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リアクション
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「ニルヴァーナ大陸、再廻の大地の北に、繊月の湖と呼ばれる大きな塩湖があります。この湖の南端に作られたのが、こちら水上の町アイールです。
まだまだ発展途上ではありますが、ヴァイシャリーや中世ヨーロッパの町並みにも似た美しいこの水上都市は、保養地としても観光地としても注目されています――」
「ええと……これって、どういう……」
アイールの町へ観光に訪れた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)は、湖畔に建つ城を見上げて首を傾げた。
観光パンフレットから想像するに、ドイツやイギリスなど湖の傍に建つ美しい光景を想像していたのだが、――いや、城自体は美しい。まだ新しいこともあって、歴史の持つ重みや、幽霊が出そうなおどろおどろしさはなく、むしろ某お姫様の名を冠した城のようであるが、風景に溶け込んだ造詣の美しさは、観光名所として非の打ちどころがない。
だが、しかし。
祥子の目の前にあったのは、大きな池だった。繊月の湖を一部利用しているらしい。向こう岸に渡るには、飛び石を渡っていくしかない。渡された地図によれば、吊り橋もあるようで、
「……これってどう見てもあれよね」
「何?」
白蛇型のギフトである義弘は、しゅるしゅると音を立てながら祥子の首に軽く巻き付いていた。
「昔、日本のテレビ番組でやってた視聴者参加型のアトラクションのお城。挑戦者は城攻めのつもりで場内のアトラクションをクリアしていくっていう」
「そんなのあったの?」
義弘は池を眺め、「これ、空飛んじゃ駄目なの?」
「駄目……じゃないと思うけど、それじゃつまらないし……」
「……何しに来たのさ?」
観光には来たが、アトラクションに参加するつもりではなかったはずだ。ちなみにリタイアすれば、無論、楽に出口へ誘導される。だがそれは、祥子には選択できない道だった。
「ふ、ふふ……」
「な、何? まさか……」
「よろしい! ならば城攻めだ! 浮石でも吊り橋でもなんでも持ってこんかーい!!」
「本気!?」
一切の術も技も使わず、祥子は己が身一つで出口を目指した。
「行くわよ!!」
そして最初の一歩を踏み出し、――落ちた。
風雲レティロット城からほど近い場所に、ステキハウスはあった。ニルヴァーナでのステキな出来事を語り合う場で、訪れた人々が持ち寄ったお菓子や飲み物が置かれている。
アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は責任者の一人として、店の飾りつけ、掃除、食べ物や飲み物の管理を行っていた。
その日は暇だった。
タッタッタッという足音が近づいて来たかと思うと、扉が勢いよく開かれ、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が飛び込んできた。
「いらっしゃ――」
「す、すみませんが、女性を二人見ませんでしたか!?」
「……見かけたと言えば見かけましたが」
暇ではあるが、客は皆無ではない。アルクラントは店内でジュースを啜っている二人に目をやった。
「ああ、いえ、双子みたいにそっくりな二人で、俺のパートナーなんですが……」
「はぐれたんですか? どこで?」
「ツギハギ横丁です」
「それは……難しいですな」
「ああもう、気を付けていたのに、どうしてはぐれるんだ!?」
真司は髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回した。先程から連絡を取ろうとしているのだが、人が多いからか、本人たちが迷子に気付いていないのか、はたまた別の要因があるのか、テレパシーがなかなか通じないのだ。
「それなら見かけたの」
と言ったのは、たった二人の客の一人、及川 翠(おいかわ・みどり)だ。
「本当ですか!」
「と、思うんだけど」
翠とミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は、ツギハギ横丁に街頭テレビを設置した帰りだった。
「あなたの言う二人かは分かりませんが、確かにそっくりな容姿の女性二人は見かけました」
「顔はこれなんですが」
真司は写真を見せようとしたが、翠もミリアもかぶりを振った。
「さすがに顔までは……」
そうですか、と嘆息した真司だったが、その瞬間、フレリア・アルカトル(ふれりあ・あるかとる)の声が彼の脳裏に響いた。
「フレリア!? 今どこだ!? 迎えに行くから、動くなよ!?」
どうやらまだツギハギ横丁にいるらしい。真司は三人に頭を下げると、来たときと同じようにステキハウスを飛び出していった。
「見つかるといいですな」
「そうなの。――それはそうとアルクラントさん、テレビ、見てねなの」
「ああ、何やら暴露番組を放映するとか。楽しみですな」
「それで、もしそれを見て何らかの反応を示す人がいたら、教えてください」
「……いればね」
本日の客は、翠、ミリアと真司の三名。番組が始まるまでに、他に人が来るだろうかとちょっと心配なアルクラントだった。
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