとおかれていました。客寄せパンダとしては、この上もなく目立ちます。 イコンに乗ってきた悠久ノカナタは、他のバイト仲間たちと共に、社殿の一画で巫女服に着替えていました。 「おお、これを着るのが、ちょっとした夢だったのだ」 初めてのちゃんとした巫女服に、キャッキャウフフしながら悠久ノカナタが袖を通していきます。 『さあ、多比良 幽那(たひら・ゆうな)に織田 帰蝶(おだ・きちょう)、アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)が、アルラウネたちによってたかって、巫女服に着替えさせられているぅ』 悠久ノカナタと一緒の場所で着替えをしている多比良幽那と織田帰蝶とアッシュ・フラクシナスを、キャロル著 不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)が勝手に実況します。ちなみに、キャロル著・不思議の国のアリスは巫女のバイトとはまったく関係ありません。 二人の着替えは、多比良幽那の連れてきたアルラウネたちがせっせと手伝ってくれています。 「うん、凄く様になっているのだよ」 「そうかな。どこかおかしいところないよね」 アッシュ・フラクシナスに力一杯褒められて、こちらも初めて巫女服を着た多比良幽那が、細々としたポーズをとって自分の着こなしを確認しました。 ★ ★ ★ 「準備できましたか?」 着替え終わったノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)が、別室で着替えている風馬 弾(ふうま・だん)の様子を見にいきました。 「ああ、ちゃんと着買えて……」 なぜか、一緒のバイトをするために巫女装束を着せられた風馬弾です。もともと中性的な顔立ちのため、あまり違和感がありません。 振り返って準備はできていると言いかけた風馬弾でしたが、思わずノエル・ニムラヴスの巫女服姿に見とれてしまいました。 「どうしたんです? 私の顔に何かついていますか?」 「いいや、なんでもないよ。さあ、頑張ってバイトしよう」 そう言うと、風馬弾がノエル・ニムラヴスと一緒に札所に出ていきました。