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【メルメルがんばる!】老夫婦の小さな店を守ろう!

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【メルメルがんばる!】老夫婦の小さな店を守ろう!

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「これ!お届けものでございます!」
 アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は老夫婦の店舗に転がり込むようにして入ってきた。
「ここに入り込むのに、随分苦労した」
 イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)は傷だらけである。
「よもや味方どうしで気づつけ合うところだったのだ」
 二人がバリケードを越え店舗に潜入するのに、相当骨を折ったらしいということは上がっている息の様子からもうかがえる。なによりもアルティアが手にしたピンクのリボンが汗でぐっしょりと濡れているのが、戦闘をかきわけて目的地にたどり着く事の困難さを指し示している。
「これは?」
 パートナーである非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が尋ねる。
「メルメルさんのリボン?!」
 声を上げたのは香 ローザ(じえん・ろーざ)である。
「そうですわ!これさえあれば、最後のイコンだってメルヴィア少佐が!……って、これって極秘事項でしたっけ?」
 なにをいまさら……とでも言いたそうに賢狼は「くぉん」と吠えた。
 熾月 瑛菜(しづき・えいな)らが闘っているイコン離偉漸屠に乗っているのが、今回の騒動を引き起こしている蛮族のリーダーであることは、空から状況を観察してくれていたリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の情報で、全員に知れ渡っている。リースの情報によれば、たったいま、対イコン戦の応援部隊である夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)阿部 勇(あべ・いさむ)ルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)が現地に到着し、戦闘に加わったということである。
 瑛菜を先頭にした先発部隊のルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)国頭 武尊(くにがみ・たける)騎沙良 詩穂(きさら・しほ)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、後に現場に向かった龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)と共に、救護班の手当てを受けているらしい。
「えーと。メルメルさんは……」
 香が一体のヌイグルミをさし出す。
 きょとんとした瞳で見つめ返すアルティア。
「え?」
「そ」
「え?」
「これが……メルメルさん」
「ヌ、ヌイグルミ〜!」
「……流石にヌイグルミにリボンつけてもね〜……」
 あはは。と笑う二人に
「失礼」
 と声を掛けて、イグナはピンクのリボンを指でつまみ上げた。更に
「失礼」
と声を掛けて、そのリボンをメルメルヌイグルミの髪を結いあげるように、結んでいく。
「ま・さ・か・ねー?」
 そう言いつつも、香はその後目にした光景を未来永劫忘れることはなかったという。


「儂が注意を引くから、勇が制御系の位置を割り出せ!」
夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)はパートナーの阿部 勇(あべ・いさむ)に言い渡すと、自らはイコン離偉漸屠のキャノン砲を警戒しながら、鉄下駄でステップを踏み、タップダンスを踊っている。
「踊ってる場合ですか」
 勇は頭を掻きながら、夜刀神の覚えたてのステップを横目で眺めていた。
「注意を引いているのだ!ぶつくさ言わんと、早く!」
「はいはい」
「錬金術の魔導書的に言わせてもらうと整備が悪いせいかあの辺の装甲、大分もろいよ!」
 ルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)は阿部に助言をする。
「もろいはずなんですけどねぇ。なんせあの5人がボッコボコにぶちのめした後ですから」
 先発隊の瑛菜達はほぼ肉弾戦で一体のイコンを倒し、もう一体のイコン、リーダーの乗りこんでいる離偉漸屠の解体に取り掛かっていた。夜刀神が現れたころには、すでにイコンも瑛菜達もボロボロの姿であったが、体力的にはイコンに分があった。現在瑛菜達は救護班に囲まれ、身動きがとれない様子である。
「まだまだやれるぞって雰囲気ですけど、ここは僕たちに任せてくださいっと!」
「まだかー!」
 夜刀神はステップを踏みながら、イコンの猛威を間一髪のところでかわし続けている。
「ジャンクパーツをあさりに来たんですが・・アレをジャンクにするのもいいかもしれませんね……草薙!イコンの首の裏に【神意の矢】で矢を突き立ててください」
「簡単に言いすぎであろう」
 そう言いながら草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は【神意の矢】を構え弓を目いっぱいに引き絞る。
「当たる」
 一閃、【神意の矢】がイコンの首筋に突き刺さった
「見事だ!」
 夜刀神が吠える。
「わらわと対峙したのだ。当然であろう?」
 一本に束ねた銀髪が弓なりにしなった。
「サンダーブラスト!」
 ルルゥが突き刺さった矢を避雷針に見立てて、電撃を喰らわす。
「ぎゃああああああ!」
 と、コックピット内で悲鳴がする。イコンが止まったその一瞬を夜刀神は見逃さない。渾身の力を込めて百獣の剣をイコンの首筋につきたてる。
「硬い!」
 百獣の剣は5センチほど食い込んだだけでそれ以上潜っていかない。
「気合が足りないなぁ!気合がぁ!」
 自らを鼓舞するように言い放つと、食いしばった歯が欠け落ちる程にさらに力を体内で練り込み、一気に両腕に放出する。
「ごらあああああああ!」
 百獣の剣はめりめりとイコンの首筋深く突き刺さり、イコンは制御を失ったかのように暴れる。地表に投げ出された夜刀神にイコンの出鱈目な拳が襲いかかった。
「雷術!」
 百獣の剣に更なる電撃を加えたのはルルゥである。イコンの腕は完全に制御を失い、逆関節に引っ張られるようにして、へし折れた。
「やりましたかね?」
 阿部は冷静にイコンの更なる動きを観察している。
「これは……まずいかもしれませんよ」
 阿部の表情が曇り始める。
「制御を失ったのはいいですけど……暴走が始まりそうだ!」
 イコンは更なる矢を打ち放つ草薙の真横を走り抜け、巨大な脚先をバリケードに向けて走り始めた。
「止まれ!この野郎!」
 夜刀神が必死でイコンの背中にくらいつくが、一度制御を失ったイコンが、その足並みを止めることはなかった。
「これじゃあ、さっきの二の舞じゃない!」
 ルルゥは青ざめた表情で草薙を振り返った。もう一度バリケードに大きな衝撃が伝われば、蛮族は一気に店舗になだれ込む危険性がある。
「だいじょうぶだろう」
 ルルゥの言葉を草薙は軽くいなす。
「だいじょうぶって?」
「夜刀神!そこを離れろ!」
 草薙は大声で指示をする。
 夜刀神はイコンにしがみついたまま、前方に迫るバリケードに目を向けた。
「!」
 バリケードの前に悠然と立つ、その姿を見て、夜刀神はイコンから滑り落ちて地面に顔をしこたま打ちつけた。
「あれは!」
 気絶寸前の夜刀神の目に映ったのは、銀色の髪にピンクのリボンをくくりつけたメルメルであった。しかし、
「なんでヌイグルミ?」
 体長50センチほどの綿と布で出来た、可愛らしいヌイグルミではあったか、その瞳から漏れだすオーラは神話時代の神の如く、圧倒的な光を放っていた。
「斬糸!」
 そう言い放ち、急加速しつつイコンとすれ違うヌイグルミは、“軍人モード”のメルメルそのものであった。すれ違い、数秒後にはバラバラに解体されたイコンの姿を眺めながら、夜刀神はほっとしたように瞼を閉じ、意識を失った。