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リアクション
第三章 空京迷子
「地球からお越しのみなさん、おはようございます。本日は空京にお越しいただき、まことにありがとうございます」
一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)がガイドマイクを手にしてアナウンスしている。
「空京はシャンバラ王国の首都であり、特殊な結界が張られています。
この結界により空京地区はパラミタであると同時に地球でも状態となっております。
その為、コントラクターではない地球の人々もパラミタから拒絶されることなく滞在することが可能です」
仁科 耀助(にしな・ようすけ)が続けて言う。
「年末の空京は非常に混雑いたしまーす。迷子とひったくりが多発しております!
みなさま、貴重品はお手元から離しませんよう、お子様の手は必ずつないで、安全な旅をお楽しみください!」
--------
シャンバラ宮殿前の迷子センターではローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)の披露する手品に迷子たちが歓声を送っていた。
『正直、迷子の世話すんの面倒なんで放置しときたいが……』
ローグは内心そう思いながらも、この”迷子センター”にいる。
『この時期は親も買い物などで忙しいでしょうから、迷子が出てしまうのは仕方ない……が』
ローグは手品で増やしたボールを目の前にいる少女に手渡しながらこう思っていた。
『こういう小さな子供なら”迷子”になるのもわかる。フルーネより10歳は年下なんだろうし』
ローグと一緒に街に来たフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)が”迷子になってしまっている”のだ。
『――いい歳して”迷子”。届け出るのも気が引けた……コアトルは”ギフト”だからまだいいが』
もう一人の契約者、コアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)も迷子になってしまっているのだ。
『コアトルの場合、飛べるのだから、飛んで探してくれればこちらも見つけやすいんだが……』
ローグは空を見つめるが、スパイクバイクや小型飛空艇らしきものしか見えておらず、生物の飛行物体はまだ見ていない。
ローグとフルーネ、コアトルの三人は一緒に空京の街を歩いていたのだが、
ふと気が付くとフルーネがいなくなっている。
しばらくするとショップの買い物袋を持ったフルーネが帰ってくる。
買い物袋をフルーネがローグに押し付けて、カメラを構えて走って行く。
帰って来たと思うと買い物袋が増えている。
またその買い物袋を渡されて――を繰り返しているうちに
フルーネが長時間帰ってこなくなった。電話をすれば気づくだろうとローグがフルーネの携帯に電話したところ、
着信音は無情にもフルーネから押し付けられた買い物袋の中から聞こえてきた。
コアトルがいなくなったのはその直後である。おそらくフルーネを探しに行ってしまったのであろう。
同行者2人がいなくなってしまった。下手に探し歩くよりも、”迷子センター”に届け出て、ここで待つのが得策だとローグは考えたのだ。
空京の街に迷子さがしの放送が流れる。
「迷子センターからのお知らせです。ローグ・キャスト様とお越しのフルーネ・キャスト様、フルーネ・キャスト様、
同じくローグ・キャスト様とお越しのコアトル・スネークアヴァターラ様、コアトル・スネークアヴァターラ様、
シャンバラ宮殿前迷子センターにてローグ・キャスト様がお待ちです。最寄りの係員、またはシャンバラ宮殿前迷子センターにご連絡ください」
佐野 悠里(さの・ゆうり)は迷子センターで子供たちの相手をしていた。
泣いてやってきた子供に声をかけ、ローグの手品ショーを一緒に見に行く。
ローグは簡単な手品を披露し、その手品の方法を子供たちに教えていた。
『迷子の子たちは心細いですから、年の近い悠里ちゃんが遊び相手として居た方が安心できるですぅ』
悠里の母、佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)はこう言って悠里に迷子センターの手伝いを頼み、ルーシェリア本人は迷子の親を探しに出ていた。
一緒に遊ぶうちに先ほどまで泣いていた子供も手品に夢中になり、悠里に笑顔をみせるようになった。
『確かに同じか、近い年の子がいると遊んだりするのも楽しいわね』
悠里はそう思った。そしてルーシェリア達が彼らの親を早く見つけてくれるように願うのだった。
「オレもさっきの黄色いねーちゃんも魔法少女なんだ。信じないか? 見てな」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は超薄型スマートフォン『魔法携帯【SIRIUSγ】』を起動し、
子供らの前で「変身!」といってポーズをとった。
子供たちは魔法少女の姿に変身したシリウスに歓声を上げている。
「魔法少女に不可能はねぇ! なぁんてな? みんなをここに連れてきた黄色いねーちゃんはこんなねーちゃんじゃなかったか?」
シリウスはスケッチブックに”黄色いねーちゃん”こと魔法少女ポラリス姿の遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)を描いて見せた。
子供たちは「こんなおねーちゃんだった」「そっくり!」とシリウスの似顔絵に感心しきっている。
「オレがみんなのお父さんやお母さんの似顔絵を描くからな〜。じゃ、君は今日は誰と来たのかな?」
「ママと」
「君の名前を教えてくれるかな?」
「えっとね」
シリウスが子供から情報を聞き出しつつ、その保護者の似顔絵を作っていく。
言葉よりも絵の方が小さな子供たちにはわかりやすいとシリウスは考えたのだ。
できた似顔絵はリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)がその子供の写真と聞き出した情報と共に迷子の親探しをしている寿子らに送っている。
ある子供はできた似顔絵をじっと見つめているうちに泣き出してしまった。おそらく似すぎていて恋しくなったのだろう。
リーブラがその子供に話しかける。
「大丈夫ですわ。ここにはたくさんの人が皆を守ってくれてますから。
さっきの黄色いお姉さんたちも一生懸命探してくれていますから……。きっとすぐ帰れますから……ね?」
シリウスも声を掛ける。
「すぐ見つかるから大丈夫、オレ達を信じろ。な?」
「こんな歌を聞いたことはありますか――昔々の不思議なシャンバラの歌ですわ」
リーブラが子守唄を歌ってみせる。その旋律とリーブラの歌声に泣いていた子供も落ち着きを取り戻していった。
「まぁ空京迷いやすいし。その上ひったくりやらカツアゲ犯やらいるから仕方ないっちゃあ仕方ないんだけど」
フルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)はこう続けて言った。
「さて、ローグはどこにいるやら」
まるでローグの方が迷子にでもなっているかのような発言だが、迷子になっているのはフルーネの方なのだ。
フルーネの目の前に迷子数人に囲まれた遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)がいる。
寿子は魔法少女ポラリスの姿で、ステッキ代わりの銃を手にして
「はうう……また迷子」
と呟いていた。
「あなた、”擬人化イコン”のBL漫画描く人だよね。キャラ具現化事件起こした人」
フルーネが寿子に言った。
寿子はフルーネに気づくと、
「ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)さんがですね、迷子センターにいます! 宮殿前の」
と言った。
「ローグ、迷子センターに保護されてるんだ」
「コアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)さんも迷子になっているそうです」
「コアトルの方は迷子センターに保護されていないってことかな?」
「そうです。捜索願がローグさんから出されているのです」
「わかった。ボクがコアトルを探しに行くから。ローグの保護、お願いね」
フルーネは寿子にそう言うと立ち去ってしまった。
寿子はフルーネを呼び止めたかったのだが、迷子たちが泣き出してしまって身動きがとれなかったのだ。
迷子の親を探している寿子だったが、魔法少女ポラリス姿の寿子に迷子が助けを求めて集まってきてしまう状態なのだ。
「迷子の保護も大事な仕事ですよね……でも、理子っち。本当に終わったら手伝ってくれるのでしょうか」
同人冬の祭典に出すコピー本の原稿がまだ途中なのだ。
終わったら原稿を手伝うと理子っちは言っていたが、本当に迷子の親を探し終えられるのはいつになるのだろうと寿子は気が遠くなる。
「親探しはルーシェリアちゃんとエヴァルトちゃんにお任せするしかないですね、今は」
佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)とエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が迷子の親探しをしてくれているのだ。
寿子は迷子たちを迷子センターに預けるべく、シャンバラ宮殿を目指して歩いた。
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